【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第13話 お礼と初めての……

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「二人とも大丈夫かしら?」

  部屋に戻った私はそんな独り言を呟く。
  店主も奥様も盛大にすっ転んでいた。あれはちょっと心配になる。
  起き上がった二人は、深刻な表情で顔を見合せてうんっと頷いていたけれど。

「レイさんと友達になった事がそんなに不思議だったのかしらね?」

  だけど、今日は本当に素敵な日だったわ。
  誤解から始まった肉デートはドキドキしたけれど、とっても美味しかったし楽しかった。
  レイさんの情報収集能力は凄い!
  そして……

  (友達……)

「まさか、私に友達が出来るなんて……」

  やっぱり逃げ出して来て良かったわ。心からそう思う。
  ここには、私に冷たい目を向けて、クスクス笑いながら可愛げがない、能面と呼ぶ人もいない。当然、コーディリアとも比較されない。
  
「それだけで幸せだったのに……初めての友達、嬉しい……ってそうだわ!」

  私は慌てて手に持っていた紙袋を開ける。
  別れ際に真っ赤なお顔をしたレイさんが、五倍増しになった素敵な厳つい表情のままくれた紙袋。

「へ、へ、部屋に戻ってから、あ、開けてくれ!  今日の記念のプ、プレゼントだ!  ……と言っていたけれど?」

  街を案内してくれて、あんなに美味しいお肉をたくさん食べさせてくれて、更に記念としてプレゼント?

「レイさん……素敵すぎるわ」

  あんなにも素敵なのに、怖がって女性が寄ってこないだなんて……!
  全く、この国のお嬢さん方はどこに目をつけているのかしら!

  (レイさんの奥様になる人はきっと幸せね……)

  おそらく、貴族である彼にはすでに婚約者がいるなり、政略結婚なりでそのうち誰かと結婚してしまうのだろう。
  その女性がレイさんの顔を怖がったりしない素敵な人だったらいいな、と思う。

  ……チクッ

「……?  胸が痛い?  どうして…………って、今はそれより袋の中身よ中身……」

  何だか胸の奥がモヤッとしたけれど、深く考える事はやめて袋の中の物を取り出した。

「まあ!  素敵……!」

  中から出て来たのは、シンプルなデザインの髪留め。アクセントについているお花が可愛いらしい!

「……レイさんったら、この短い髪の毛でも使えそうな物を選んでくれたのね?」

  鏡を見ながらそっとつけてみる。
  短くなってから飾り気のなかった髪の毛が少しだけ華やかになった気がする。
  そう思ったら、すごく幸せが溢れてきた。
  今まで手にして来た豪華なドレス、宝石、装飾品たちの中のどんな物よりも嬉しい。
  
「…………きっと、この髪留めが“私のため”に選んでくれた物だから……だわ」

  お父様が買ってくれた物はいつだってコーディリアの“ついで”
  ウィル殿下がくれた物は、流行っているから、という理由で選ばれた物が多くて、全体的にゴテゴテしていてあまり好きにはなれなかった。
  それに、どちらかと言えば、コーディリアに似合いそうな物ばかりで私には似合っていなかったと思う。

  (でも、この髪留めは違う……)

  この髪留めをつけている所を見たレイさんはどんな反応してくれるかしら?
  笑ってくれる?  照れてくれる?  何割り増しの厳つい素敵なお顔になる?
  
「……ふふ」
 
  想像するだけで楽しい。
  これは絶対に何かお礼をしなくては……!

  そう考えていた私は、自分がこの時、自然と微笑んでいる事に全く気付いていなかった。


❋❋❋❋


「……リア!」
「レイさん!  いらっしゃいませ!」

  翌日、いつもの時間に変わらない様子でお店にやって来てくれたレイさん。

  (いつもの時間が近付いて来る度に、来てくれるかしらってそわそわしてしまったわ……)

  毎日来てくれるわけではないのに……でも、何となくだけど今日は来てくれる気がしていた。

「……くっ!」
「レイさん?」

  いつものように挨拶して出迎えたら、クワッとレイさんのお顔が厳つくなった。

  (え!  なんで?)

  そんなレイさんは、すぐに目線が私の目元に移る。
  そこでようやくその表情の意味を理解した。

「リア……そ、それ!」
「はい、ありがとうございました!  それで、早速……つけてみました……」
「リア……!」

  (あ!  赤くなったわ!)

  レイさんの顔が赤くなった。予想通りの反応が返ってきて嬉しくなる。

「き、気に入って……くれただろうか?」
「もちろんです!  これはもう私の宝物です。大事にしますね!」
「そそそそそうか!  よよよ良かった……ににににに似合っている!!」
「……!  あ、ありがとうございます……」

  店主夫妻を始めとして朝から色々な方に「それ可愛いね!」「似合ってるよ!」と、言われたけれど、今が一番嬉しい。

  (吃りながらでも、レイさんがくれる言葉が……一番胸に来るわ)

「……リア」 
「は、はい!」
「……俺は今、店を訪ねるのをこの時間にしておいて良かったと心から思っている」

  レイさんはお店の中をキョロキョロ見回しながらそう言った。

「え?  あ、はい……?」
「…………リア」

  私は、よく分からないまま返事を返してしまったのにレイさんは優しく笑ってくれていた。


───


「お待たせしました。ご注文のいつもの野菜スープです」
「ありがとう」

  レイさんの注文は本日も野菜スープ。
  なので、私は慣れた手つきでレイさんの元にスープを運ぶ。
  それと……

「そ、それから……これ、なんですけど!」
「ん?」

  私はスープの横にもう一つのお皿を置いた。

「リア……これは?  俺の注文はスープだけだぞ?」
「……」

  レイさんが首を傾げている。注文をしていないのだから当然だ。
  胸が破裂しそうなくらいドキドキしている。だけど、言わなくちゃ!

「わ、私からのサービスです……」
「リアからの……サービス?」

  レイさんの視線がお皿に向かう。  

「街案内と美味しいお肉……それから、プレゼントまで頂いたお礼で……」
「リア?」
「わ、わ、私が作りました!!」
「────え!」
「初めて作ったから、へ、下手くそでちょっと、こ、焦げてしまっていますけど……あ、味は大丈夫、だと……」

  (どうしよう……すごく恥ずかしい……)

  私が作ったのは卵焼きだ。
  公爵令嬢で王太子の婚約者だった私。当然、これまで料理なんてしたことが無い。
  だけど、どうしてもレイさんにお礼がしたかった。
  何かないかしらと思って、今朝、お店のご主人様に相談したら、「リアの手料理なら死ぬほど喜ぶんじゃないか?」と言われた。

  そこまで?  と思いつつも料理ならお礼になるかもと思って決めた。
  そして、料理をした事の無い私のためにと教えてくれて作ったものが……これ。

「リアの手作り……」
「レ、レイさん、いつもここで頼むのはスープだから、ちゃんとしたお食事は家で摂られていると思うんです……ですから卵焼きくらいならお腹の邪魔にならないかと、お、思いまして!」
「……」

  緊張しているせいで早口になってしまう。

「リアの初めて……」
「う、生まれて、は、初めてです……!  もしも、い、嫌なら自分で食べますから無理しないでも大──」
「いただきます!!!!」

  私が最後まで言う前に、レイさんは卵焼きの乗ったお皿を手に取ると、パクッと一口……

「……」
「……」
「……」
「……レイ、さん?」

  (ど、どうして無言なのーー?)

  ダメだった?
  美味しくなかった?
  そう思ってレイさんの顔を見たら……

「……!  レイ、さん!?」
「……」

  レイさんのお顔はいつもより五倍増しの厳つい表情になり、身体はプルプル震えている。

「う、う……」
「レイさん……」
「───美味い!  美味いぞリア!  俺はこんなに美味しい卵焼きを食べたのは生まれて初めてだ!!!!」
「!」

  まさかの褒め言葉に嬉しい気持ちと照れくさい気持ちが私の中に生まれる。

「お、大袈裟ですよ……」
「大袈裟なものか!  俺は今、幸せだ!  最高に幸せだ!  幸せで涙が出そうだ!」
「レイさん!」
「……い、いい歳した男が泣くのはみっともないから、が、我慢しているが……」

  (……!  まさか、あの五倍増しのお顔とプルプル震えていたのは涙を堪えていた……!?)

  そんなに喜んで貰えるなんて。
  私でも誰かを喜ばせてこんな顔にさせる事が出来るのだと思うと、すごくすごく嬉しかった。

  (私の方が泣きそう……)

  涙を堪えるためにそっと下を向く。

「……ん?  リア……?  どうした?」
「……」

  レイさんに声をかけられた私は、どうしても心からの喜びを伝えたい!
  そんな気持ちで顔を上げた。

「──私、レイさんに喜んでもらえて……嬉しいです!」
「ぅあっ!?  ……え、えがっおぅ!!!?」

  (……え?)

  何故か、もっと顔を真っ赤にさせたレイさんが椅子からずり落ちてしまった。

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