17 / 53
~レイノルド・アクィナス~
しおりを挟む───きっと笑ったら、すごく美しくて綺麗なんだろうな。
リアを見る度にずっとそう思っていた。
なぜなら、時折見せてくれる微笑みですら、他の誰にも見せたくないくらい綺麗だったから。
(───だが!)
リアの心から笑った笑顔がこんなにすごい破壊力だなんて聞いていない!!
「……」
「レイさん!? 大丈夫ですか!?」
リアの笑顔に見惚れて椅子からずり落ちてしまった私に、リアが心配して駆け寄って来ようとする。
「だだだだ大丈夫だ!! じ、自分でた、立てる!」
「え?」
私は慌てて駆け寄ってくるリアを手で静止し、何とかヨロヨロと立ち上がる。
リアはきょとんとしてるが、今、リアに近付かれたら、自分はリアに何をするか分からん!
うっかりこの手を伸ばしてその柔らかい身体を抱きしめ、うっかりこの溢れんばかりの愛を告白してしまいそうだ。
(まだ駄目だ! リアは“友達”を望んでいる!)
あんなに“友達”に嬉しそうだったリア……今、実は私が友達以上の関係を望んでいると知ったら悲しむかもしれない。
それに、リアの好みだというとっってもかっこいいらしい“リュウ”という男の調べが終わっていない。
もしかしたら、甘いマスクの男なのかもしれん。……が!
(絶対にリア好みの男になって愛を告げるんだ!)
いったいどんな奴なんだ……リュウ!
❋❋❋❋
「……へ、平民の女性を妻に迎えたい……ですか!?」
側近のビリーが目を丸くして驚いている。
「そうだ。周りにゴネそうな奴はいるか?」
「や、それ……以前にですね……こ、これは、なんの心境の変化ですか? レイノルド様!」
「……」
「あなた様はこのまま独身を貫き、跡取りは養子で構わない……と散々言って……!」
あぁ、そうだったさ。
顔が怖いだのなんだの言って引き攣った笑みを浮かべながらも擦り寄ってくる令嬢や、一目見ただけで「ごめんさぃぃぃーー殺さないでぇぇ」と泣き叫んで逃げていく令嬢に辟易していたからな。
だけど、そんな気持ちも吹き飛ばすくらい、生涯をかけて守りたいと思える女性に出会ってしまったのだからしょうがないだろう?
「レイノルド様! ここ最近、よく街に行っているなとは思いましたが……まさか、視察……仕事ではなく逢い引き!」
「違う! 顔を見たくて(食堂に)会いには行っていたが、あくまでも仕事の合間に少し顔を出していただけだ!」
「では、美味しい肉屋に関する情報収集は……」
「くっ…………そ、それは」
それは、仕事ではない…………な。
だが、リアが肉が好きだと言っていたから……それなら喜んで貰いたいじゃないか!
そして、もっとリアにこの街を好きになって貰いたい!
───この街の“領主”としても。
私は、レイノルド・アクィナス。“レイ”は街での偽名だ。
そして、私はこの街……アクィナス伯爵領の領主だ。
と言っても、最近継いだばかり。
そろそろ、自由に生きたい! 世界旅行に行きたい! という両親の謎の冒険心により、突然なんの心構えもないまま王都から連れ戻された。
私がこの土地に住んでいたのは子供の頃のみだ。なので、今は街のことを知ろうと思い、“レイ”として各地を回っていたのだが……
「……いったい、どんな方なんですか……その方は。あなた様がそんなにも骨抜きになるなんて……」
「女神だ」
私は即答する。
リアを例えるなら“女神”しかないだろう?
だが、ビリーは顔を引き攣らせた。
「そんなっ! ──に、人間ではないのですか!?」
「バカ言うな! ちゃんと綺麗で美しい女性だ! 今日なんてこの世で一番美味い卵焼きを作ってくれたんだぞ!?」
見た目じゃない。
リアは見た目も確かにすごく美しいが、私がリアのことを綺麗で美しいと思うのは、何よりあの“心”だ。
仕事中の細かい気配りも凄い。
彼女は周囲をとてもよく見ていて、さり気なく客が快適に過ごせる空間を作り出している。
リア自身は“笑顔が得意では無い”と言っていたが、そんな事は全く気にならない。
凛としていて美しいのに、よくよく話してみると行動や言動はすごく可愛い。
なんだあれ……
私はもう、リアがそこにいるだけで愛しい!
「た、卵焼き? えっと、に、人間様でしたか……それなら良かった、のですが……平民の女性を伯爵夫人とするのは……」
「周囲の反発か?」
「いえ、それも無くはないですが、まず教育が追いつくか……という問題ですね」
ビリーは貴族としてのマナーやしきたりやらが、などと言う。
文字だって読めるかどうか──
「…………それなら、心配は要らないと思うぞ」
「はい?」
ビリーは不思議そうに首を傾げる。
「……彼女は読書も好きらしいからな」
つまり、リアは文字を読める。
食堂で働いている時の様子から、すでにそれは分かっていたが。
と、言うよりも……
リアはおそらく、貴族だった女性だ。
それも、おそらく伯爵家以上の。
あの洗練された身のこなしに、美しい所作……あれは一朝一夕で身につくものではない。
相当な教育を受けているとしか思えない。
なぜ、平民としてあの食堂で働いているのかは不明だが。
(短く切られた髪にその辺の理由がありそうだな……)
だが、あの髪型はリアにとてもよく似合っている。
髪と言えば、あの髪留め……まさか、あんなにすぐに使ってくれるとは……
宝物ですと言ってくれた可愛かったリアの姿……思い出すだけで顔が……頬が緩む。
「ひっ! レイノルド様……その顔はっっ!」
「むっ?」
「嬉しい時の、え、笑顔だと分かっていてもヒヤッとしますよ……」
「そ、そうか」
もう、慣れたが私はいつもこうだ。
(……リアは一度も私を怖がらない)
なんなら、この顔を素敵だとまで言ってくれた。
リアの中で深い意味は無くても、私がどれだけ嬉しかった事か……
(リア……)
どんな経緯があってリアがこの街に来たのかは知らない。
言いたくないのにリアから無理に聞き出そうとは思わない。
だが……
リアが助けを求める時は、私は全力で彼女を守ろう。
領主として領民の幸せを守るのは当然だ。それを怠るつもりもない!
だが、まずは愛する人を幸せに出来なくては真の漢にはなれん!
私はグッと気合を入れる。
「……ところで、レイノルド様。そのお相手の方は伯爵夫人になる事をどうお考えのようなのですか?」
「まだ何も」
「……はて? まだ……何も……とは?」
ビリーの様子が変だな。
「彼女は私が“レイノルド”である事すら知らない」
「知ら……ない? でも、お付き合いを……交際をしている……のですよね?」
「なっ! こ、こ、交際だと!? そんな関係では無い! ま、まだ、と、友達だ!」
「とも……!?」
だが、私は決めている。ここから必ず友達以上に───……
「むっ?」
何故かビリーが青白い顔で床に深く沈んでいる。どうしたのだろうか。
「まさかの、か、片思い……つ、妻に迎える以前の話ではないですか……」
「いや、私には彼女しかいないんだ! その為に出来る準備は早くしておいた方がいいだろう?」
リアが色々戸惑ったら大変だろうからな。
「そ……その自信がどこから来るのか分かりません!」
「むっ?」
変なビリーだな。私はリアを生涯をかけて守りたいだけなのだが?
────
未来の伯爵夫人問題は一旦置いておくとして、仕事に取り掛かる。
そんな中、ビリーが気になる情報を持って来た。
「───隣国の様子がおかしい?」
「はい。最近、妙なんですよ」
「……」
そう言ってビリーから渡された報告書を手に取り、目を通す。
隣国と国境で接しているのは私の領だ。変なことに巻き込まれては困る。
「む……国内が荒れているな。特に王家の様子が……」
「何でも、人を探しているそうで」
「……人を?」
ビリーは神妙な顔をして頷く。
「最初はこっそり探していたようですが、最近はなりふり構わなくなったのか……大々的に捜索をしているようで」
「なんだと? 誰を探しているんだ?」
極悪犯か?
そう思って私は眉をひそめた……が。
「……王太子殿下の婚約者だそうです」
「婚約者?」
極悪犯ではないことにホッとしながらも、婚約者に逃げられたと言って、王家や王太子が大々的に捜索をしているのか? と驚く。
そんな私にビリーは続けて言う。
「彼女の実家も捜索しているようですね。よっぽど手放せない存在なのでしょうか」
「……それは凄いな。どんなご令嬢なんだ?」
私はリアがこの世で一番の女性だと思っているがな!
「───その彼女の名は、オフィーリア・タクティケル。隣国のタクティケル公爵家のご令嬢です」
140
お気に入りに追加
4,558
あなたにおすすめの小説
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる