【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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閑話③ 破滅に向かう公爵家

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「畜生、オフィーリアはどこに行ったのだぁぁぁ!」

  オフィーリアが、行方知らずになってからすでに一ヶ月以上。
  その日もタクティケル公爵家では当主の怒りの叫び声が響いていた。

  可愛さの欠けらも愛想も無い……何を考えているのかさっぱり分からない娘……
  コーディリアが殿下に見初められたのなら、オフィーリアは居なくなっても困らない、そう思っていた。

  (何故だ!  何故、陛下はコーディリアを認めてくれんのだ!)

  陛下は頑なにオフィーリアでなくてはダメだという。
  なので、非常に不本意だがオフィーリアを探さなくてはならない。

  (その辺で野垂れ死んでいるかもしれんというのに、なんて面倒なのだ!)

  だが、今のところ、近くでそれらしき女性の遺体が見つかったという話は聞いていない。
  つまり、オフィーリアは生きている可能性が高い。
  まずは、その足跡を追うために、オフィーリアについて使用人たちに聞き込みをしたのだが───……

「オフィーリアが、何を持って出て行ったかも分からないだと!?」
「は、はい……申し訳ございません……」

  使用人たちが揃って公爵に頭を下げている。
  こいつらは、オフィーリア付きだったはずなのに、オフィーリアの事を何も知らないと言っていやがる。

「こっちは陛下にせっつかれているんだぞ!?」
「で、ですが……本当に我々には……」
「ああ、忌々しいオフィーリアめ……!」
 
  公爵は頭を抱えた。
  どんな服を持っていったのか、我が家から持ち出した物はあるのか?
  それらが分かれば少しは足跡が辿れたはずなのに。
  
「で、ですが、オフィーリア様は……おそらく装飾品よりお金を持ち出しているかと思われます……」
「金?  だと?」
「オフィーリア様はパーティー以外ではあまり装飾品を身につけておりませんでしたので……」
「何?」
   
  使用人たちの言葉に公爵は眉を顰める。

「そんなはずないだろう?  コーディリアが装飾品や宝石が欲しいという度に、一応オフィーリアの分も用意していたではないか!」
 
  ドレスだってそうだった。
  まぁ、コーディリアが10個買うならオフィーリアには1個だけだったがな。
  それでも与えてやったんだから感謝して欲しいものだ!

「そ、そうですが……その時に購入されたものは……その……」
「その、何だ?」
「え……と」

  公爵の剣幕に使用人は脅える。

「いいから、さっさと話せ!」
「オフィーリア様の持っていた物は……後々、コーディリア様が身につけておられる事が……多くて……」
「コーディリアが?」
「り、理由は分かりません……ですから、オフィーリア様は装飾品はあまり手元に無かったのでは、と思われ……ます」

  使用人は青白い顔のままそう言った。



  それから、三日後。
  コーディリアと話をしたくてもすれ違いが続いていたが、ようやく顔を合わせる事が出来た。
  なので、使用人たちが言っていたオフィーリアの装飾品について訊ねてみた。
  
「お、お姉様が……いつも無理やり私に押し付けてきたんです……お父様……」

  目に大粒の涙を浮かべながら可愛い娘、コーディリアはそう言った。

「……オフィーリアが押し付けてきた?」
「そうです……“こんな安物いらないわ”“王太子妃となる私には全く相応しくないわ”“みすぼらしいコーディリアわたしにはピッタリよね!  ”と言って……」
「なん……だと?」
「ついでに“お父様ってセンスが無いわよね”とも言って……バカにして、ました」
「~~~!!」

  (センスが無いだと!?)

  シクシク泣く愛娘を見ていたら、ますますオフィーリアへの怒りが強まる。
  オフィーリアめ!  これは見つけたら絶対にただではすません!
  なんて性悪な娘なんだ……!
  
「そんなことよりお父様……最近、ウィル様が会ってくれないの……」
「何だと!?」
「いつ会いに行っても忙しいって……前は短い時間でも私と会ってくれたのに……」

  次から次へと何なんだ!
  まさか、殿下はコーディリアを捨てる気なのか!?  それだけは勘弁してくれ!
  子供だって……

「は!  そうだ、コーディリア。腹の子……そろそろ医者の診察を受けたら……」
「……っ!  い、いいえ、お父様……そ、それは、ま、まだ、早いと思うの。ほら!  妊娠は、あくまでもまだ可能性……だし」
「だが……」
「まだ、確証もないのにへ、変な噂がたってしまったら大変でしょう!?」
「コーディリア……」

  コーディリアも不安なのだろう。  
  だからこそ、早くハッキリさせてやろうと思ったのだが……

  しかし、殿下……いったいどうされたというのか。
  公爵は再び頭を抱えた。


────


「……ふぅ」

  とりあえず、誤魔化せたかしら?
  部屋を出て行くお父様の背中を見送ってコーディリアはため息を吐いた。

 「嘘泣きに騙されるなんて単純なお父様よねぇ……そんなだから、センスの欠けらも無いのよ……それより……」

  (いい加減にどうにかしなくちゃ……)

  どんどん、最初に思い描いていた予定と変わってきてしまっているじゃないの!
  コーディリアは、ギリッと唇を噛む。

  ───“妊娠”の可能性を告げれば、婚約者交代は簡単だと思っていたのに。
  そう。だから私はを作り上げたのに。

  あの日の夜……私はウィル様にたくさんお酒を勧めて酔った勢いで既成事実を作るつもりでいた。
  なのにウィル様は思っていたよりもお酒に弱く、迫っている途中で泥酔して眠ってしまった。
  おかげでウィル様の記憶も朧げのようだけど、当然、何もしていない私のお腹にウィル様の子はいない。いるわけがない。
  嘘を真実にするために……本当に抱かれてしまえばいいと思った。
「一度したのだから二度も三度も同じでしょ~?」と、それから何度迫ってもウィル様はキス以上はしてくれなかった。

  (なんでよ!)

  そうして婚約者交代は叶わぬまま今に至る。

「本当にどこまでも目障りなお姉様だわ……」

  下剤入りのお茶もそう。
  結果的にお姉様を犯人にする事は出来たけど、あんなに早く気付かれる予定じゃなかった。
  もともとは、お姉様には下剤を飲んでもらって苦しい思いをさせておきながら、自らも飲んで苦しんだフリをした自作自演だと詰め寄る予定だったのに。
  結果、苦しんだのはお父様だけ。一口は飲んだはずのお姉様は顔色も変えずにケロッとしていた。
   せっかく私付きのメイドからこっそり分けてもらったのに、無駄にしちゃったわ!

  (なんでお姉様は平気だったのよ!)

  邪魔なお姉様には消えてもらう予定だった。
  でも、お姉様が勝手にこの家から出て行ってくれたから、これで全てが上手くいくと喜んだのに!
  何もかもが上手くいかない!

  嘘までついたのに交代されない婚約。
  ──そして何故か会ってくれないウィル様。
  

   とにかくコーディリアは苛立ちが収まらなかった。

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