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閑話② 行方不明の可愛げがない婚約者 (王太子視点)
しおりを挟む「……っつ!」
(何でコーディリアでは駄目なんだ!)
婚約者の交代が認められず、私は苛立っていた。
どいつもこいつも、オフィーリア、オフィーリア……
私の教師達もいつも「オフィーリア様は優秀な方なのでこの国の将来は安泰ですね」と口を揃えて言ってくる。
(王太子……後々、王となるのは私だぞ!)
私の婚約者が優秀だから将来が安泰? ふざけるな!
あんないつも何を考えているのか分からない女のくせに何が出来る!
「ウィル様~……?」
「コーディリア……」
婚約者の交代が認められなかった事がショックだったのか、コーディリアも少し元気が無い。
「どうして私じゃダメなんでしょうか」
「分からない」
父上があそこまで反対する理由がどうしても分からない。
「……それより、オフィーリアは本当に行方不明……なのか?」
「はい……昨日から姿が見えないんです」
「……」
(何をやってるんだ……あの能面女は! コーディリアがこんなにも悲しんでいるじゃないか!)
コーディリアは明らかに元気がない。いつものあの溌剌とした明るい笑顔が陰っている。
彼女は優しい子だから、一連の不審事件の犯人でもあるのにオフィーリアの事を心配しているのだろう。
「……どうせ、我々に犯人だとバレて罪を追求されるのが嫌で一時どこかに身を隠しただけだろう。そのうち、ほとぼりが冷めた頃、あの無表情のまま悪びれもせずに帰ってくるに違いないよ」
「ウィル様……」
「のこのこ帰って来たら、父上の前で罪を突きつけてやろう。そうしてオフィーリアには社交界から消えてもらう。そうすれば父上だって目を覚ますはずさ」
その日は、そうやって何とかコーディリアを慰め元気づけた。
───しかし、それから一週間以上経ったのにオフィーリアは帰って来ていない、との報告を受けた。
ついでにこの日、王宮にやって来たコーディリアまで同じことを言う。
「ウィル様ぁ、お姉様、帰ってきませんよ~」
「あ、ああ……」
ズキズキズキ……
畜生! 何だかすごく頭が痛い。
オフィーリアの行方不明が分かった一週間前から頭痛が治まらない。日に日に酷くなっている気がする。
(オフィーリア! あの能面女は何を考えているんだ!)
確かに、私がコーディリアと結ばれる為にはオフィーリアには消えてもらう必要があった。
だが、それは彼女の社会的地位を落としてからでなくては意味が無い。
そうでないと、コーディリアにずっとオフィーリアの影が付き纏ってしまう。
ましてや、生死不明の行方不明だなんて以ての外。
(本当にとことん可愛げがない女だ!)
“婚約者”として初めて顔を合わせた時からオフィーリアはそうだった。
ニコリとも笑わず常に無表情。
どれだけ優秀なのかは知らないが“お告げ”とやらを本気で恨んだ。
それに比べてコーディリアの可愛いこと、可愛いこと……
(姉妹だとは思えんな!)
ズキズキズキ……
頭痛はどんどん酷くなる。鎮痛剤を投与させたのに効かないとはどういう事なのか。
「ウィル様~お姉様はもう居ませんって、陛下に直談判しに行きましょうよ~」
「……っ」
「さすがの陛下もこうなったら認めてくれますよねぇ?」
頭痛のせいなのか、いつもは可愛く聞こえるコーディリアの声にまでイライラしてしまう。
「それに……こんな事考えたくないですけど~……お姉様はもう……」
「……オフィーリアらしき特徴のある遺体は見つかったという報告は受けていない」
「それは、お父様も言ってましたけどぉ……」
「……」
一応、公爵も探してはいるのか?
公爵もコーディリアが私の正妃になればいいと思っているはずなのだが。
父上に色々言われたのだろうか……?
「でもでも~女一人で逃げるとしても限界がありますよぉ?」
「……ちなみに、オフィーリアの部屋から失くなっているものはあるのかい?」
もしも、これが計画的逃亡なら荷物を持ち出した形跡がしっかり残っているはずだ。
手持ちの金をどれだけ持っていたかは分からないが、逃亡するなら資金調達の為に宝石なども持ち出しているはず──……
「あ、それ……実は、よく分からないんですよ~」
「は? 分からない? どういう事だい? コーディリア」
「えっと、それがお姉様ってぇ、その……」
ズキズキズキ……
さらに頭痛が酷くなって来た。
つまり……コーディリアの言うところによると、オフィーリアは家族を前にしても常にあんなお高くとまった態度を取っていたせいで公爵家では常に浮いた存在だったらしい。
(使用人たちも何が部屋から無くなっているのかは、よく分からない……だと?)
「もう、お父様はずっとピリピリしていて不機嫌だしぃ、お母様はオロオロするだけだしぃ、もう、邸の雰囲気が最悪なんですよぉ」
「……コーディリア」
「もし、本当にウィル様との御子が今、私のお腹の中にいたら環境に悪いと思いませんか~」
「……」
ズキズキズキ……
子供……か。
コーディリアはそう言うが、実のところ、その日の夜のことはよく覚えていないと言ったらさすがのコーディリアも怒るだろうか?
あの日は、何かのパーティーの後の夜だった。確かにコーディリアをこっそり部屋に連れ込んで二人きりで数時間過ごしたが……酒を飲んだせいなのか記憶が曖昧なんだ……
「ウィル様……お願いですぅ。早く陛下を説得して私を王宮に呼んでください」
「あ、ああ……」
ズキズキズキ……
何故かは分からないが、どんどん頭痛は酷くなるばかりだった。
そして、その翌日。私は父上に呼び出された。
「……ウィルよ。随分と顔色が悪いな」
「い、いえ……」
(この頭痛のせいで、ろくに夜が眠れていないからだ!)
「タクティケル公爵がついに口を割ったぞ?」
「は、い?」
「何をコソコソしているかと思えば……オフィーリア嬢は、もう一週間以上前から行方不明だそうだ」
(───ついに父上の耳にも入ったか)
「公爵にも早く探すよう命じているが、これは由々しき事態だ」
「……オ、オフィーリアは、おそらく私の妃になる事が重荷で……逃げ……」
「ウィル。まさかとは思うが、お前がコーディリア嬢と結ばれたいが為に勝手な事をして無理やりオフィーリア嬢を追い出したのか?」
(なっ!)
父上は鋭い目で私を見ていた。なぜ、そんな目で見られなくてはならない?
「無理やりだなんて! 私はそんな事はしていませんっ!」
(私は知らん! オフィーリアのやつが勝手に出て行ったんだろう!?)
「いいか、ウィル……もしも、オフィーリア嬢の行方不明がお前のせいだった場合、しっぺ返しがお前に向かう事になる」
「し、しっぺ返し……ですか?」
何だそれは! 初耳だぞ!?
「む? お前にまだ話していなかったか? お告げで選ばれた令嬢を蔑ろにした王の末路を」
「王の末路? た、短命だったという話なら……」
短命……要するに、その王の治世が短かった……という意味だろう?
「それだ。その王はお告げで選ばれた娘を蔑ろにし、国からも追放して別の娘を王妃に据えた後、半年もしないで亡くなっているからのう……」
「なっ!」
(亡くなっている……だと!?)
「それまでは病とはまったくの無縁で元気だったと言うからな。呆気ないものよ」
「……」
「神が選んだ娘を蔑ろにしたわけだからな。ましてや、国外に追放するなど言語道断。国は滅びる寸前まで衰退したそうだ。まぁ、当時は弟の王子がいたからどうにか国の危機は乗り越えたらしいのだが」
(私に兄弟は…………いない)
ズキンズキンズキン……
くっ……何だ? 頭痛が……さらに……
「どうした? ウィル。顔色がどんどん悪くなっているが?」
「……い、いえ…………父上、一つお聞きしますが」
「何だ?」
「……も、もしもオフィーリア……が、単なる行方不明なだけでなく……も、もしも我が国を出てしまっていた場合……こ、この国と私は……」
その先の答えは聞かなくても分かるような気がした。
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