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21. どうしてこうなった? (ジュリエッタ視点)

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(───は?  なに?  ちょっと待ってよ)

 これはどういうこと?
 ここはレジナルド殿下の私室よ?
 なんでリネットが素顔晒して殿下と部屋に入ってくるわけ!?
 しかも、喋っているじゃないの……

(どういうこと?  どういうこと?  どういうことなのよ!)

 意味が分からなくて私の身体が震える。
 こんなことは有り得ないのに────


 殿下の様子がどんどんおかしくなっていった。
 このままではプロポーズをされないかもという危機を感じた私は、強硬手段をとることに。
 そう。
 なかなか選んでくれないなら、多少強引でも“私”を選ばざるを得ない状況を作ればいいのではと考え、既成事実を作るために夜に殿下の部屋へ忍び込むことにした。

 殿下だって年頃の男性だもの。
 魅力的な私に迫られて悪い気はしないはず。
 そのまま関係を持てれば妃になれる。
 万が一、手を出されなかったとしても、下着姿の私が殿下の部屋……それも寝室で目撃されれば殿下だって後には引けなくなるはずよ!

 その計画は、今夜決行すると決めた。
 殿下の部屋の前に見張りがいつもいないことは知っている。
 だから、侵入するのはとっても簡単。
 王宮と違いここは離宮だからと油断しているのだと思うわ。

 あとは、夕食を終えた殿下が戻って来るのを待つだけ。
 ガウンの下はお父様とお母様に、殿下への誘惑用として贈られた悩殺下着を着用したので、これで何もかも完璧……!
 そう思った。
 …………なのに!


「……ん、レジナルド……さま」
「リネット……」

(な、何しているのよーーーー!)

 私は自分の目を疑った。
 そして心の中で盛大な悲鳴をあげる。 

 ソファに座っている殿下とリネットは何度も何度も熱いキス交わしていた。
 なんだか寝室ではなく、このままそこで色々始まってしまいそうな雰囲気に私は真っ青になる。

(は?  嘘でしょう?  何してるの……今夜そうなるのは私のはずで……)

「……リネットの顔が真っ赤だ……うん、可愛いな。もっとよく見せて?」
「こ、これはレ、レジナルド様のせいですっ!」
「ははは、見えない間、ずっと想像していたよ───実際は想像していたよりも可愛いくて堪らない……」
「ううっ……もう!」
「もう?」
「み、耳が蕩けそう……です」

 真っ赤な顔でそんな言葉をを口にしたリネットに、殿下はまたしても小さく「可愛い……」と呟くと、リネットに覆い被さるようにして唇を塞ぐ。

 二人の会話が甘い。

 照れまくっているリネットに、とにかく殿下が甘い言葉を吐いて迫っている。
 そして、リネットも恥ずかしがってはいるけれど全然嫌がっていない……

(何これ、何これ、何これ!)

 手術後の殿下の傍にずっといたのは私なのに!
 君の顔が見たかった──
 そうは言ってくれたけれど、そばにいても可愛いなんて一言も言われなかった。
 それなのに、私とそっくりな素顔を持つリネットには“可愛い”と言いまくっている。
 なんなら、私たちは似ていないとも言っていた!

(どこが違うというの?  顔も声もそっくりでしょう?)

 それよりも……
 リネットが私の身代わりだったことがすっかりバレてしまっていることはもう明らかだった。

(まずい……)

 私の顔からはどんどん血の気が引いていく。

 一体いつ?
 いつバレたというの?
 リネットの表情を分からなくさせて髪色も変えさせて喋らせなかったのに。
 何が……?  
 何がいけなかった……?

 私は二人の姿を呆然と寝室から見つめ続けた。





 もともと部屋に入って来た時から、怪しい雰囲気だった二人。
 あれ?  と思ったけれど会話の様子からピアノを弾くために来たのだと分かった。
 なぜ、私ではなくリネットに弾かせるの?
 何でリネットが素顔を出していて、しかも喋っている? 

 そんな疑問を持ちつつ、とりあえず様子を見守ることにした。

(そうよ。だってリネットのピアノなんて大したことないもの)

 ジュリエッタ──この私の素晴らしい演奏と比べて下手だとがっかりすればいい。
 そう思ったから。

 なのに、二人はピアノの前でイチャイチャし始めて……
 しかも、殿下は“リネットの演奏”を好きとか言い出していた。

 この時点で身代わりがバレたことはうすうす察した。
 けれど、殿下がリネットのピアノが好きということにはどうしても納得がいかない。

(私の方が技術もあって上手いはずよ!)

 伯爵令嬢だった頃のリネットが、伯母の手解きでピアノを教わって弾いていたことは知っている。
 我が家に来てから、ピアノを見ては恋しそうにしていたから、お前なんかには絶対に触らせないと命令して、これみよがしにリネットの前で散々弾いてやったわ。
 その時の悲しそうな顔……あれは最高に最高に気持ちよかったのに!

 子供の頃までしか習っていないリネットとずっと習って来た私、ジュリエッタでは天と地の差があるはず。
 実際、リネットの披露した曲は非常につまらない曲だった。
 伯母の作った曲だかなんだか知らないけど、大したことのない曲───……
 やっぱりリネットの実力はこの程度ね、と私は鼻で笑ったのに殿下はとても嬉しそうだった。

(なに、あの嬉しそうな表情は!)

 そして、その後はソファに移動して……
 私とリネットは似ていないだのなんだのと言いたい放題!
 さらに、途中殿下はでリネットに話しかけていた。
 そんな殿下に対してリネットは何故か、同じように意味不明の言葉で答えていた。

(あれはなんだったの……?  二人は何の会話を……?)

 その後の二人は、また甘い雰囲気になって私の前で抱き合って熱いキスを───……





 私はギリッと唇を噛む。

(許せない!)

 このままでは、リネットなんかが王子の妃に選ばれてしまう。
 そんなことのためにリネットを世話係の身代わりに立てたわけじゃないのよ!
 リネットのくせに裏切りやがって!

「……リネット、今夜は君を部屋に帰したくない」
「え!?」
「このまま朝まで僕とこの部屋で───」

 ──ブチッ
 殿下のリネットを誘う色っぽいその声に私の中の何かがキレた。
 私室と寝室に無断侵入したことをバレないようにするなら、このまま大人しくしておいて脱出の隙を窺うべきだと頭では分かっていた。
 でも、このまま二人が(本来は私と過ごすはずだった)熱い夜を迎えようとしていると思ったら、もう我慢出来なかった。

「やめて!  ───ふざけないで!  リネットのくせに何しているのよ。そんなの私は認めないわ!」

 そう怒鳴り声を上げながら私は寝室から二人の前に飛び出した。

(ふっ!  なぜこんな所に?  と、驚くでしょう!  ビビって離れなさいよ!)

 だけど──……
 てっきり驚いて悲鳴くらいを上げると思っていた二人は私の姿を見ても全く驚いていない。
 ただ、じっとこっちを見ている。

(───ど、どういうこと?)

「ようやくお出まし、か……思っていた以上に辛抱強くて驚いたよ」
「え……」
「こっちは早く、本当にリネットと二人きりになって、もっともっと思う存分触れ合いたいと思っていたのに」

 殿下がふぅ……と大きなため息を吐きながらそんなことを言った。
 しかも、その手はリネットをがっちり抱きしめていて離そうともしていない。
  
(え……?  は?  何これ、どういうこと……?)

 状況が理解出来ずに脅える私に殿下はこれまで見たことのないいい笑顔を向けた。

「───君が出てくるのを待っていたよ。僕にとっては偽者……だけど、本物のジュリエッタ・メイウェザー子爵令嬢?」
「あ!  ……うっ……?」

 その言葉を聞いた瞬間、自分の行動はとっくに全て見透かされていて、嵌められていたことに気付いた。

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