【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第10話 デートのお誘い

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「……リ、リア!」
「は、はい!  い、いらっしゃいませ、レイさん」

  “リア”
  レイさんにそう呼ばれると胸がドキドキして擽ったくなる。
  こんな事なら“リアさん”の方がマシだったかもしれない。

  (私が自分で呼び捨てでもいいですよ、と言ったくせに……)

  あれから、私たちはお互いを名前で呼ぶようになった。

  そしてレイさんも変わらないペースでお店にやって来てくれている。
  奥様に「月に一、二回のはずが不思議ですね?」と聞いたら笑顔でそうだねぇ、と返され、店主のご主人様には「野菜スープが気に入って虜になってしまったのでしょうか?」と言ったら何故か笑顔で頭を撫でられた。

  そんなレイさんは、忙しい時間を避けて来てくれるので、来店した時は自然と話し込んでしまうことが多い。
   そして本日も───……

「……なぁ、リアは休みはあるのか?」
「お休みですか?  もちろん、ありますよ」

  レイさんの座る席の近くのテーブルを拭いていたら、レイさんに何故かお休みについて訊ねられた。

  固定の曜日では無いけれど、もちろん、ちゃんとしっかりお休みは頂いている。
  ちなみにお休みの日は、大好きなリュウ様の物語を読破して、リュウ様の筋肉にキュンキュンして癒されながら過ごすのが定番。
  友人もいないし、今後、最新刊を購入するためにお金だって節約しないといけない私が出来る楽しみはこれくらいしかなかった。

「そ、そうか……」

  レイさんは頷くと、キュッと顔を引き締めて、少し厳ついお顔になる。
  
「な、な、ならば!  リア!」
「は、はい」
「君の、ここここ、今度の休み!  はいつだ!?」
「明後日です」

  相変わらず、レイさんは吃りが多いけれど、もうすっかり慣れてしまった。
  ただ、いつも何となく顔が赤いので血圧が心配。

「あ、明後日か!  それなら…………ヨシッ!  ……ち、ちなみに、リアはその日、な、何か予定はある、のだろうか?」
「予定ですか?  いえ、特にはありませんが」

  私は静かに首を横に振る。
  そうね……あるのはいつもと同じ……リュウ様の筋肉に癒される予定くらいよ。

  そんな事を考えてしまったせいか私の頭の中がムキムキの筋肉の事でいっぱいになってしまう。

「そ、それならば、俺と出かけないか?  リア!」
「え?  お出かけ?」
「……」
「レイさん……?」
「き、君にこの街を案内しようかと思う……のだが!」

  レイさんはまた、お顔に力を込めたようで、二倍増しの怖い顔になってしまっている。
  あぁ、やっぱり惜しい……本当に……惜しいわ。筋肉……筋肉さえあれば……本当に理想なのに。

「それで、だ。リアの……す、好きなものは何だ?」
「───筋肉……」
「……ん?」
「……!」

  (しまった!  あ、頭の中が筋肉でいっぱいだったから……)

  好きなものを聞かれて“筋肉”と答えてしまうだなんて……!  
  貴族令嬢だった時も有り得ない回答だけれど、平民の今となっても有り得ないわ。
  さすがのレイさんだって困っ───

「に、肉?  今、肉と言ったか?」
「……え」

  レイさんが首を傾げながらそう口にする。

「そ、そうか!  リアは肉が好きなんだな!」
「………………え」
「そんなに華奢なのに、思ったより豪快な食べ物が好きなのだな!」
「え? え……に、く?」
「ああ。今、肉と言っただろう?  そ、それならいい店があるぞ」 

  レイさんが嬉しそうにうんうんと頷いている。
  だけど私の頭は、全くついていけていない。

  (肉?  今、肉って言ったわよね!?)
  
  どう考えても、“筋肉”とは聞こえなかった。
  まさか、レイさん、筋肉を“肉”と聞き間違えてしまったの?

「……」
「よし、リア!  今度の休みは、お、俺と……肉を食べに行こう!  に、肉デートだ!」
「!?」
「あ、も、もちろん街も案内するぞ……!」
「レ、レイさん!?」

  よく分からないうちに、筋肉……ではなく、肉デートに誘われた……らしいという事だけはどうにか理解した。


────


「わ……笑いが止まらなかったわ……ふ、ふふ」
「……お、奥様」

  真っ赤な顔をしたレイさんは、その後もなかなか興奮?  が冷めきれなかったのか二倍増しの怖いお顔のまま、いつものスープを飲んで「明後日迎えに来る!」と言って帰って行った。
  あの素敵なお顔のまま、街を歩いて大丈夫なのかしら?  とつい余計な心配をしてしまう。

「ま、街を案内すると言いながら、ま、まさかの肉デート……ふ、ふふ」

  奥様はよほどツボに入ってしまったのか、ずっと笑っている。

「えっと……私にも何が何だかよく分からないのですが……」
「しかし、リアちゃんお肉が好きだったんだね?」
「そ、それは……!」

  本当に好きなものは筋肉であって、どうやら聞き間違いが発生し、筋肉が肉に変化しただけで───とは言い辛い。

「まぁ、あれだけ興奮していたんだ。一日くらいレイに付き合ってやれ、リア」
「ご主人様……」
「そうよ!  街も案内してくれるみたいだし、ちょうどいいじゃない?」
「奥様……」
「これから、欲しい物を買いに行きたい時に助かると思うわよ?」
「あ……」

  確かに、祖国からこっちの国な逃げてこの街に辿り着いて一ヶ月以上経つけれど、いまだに街のことは全然知らない。
  ここで住み込みで働く事になった時に、奥様に付き合ってもらいながら、必要な日用品を買いに行ったくらいかも。

  (……ハッ!)

  私ったらなんて事なの。すっかり失念していたわ。
  本屋……本屋はどこなの?
  これでは、新刊が出た時に即買いに行けないじゃないの!
   
  今更、そんな事に気付いた。
  実はあの私の愛読書の著者はこの国の出身なので、以前みたいに本が輸入されるのを待つ必要がなく、ここでは発売日に買えるかもと喜んでいたのに!

「リアちゃん?」
「……あ、いえ……そ、そうですよね」

  (そうよ!  私はもう絶対にあっちの国には戻らないんだから……)

  これからは“リア”としてここで生きていくのだから、しっかりしないと! 
  そう、自分に気合を入れた。


  …………こうして私は、レイさんと街の案内兼肉デート(?)に行くことが決定した。
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