【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
13 / 53

第11話 肉デート

しおりを挟む


   肉デート当日。
  そわそわ落ち着かなくて早めに部屋を出た。

  (き、緊張するわ……)

  婚約者だったウィル殿下と二人でお茶を飲みながら過ごしていても、こんな風に緊張なんてした事は無かったのに。
  レイさん相手だとこんなに胸がドキドキするのは……何故?

  (顔……顔なの?   あの素敵なちょっと厳ついお顔のせい……?)

  昨夜は眠れなくて、うっかりリュウ様の恋と筋肉の物語を読破していた。 
  その話の中の一つに、リュウ様とお姫様がこっそりデートする話を見つけた時はさらに興奮してしまった。

  (素敵だったわ……夕日の見える丘で愛を囁く筋肉…………じゃなくて、リュウ様!)  

  そんな全乙女達のうっとりシーンを思い出していたら後ろから声をかけられる。

「リア!  早いな……お、おはよう!」
「お、おはようございます!」

  びっくりして慌てて振り返ると、そこに居たのはもちろんレイさん。
  朝から元気だけどもう頬が赤い。今日は過ごしやすい陽気だと思っていたのに暑かった?

「リア……時間、早くないか?」
「レイさんこそです!  私はお店ここの二階に住んでるのでいいですけど……」

  レイさんが決めた待ち合わせ場所はお店の前。
  なので、私は近くて良かったけれど、レイさんの家はご近所だとは思えない。
  (多分、この方は貴族な気がする……もの)
  
  馬車を使って近くまで来ていたとしても、きっと朝起きるのは早かったはず……
 
「今日……が、た……楽しみで、で眠れなかった……んだ」
「え?」
「だ、だからその……早く待ち合わせ場所に行って、こ、心だけでも落ち着かせよう…………と思ったんだが」
「……レイさん……」

  レイさんも……眠れなかったの?  今日が楽しみで?  心落ち着かせたくて早く……?

  (私と一緒……同じだわ。嬉しい……)

  胸の奥が温かくてホワホワしてくる。

「…………っっ! リ、リア!」
「は、はい?」

  レイさんが先程よりも顔を真っ赤にして焦って……いえ、どこか慌てている。
  何故、周りをそんなにキョロキョロと見回して警戒しているのかしら?

「レイさん?」
「リア……き、君のそれ、は、無意識なのか?  ……くぅ……こんなの見たら世界中の男共が失神するぞ……誰にも見せられん!」
「あの……?」
  
  何か無意識のうちにまずい事をしてしまったのかしら、と不安になる。
  そんな私の気持ちを感じ取ったのかレイさんは慌てた様子で言った。

「リア……君が無自覚なのはよく分かった……す、すまない。悪い事じゃないんだ。だ、だから気にしないてくれ」
「は、はあ……」
「き、君はそのままでいい。例え、何かあっても……わた……お、俺がリアを守ればいいだけだ」
「レ、レイさん……!?」

  レイさんの言っていることの半分も分からなかったけれど、“そのままでいい”という言葉にときめきを覚え、“俺が守ればいい”という言葉でキュン死にしそうになった。

  (まるで私がお姫様になった気分……!)

「……!  くっ!  リア……また、そんな……かお、を……」
「レイさん?」
「……」
「……?」
「───リ……リア、行こう。約束のリアの好きな、お、美味しい肉料理をご馳走する!」
「に……く」

  少しの間、無言で見つめ合っていた私達。
  その後、レイさんに手を差し出されたので、そのまま手を取ろうとしたけれど、“美味しい肉料理”の言葉にガクッと力が抜けてしまった。

「どうした、リア?」
「……い、いえ」

  誤解は続いている。
  でも、レイさんの紹介してくれる肉料理はきっと美味しいに違いないわ。
  
  (だって、レイさんはお店の野菜スープのファンだもの!)

  そう思ってそっと彼の手を取った。


────


「リア、あの店は串焼きが美味しい。思いっきりかぶりつくと更に美味いぞ!」
「……」

  そう言って串焼きを二本手渡された。

「リア、あっちの店はちょっと変わった肉料理を出すんだ」
「……」

  そう言って次はパンに肉を挟んだものを渡された。

「リア、あそこの肉屋は骨付きの……」
「……」

  そう言ってさらに骨付きのお肉を購入して手渡そうとするレイさん。

「どうした?  リア?」
「レイさん!  と、とりあえずもう持てません!」
「あ……」

  レイさんは私の両手を見て、しまった!  という顔になった。

「す、すまない。嬉しくてはしゃぎすぎた……そうだな。一旦、腰を落ち着けて食べよう」
「は、はい」

  (嬉しくて……?  レイさん、そんなにお肉が好きだったのかしら?  子供みたい……)

  そんな事を思いながら、まず串焼きから、えいっとかぶりついた。
  
「……」
「……どうしました?  レイさん」

  レイさんがじっと私の事を見ている。その表情はどこか驚いていた。

「抵抗なくかぶりつくとは思わなかった……」
「え?  でも、レイさんが、そうするんだと教えてくれたじゃないですか」
「そ、それはそうだが……」
 
  何故かレイさんが口ごもる。
  さらに美味しくなるって言ったのはレイさんなのに!

「美味しいですよ、この串焼き!  レイさんも食べましょう?」
「あ、ああ……」

  そう言ってレイさん串焼きにかぶりつく。
  お店では綺麗な所作で食事をとるレイさんだから、それは見ていてなんだかとても新鮮な気分だった。

「美味い……」
「それでは、次はこちらですね、えっと、パンですけど……これもかぶりつく……?」
「ああ、豪快にいくといい」

  レイさんがそう言ってくれたので、私は、えいっとパンにかぶりついた。
  そんな私をレイさんは優しく見守ってくれていた。


────


「リア、あの店も美味しい肉料理を出す店だ」
「そうなんですね?」
「それから、あっちの店は───」
  
  (す、すごい情報能力……!)

  レイさんはその後も一緒に街を歩きながら、とにかく肉料理のお店を中心に紹介してくれる。
  私はそれを感心しながらひたすら聞いていた。

「レイさんって、肉料理のお店にすごく詳しいのですね」
「そ、そうか?」
「そうですよ」

  私がそう言うと、レイさんは少し照れたのか軽く咳払いをする。

「コホッ……も、元々、知っていた店も、もちろんあるが今日はリアの為にさらに情報の仕入れを……だな」
「え?  わ、私のため、ですか?」
「そ、そうだ。リアを……喜ばせたくて……す、好きなんだろう?  肉……」
「!」

  バックン!
  今までにないくらい大きく心臓が跳ねた。バクバク鳴っている。

  (ど、どうしよう……私の心臓がおかしい……)

  私が好きなのは筋肉だけど、何だか、もうお肉も筋肉も同じ物のような気がしてきたわ!  

  なにより、レイさんが私を喜ばせたくて情報をたくさん仕入れてくれた……そんなの……そんなの……

  (されたことが無いわ……嬉しい)

  こんな気持ち知らなかった。

「……リア」
「レ、レイ……さん?」

  レイさんの声が少し真剣なものになって、繋いでいた手をギュッと強く握られた。

「俺は……その不器用なんだ」
「え?  は、はい……?」
「それから……よく、極端だとも言われる」
「きょ、極端……そ、そうなのですか?」

  一体何の話かしらと不思議に思いながらも続きを聞く。
  話をしてくれるレイさんの目が真っ直ぐ私を見つめていた。

「だが、大事に思ったものは生涯かけて───」

  レイさんが、そこまで言いかけた時、多くの人が向こうから歩いて来た。私はその集団にぶつかりそうになってしまう。

「……きゃっ!」
「リア!」

  私の腰に腕を回して集団から避けさせようと抱き寄せたレイさん。  
  その勢いで私は思いっきり彼の胸に飛び込んだ。

「……大丈夫か?」
「は、はい……ありがとうございます。大丈夫で…………え?」

  私はお礼を言ってそっと離れようとしたけれど、何故かうまく離れられない。
  むしろ……

  ぎゅーーーーーー……

  何故かレイさんの腕が私の背中に回されている。

「……!?」

  (こ、これ!  もしかして、だ、だ、抱きしめられているのでは!?)

  レイさんの突然の行動に、私の脳内が盛大にパニックを起こし始めた。

しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約

ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」 「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」 「もう少し、肉感的な方が好きだな」 あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。 でも、だめだったのです。 だって、あなたはお姉様が好きだから。 私は、お姉様にはなれません。 想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。 それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。

処理中です...