【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第5話 疑われる私

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  その翌日の事だった。

  ───ズルッ

「……ひっ!?」

  邸の廊下を歩いていて突然、足が滑って転びそうになった。
  かろうじて転倒こそしなかったものの、一部分だけすごく廊下が滑りやすくなっている。
  何故あそこだけ……?
  まるで、意図的にを転ばせる事を目的としているようにも思えた。

   (掃除ミス……?  そんなことあるかしら?)

  何だか気味が悪いわ……と思った。
  だけど、それからも不審な事は続く。
   別の日になると……

「私の髪飾りが無いわ!  お気に入りだったのに……!」

  その日はコーディリアが朝から騒いでいた。
  邸の者たち総出で探してようやく見つかったコーディリアのお気に入りというその髪飾りは無惨にも壊されて捨てられていた。

「酷い……誰がこんな事……」

  コーディリアが目に涙を浮かべて髪飾りを手に取る。

「コーディリア、そんなに気に入っていたなら、また、同じ物を旦那様に買ってもらいましょうか?」

  お母様が宥めたけれど、コーディリアは首を横に振って涙を流しながら言った。

「でも、これ……お姉さまから貰った物だったから……」
「あら、そうだったの?」
「……」

  (私があげた……?)

  そう言われて、コーディリアが手に持っている壊れた髪飾りに目をやると、それは確かに私が昔使っていてたの髪飾りだった。
  
  (私から貰って、コーディリアが“気に入っていた”髪飾り……?)

  ───お姉様の使ってるソレが欲しいの!  私、どうしてもそれがいいー!
  ───オフィーリア。お姉さんなんだから、譲ってあげなさい!

   昔、コーディリアが泣いて譲らなかったから、泣く泣くあげた物だ。
  ……その後、一度も髪につけているのを見た事は無かったけれど。
  それが、コーディリアのお気に入りだったなんて初耳だった。

「それなら、新しくてもっと良い髪飾りを買ってもらいましょう?  私からも旦那様にお願いしておくわ」
「お母様……ありがとう」

  お母様に慰められてコーディリアが、笑顔を取り戻す。
  ようやくコーディリアが笑ったので、使用人たちもホッとしていた。
  
「見て……オフィーリア様ったら、こんな時も無表情……」
「コーディリア様があんなに泣いていたのに……慰める事もしないなんて……!」

  コーディリア付きのメイド達のそんな声が聞こえたけれど、聞こえないフリをして私は部屋に戻る事にした。
  だから、私は気付かなかった。
  この時のコーディリアがどんな目で私を見ていたのか───……

  
  よく分からないけれど、その後も、そんな不審なことばかりが続いたので、お父様は使用人全員を吊し上げてでも犯人を見つけてやる!  と怒っていた。


  ───それから数日後。

  今日はコーディリアは居なくて殿下と二人でのお茶会。
  これといった会話もなく、私達は互いに無言でひたすらお茶を飲んでいた。

  (お腹がタプタプだわ……)
  
  あの日、コーディリアとの浮気発覚現場を見てしまってから、どんな顔をしたらいいのか分からない。なので、いつも以上に私たちの間には大きな壁が出来ていた。
  そんな中で、殿下がそう言えば……と切り出した。
 
「……最近、タクティケル公爵家内が穏やかではないようだね」
「ご存知でしたか」
「ああ。コーディリアが“最近、邸で変な事ばっかり起きて怖いんですぅ”って話していたよ」
「コーディリアが?  ……そうですか」

  相変わらず、私の知らない所で二人は密会を繰り返しているらしい。
  きっと、コーディリアの事だから、たくさん慰めてもらったのだろう。

「コーディリアのお気に入りの髪飾りも壊された、とか」 
「……そうですね」
「何でも、昔、オフィーリアがあげた物だったとか」
「……そうですね」

  コーディリアは殿下に何でも話しているみたいだった。

「可哀想に、コーディリアは泣いていたよ」
「……」
「……オフィーリアは、自分の邸でそんな不審なことが続いているのに、全く顔色を変えないのだね」
「は、い?」

  殿下は、ふぅ……と軽くため息を吐くと、飲んでいたお茶のカップをソーサーに戻す。
  そして、じっと私の顔を見つめる。

「もっと普通は、コーディリアみたいに怖がるものなんじゃないかな?」
「そう言われましても……」

  顔に出ていないだけで、十分、怖がっているし不気味だとも思っているのだけれど……
  相変わらず、表情筋が仕事をしないせいで殿下には全くそうは見えないらしい。

「……」
「…………ねぇ、オフィーリア。君がそんな態度を取ってばかりいると……疑われてしまうよ?」

  少し間を置いた後、殿下は軽くため息を吐いた。

「疑う……ですか?」
「ああ。これもコーディリアに聞いたのだけど、紅茶に入っていた下剤だっけ?  ……気付いたのは君だけなんだろう?」
「……それが何か?」

  ──ズキッ
  あぁ……また、頭痛がする。
  きっとこの“痛い”という気持ちすらも顔に出ていないのでしょうね……
  だからなのか、殿下は私の調子など全く気にせずに話を続ける。

「だからこそ、疑ってしまうんだよ……たとえば……これらの出来事は、オフィーリアの自作自演だったのかなとか、もしかしてコーディリアの髪飾りは……」
「殿下!」
「ははは、冗談だよ、冗談」
「……!」

  そう言って殿下は笑ったけれど、その目の奥は全く笑っていない。

  (これ、冗談などではなく、本気で私を疑っているのかも……)
 
  殿下の裏に、コーディリアの影が見え隠れしているような気がした。


  …………そして、それから三日後の事だった。

  私は再び、偶然、殿下とコーディリアの密会の場に立ち会ってしまう。
  そして、その場で耳を疑うような言葉を聞く事になる。

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