【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
4 / 53

第4話 不審な出来事

しおりを挟む


「あぁ……リュウ様。そのムキムキの身体……なんて格好良いのかしら……」

  何だか何もかもかも嫌になった私は、色々考える事を一旦放棄して大好き物語を読み耽っていた。ちょうどヒーローのリュウは(ムキムキの)身体を張ってお姫様を守っている胸キュンのシーンだった。

「私もこれくらいムキムキして強ければ……お父様も……浮気者の殿下もボコボコに出来たかもしれないのに……!」
  
  自分の腕をチラッと見る。
  当たり前だけど、ムキムキとは程遠かった。これからどうにかなるとも思えない。

「……って、これでは完全に現実逃避してるだけよねぇ……」

  私はパタンと本を閉じた。
  考えなくてはいけない事は沢山ある。
  もし、コーディリアの妊娠が本当だったら?  
  ただ、あの口振リではまだハッキリした訳では無い様子。だから今回が違ったとしても、二人が関係を続けていればいつか本当に子供が……

「そうなれば私はお払い箱……?」

  殿下の子が生まれるなら占いは“コーディリア”を指していたとされてもおかしくない。

  ──お姉様は愛されてないのに?
  ──もちろん、ウィル様の婚約者について、よ!  お姉様が辞退します!  って言えばいいと思うの!

  コーディリアの言葉に私は頷けなかった。

「情けない私……」

  私は自分の身体を抱きしめながらそう呟いた。


❋❋❋


  その翌日の朝のことだった。

「ふふ、それでね?  お父様、お母様、最近の社交界でのドレスの流行りは、レースをふんだんに使った可愛らしいスタイルなんですって」
「あら!  それなら、コーディリアに似合いそうね」
「そうだな」
「……」

  朝食の席でコーディリアを中心にお父様とお母様の三人が楽しそうに会話をしている。

「それなら、コーディリアに似合いそうなドレスをたくさん作らせよう!  仕立て屋を呼べ!」
「わーい、お父様、ありがとう~」
「可愛い娘のためだからな」

  コーディリアに微笑みを向けていたお父様の視線が私に向けられる。

「オフィーリア、お前は一着だけだ。どうせ、その流行りとやらのスタイルはお前には似合わんだろうからな」
「……」
「えー、お父様ぁ……お姉様にも作るの~?」
「一着だけだ。しょうがないだろう?  殿下の婚約者なのだから。未来の王太子妃が流行りのドレスを全く持っていないとなれば、タクティケル公爵家が笑われてしまうからな」
「そう……」

  コーディリアは明らかに不満そうな顔をした。
  それを悟ったお父様が慌ててコーディリアを宥める。
  ちなみに、こういう時のお母様は絶対に口を挟まない。一歩下がって黙って話を聞いているだけだ。

「そんな顔をするな、コーディリア。お前は好きなだけ作るといい。ドレスだって、似合う人に着てもらった方が嬉しいだろうからな!」
「わーい、お父様、大好き~」

  そう言って可愛いらしい笑顔でお礼を言うコーディリア。
  だけど、コーディリアは一瞬、チラッと私を見て勝ち誇ったような顔をした。
  おそらく、羨ましいでしょう?  と言いたいのだと思う。

「……」

  だけど、やっぱりいつもと変わらない私の表情を見て、ギリッと悔しそうに唇を噛んでいた。

  (精神的に、疲れる食事の席だわ……)

  そう思いながら、食後のお茶を一口飲む。

「……?」

  一瞬だったけれど、何かピリッとしたものを感じた。

  (……この苦味って確か……)

  私はすぐにハッとして顔を上げる。ちょうど他の三人も一口飲んだり、飲もうとしている所だった。

「───そのお茶、飲まない方がいいわ」
「は?」
「え?」
「お姉様……?」

  三人が怪訝そうな表情で私を見る。

「何か入っています」
「何だと!?」

  お父様の顔色が変わる。毒か何かかと思ったのかもしれない。お父様は一口飲んでしまっていた。
  一方、飲む寸前だったお母様とコーディリアは、カップを手に持ったままポカンとした表情で私を見る。

「……ほんの少しだけ、苦味がありました。これはお茶の苦味ではなく……」
「苦味だと?  そ、そんなもの全く感じなかったぞ!」
「ですが、本当に……」
「……驚かせおって。どうせ、オフィーリアの勘違いか何かだろう」
「お父様……」

  どうやら“苦味”を感じなかったお父様には私が嘘をついたと思ったらしい。

「お姉様ったら、そんな嘘をついてまで必死に会話に加わろうとしなくても……」
「コーディリア……」
「あ~あ、お姉様のせいでお茶を飲む気分じゃ無くなってしまったわ。変えて!」
「そうね……」
「ああ」

  そうして、お茶は下げられる事になったので、私は慌てて捨てないで中の成分を調べて欲しいと訴えたけれど、お父様に一蹴されてしまう。
  給仕のメイドも何も知らないと首を振り、結局、有耶無耶にされてしまった。

  (私の感じた物が間違いでないのなら、これは毒ではないけれど……)

「あの、せめて飲んでしまったお父様だけでもお薬を飲んだ方が……中に入っていたのは」
「薬だと?  まだ言うのか!  うるさい、黙れ!」
「……」
  
  相手にして貰えない私の事をコーディリアはクスクス笑って見ていた。



「……ぐぅぅっ……何だこれはぁぁ……」

  それから少し時間が経った後、お父様の苦しそうな声が聞こえて来た。

「は、腹がぁぁぁ……」

  そう言って御手洗に駆け込むお父様。
  その様子を感じ取って私はやっぱり下剤だったのかと思った。

  (昔、飲んだことのある味だったんだもの……)

  即効性が強く、少量でも効き目の良い下剤だ。少しピリッとした苦味が特徴……
  私は子供の頃から殿下と一緒に毒やら薬やらに慣らされてきた事で多少の耐性があるので、こんなに少量では効かない。
  でも、お父様は違う。

「ぐぁぁぁぁ……死ぬぅぅぅぅ」

  苦しそうなお父様を見ながら私は考える。
  誰がいったいこんな事を……?  目的は何?

  …………だけど、この命に関わるわけではないちょっとした不審な現象はこれだけに留まらなかった。
しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

処理中です...