【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第14話 搜索されていた

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「おかしいわ……」

  生まれて初めての料理(と呼んでいいのかはよく分からない)の卵焼きを作り、レイさんに食べてもらった日の夜。
  何だか興奮してしまっていたようで、なかなか寝付けなかった。
  こういう時は開き直って読書よ!  リュウ様!  と、思って大好きな本を手に取って読み始めたけれど……

「いつもより、胸がキュンとしないわ」

  相変わらず、どのシーンでもリュウ様は変わらずかっこいいのに。
  特にこのムキムキの筋肉はやっぱり最高よ!
  最高なのに……

「レイさん……」

  頭の中に浮かぶのは、ヒョロっとしていてどこもムキムキしていないレイさんの姿。

  (どうしてかしら……)

  気付くと私、彼のことばかり考えている。
  貰った髪留めをつけていた事をあんなに喜んでもらえて、卵焼きもとても美味しそうに全部食べてくれたわ!  
  ちょっと厳ついながらも笑った顔に、涙を堪えている姿……

  レイさんは一緒にいてとても楽しい。

「付き合いだけは無駄に長かったウィル殿下にはこんな気持ち……感じた事なかったわね」

  これからもお友達として仲良くしてくれたら嬉しいと思う。
  そうよ、レイさんにはリュウ様も紹介しないといけないわ!

  (ムキムキなリュウ様を見たら、レイさんはどんな反応するかしら?)

  そんな想像をするだけでもドキドキして楽しかった。


  ───そしてその日の夜は、そんな事ばかり考えていて結局、眠れなかった。


❋❋❋❋



「───隣国……」
「王子が……」

  本日のお店のお昼時はいつもより混んでいた。
  注文を取っては運んで、手が空いたら厨房でお皿を洗って……そんな風に忙しくしていると、お客様の会話が少し耳に入って来た。

  (……隣国?)

  その言葉にドキッとする。
  久しぶりに耳にしたかもしれない。
  隣国なんて私にはもう関係ない──そう思っているのに、やっぱりどこか意識しているせいで自然と聞こえて来てしまう。

「最近、すっかり姿を見せていないらしい……」 
「……やはり、婚約者に逃げられたショック?」

  (何の話かしら?) 

  すごく気になるけれど、動きながらだと断片しか聞き取れない。
  だけど、この一言だけは聞こえてしまった。

「行方不明だという王子の婚約者……どこにいるんだろうな。搜索してもなかなか見つからないって話だが」

  ─────搜索!?
  まさか、王家……殿下は私を探しているの!?

  (どうして……?)

  理由が分からない。何で?
  殿下にはコーディリアがいるのだから、私は居なくても……

  (まさか、お告げが指しているのは本当に私……?)

  どうしよう……どうしよう。   
  捜索の手が国内で終わらず、この国まで来てしまったら?
  ここにも迷惑がかかってしまう?
  ダメ!  それだけは嫌だ!



「───リアちゃん、お疲れ様。今日もお昼は人が…………ってリアちゃん!?」
「え、あ……の?」

  私の顔を見た奥様が慌て出す。

「顔色が良くない!  あぁぁ、そうだよね……ずっと動き回っていたものね」
「あ……」
二階部屋で横になって休んで来て、こっちはもう大丈夫だから」 
「で、でも……」
「休むことも仕事の一つだよ、リアちゃん」

  無理はいけない。
  奥様にそう言われて私は部屋に戻る事にする。

  顔色が悪い……
  そんな事、初めて言われた気がする。
  
  (今まではどんなに疲れていても……頭が痛くても気がついてくれる人なんていなかったから)

  そんな過去を思い出しながら、部屋に戻ろうと店を出て外に回ろうとした時だった。

「……リア?」
「!」

  声をかけられて──ドキッと私の胸が跳ねる。

  (この声は……)

「リア?  どうしたんだ?  まだ、仕事中では?」
「レ、レイさん」

  そっと振り向くとそこに居たのはやっぱりレイさんだった。
  レイさんは振り向いた私の顔を見るなりハッとした。

「……リア!  顔色が良くない!  真っ青だ!」
「……」

  あぁ、レイさんも気付いてくれるのね?
  その事を密かに嬉しく思った。
  と、同時に今日はお話出来そうにない事を残念に思う。

「いらっしゃいませ、レイさん……」
「リア」
「ごめんなさい、今日は体調がよくなくて……このままお休みを…………っ!」

  そこまで言いかけた所で、クラっと目眩がした。

  (あ……ダメ……)

  立っていられず、身体がよろけてしまう。

「……リア!」
「……」

  そんな私をレイさんが抱きとめてくれた。
  申し訳ないと思いつつ、その温もりにホッとしている自分もいる。

「大丈夫か!  リア……!」
「……」

  レイさんのお顔が厳ついわ……
  ふふ、きっと、私のことを心配してそんな表情に……

「リア!  なぜ、そこで微笑む!?  君って人は本当に……」
「……レイさ」
「リア、このまま失礼するぞ!  君を部屋に運ばせてもらう!」

  (───え?  え?)

  そう思った時には私の身体がフワリと宙に浮く。
  少し経ってから、レイさんに抱き抱えられているのだとようやく理解した。

  (こ、これは!  リュウ様お得意のお姫様抱っこ!?)

  ま、まさか!
  げ、現実で私が経験するなんて!

「リアの部屋はこっちか?」
「……」

  コクコクコク……
  私は無言で頷く。
  
「よし分かった!  リア、安心しろ。すぐに休ませてやるからな!」

  なんて頼もしい言葉……
  クラクラする頭でそんな事を思う。
  それに、お姫様抱っこ……知らなかった。リュウ様のような筋肉ムキムキでなくても、こうして簡単に抱えられちゃうものなのね……?
  男の人ってすごい……

  (そして温かい……この温もり……好きだわ)

  リュウ様に抱き抱えられて、ときめいていたお姫様の気持ちが今ならよく分かる。
  こんなの私がお姫様みたい……幸せ。

  ズキッ……
  頭まで痛くなってきた。
  せっかく幸せな気分だった、のに───……

「リア、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……です」
「……リア」
「……」
「リア?」
「……」

    大事な大事な宝物のように優しく運んでくれるレイさんの温もりに包まれて、幸せな気持ちのまま私は意識を失った。
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