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45. 悪役にされた令嬢と令息は……
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「さぁ、お嬢様! 本日はより気合いを入れて美しくしますよ!」
「……」
「ふわふわ成分増量して、皆をあっと言わせてしまいましょう!」
「……お、お手柔らかにお願いするわね?」
(ふわふわ成分増量って、何かしら??)
「「お任せ下さい!!」」
我が家の侍女がとにかく張り切っていて凄い。
「ドゥラメンテ公爵令息様はもちろん、国民全員がメロメロになる姿が目に浮かびます、お嬢様……いえ、王妃様!」
「……」
───シャルロッテ。早く結婚しよう
(ディライト様に、そう言われた時はまだまだ先の事だと思ったのに)
まさか、こんなに駆け足で結婚して……さらに“王妃”になるなんて思ってもみなかった。
「こんな美男美女の国王と王妃様……間違いなく歴史に残りますね!!」
「……」
「お嬢様の美しさが後世にまで、語り継がれる……素敵!」
気合いをたっぷり込めて、私の髪のくるくる具合を確認しながらとんでもない事を言う侍女。
欲目が凄すぎる!!
(でも、そうね。別の意味で歴史に残るのではないかしら?)
────この国の最後の王と王妃として。
──────……
「俺に王位を継いで欲しい?」
「はい、現陛下は退位される事が決定しまして……ですが」
そう言ってウラバトール侯爵様が申し訳なさそうな顔をした。
(……あぁ、そうよね、そうなるわよね……)
私は直ぐに、納得した。
陛下が退位を決めたからと言ってすぐに王政を廃止できるかと言うと……それはまだ無理。
ならば一旦、王位継承する人が必要。
だけど。
ジョーシン様とミンティナ殿下はおそらく外されたはず。だから、次の王位継承者はディライト様しかいない。
「…………ディライト様が一旦、王位を継いで王政廃止に向かって進めていく事になる……という事ね?」
「そういう事でございます……」
(ディライト様……)
チラリと横目でディライト様を見ると、彼は真剣な顔をして話を聞いていて、硬く握られた力強いその手が、ディライト様の決意を現しているような気がした。
────……
(ディライト様は王位に興味なんて無かったのに)
本当に、彼を巻き込んでしまったわ。
公爵家当主ではなく、一国の国王に……そして私が王妃……
(ジョーシン様にポイ捨てされた時点で王妃なる事は絶対に無いと思っていたのに)
人生ってどう転がるのか分からないものね。
もう、誰かを好きになるなんて思えなかったし、幸せな結婚も望めないと思っていた。
それが───
「シャルロッテ!! 俺の可愛い可愛いお嫁さん!」
支度を終えたその時、ディライト様が部屋に駆け込んで来る。
これは、私の支度が終わるのをまだかまだかと待っていたに違いない。
そんな風にそわそわしながら待っていたディライト様を想像したら、ふふふ、と笑いが込み上げて来た。
「……俺のお嫁さんの笑顔の破壊力が凄い」
「ディライト様?」
「そして、どうやったら、元々の美しさにプラスして、こんなにも美しく可憐で綺麗で可愛いふわふわになるんだ」
思わず……と言った様子で呟いたディライト様に向かって、私の侍女達は胸を張って答える。
「長年、この超絶美しいお嬢様を見続けて手を加えて来た成果です!」
「どこかのバカ王子のせいで、8年間もお嬢様の美しさは曇らせて来ましたが、私達の腕と技術はかなり磨かれましたので!!」
「……なるほど! よく分かった」
(え? 納得しちゃうの??)
驚いている私にディライト様はいつもの様に優しく微笑む。
「相変わらず俺のシャルロッテは自分自身の事を分かっていない」
「……ディライト様と侍女達の欲目ではないのですか?」
私のその言葉にディライト様が苦笑しながら、そっと私の頬に触れる。
「天然の魅了……やっぱりそういう所、なんだろうなぁ。どっかの目立つ髪色で“私は誰よりも可愛い”なんて自分で言っていた奴との違いは……」
───チュッ
ディライト様がそんな事を言って、軽く唇を重ねる。
「あ、お化粧……」
せっかく綺麗にしてもらったのに! と、思ったけれど。
「大丈夫です! まだ、時間はありますからいくらでも直せます!」
「なので、思いっきりイチャイチャをどうぞ!」
「私達はすっかり耐性がつきましたけど、お嬢様は恥ずかしがり屋さんなので一旦、下がりますね!」
「頃合いを見て戻って来ます!!」
(……え!?)
そう言って私の侍女達はニコニコ笑顔で下がっていく。
(えぇぇえ!?)
そうして部屋に二人きりになると、ディライト様が感心したように言う。
「すごいな……何もかも心得ている。さすがシャルロッテの侍女」
「そ、そうですか……」
「シャルロッテが愛されてる証拠だね」
「……!」
そう言われるのは、嬉しい。私の顔が綻ぶ。
「……でも、一番にシャルロッテを愛しているのは俺だと思うんだ───俺の花嫁」
「ディライト様……」
ディライト様の顔が再び近付いてきたので、私はそっと瞳を閉じる。
「……」
程なくして降って来た、本日、夫となったばかりの愛しい人の甘くて優しくて柔らかい唇は、確かに私の事を愛してると言ってくれていた。
───
思う存分、イチャイチャして戻って来た侍女達に乱れた所を直してもらった後は……国民へのお披露目が待っている。
ちなみに急な話だったので、結婚式は後に盛大にやる予定。
ディライト様が私のウェディングドレス姿が楽しみで楽しみで仕方がないそうで、何故か彼がデザイン制作の指揮を執っていた。
曰く、シャルロッテに一番似合う物が分かるのは俺だ! らしい。
前国王の突然の退位の発表。
そして、何故か跡を継いだのは息子の王子ではなく甥の公爵家嫡男だったディライト様。
さぞ、国民は混乱しているはず。
「前国王陛下達は、療養という名目で領地の一つで余生を過ごす(色々制限付き)事になり、ジョーシン様は王族から追放されて地方の領主(監視付き)、ミンティナ王女は修道院……王族はバラバラですね……」
私がそう呟くとディライト様も頷く。
「その王家がバラバラとなる原因となった双子は、それぞれ服役……か。ちなみに二人を引き離した所、あの“魅了”の力は殆ど効果を発揮しないらしい」
「どういう仕組みなの……」
「謎の体質だからね。おかげで、そういった類の研究好きの実験体にもされているとか」
「……」
それぞれが色んな形で罰を受ける事になったわね。
「ちなみに、今日は全員、こっそりこの俺達のお披露目の場に招待しているよ」
「……え?」
「だって、俺達のこの幸せいっぱいの姿を見せつけるのが、全員への一番の罰だろう?」
「!」
そう言って笑うディライト様の笑顔はちょっと黒い。
でも、そんな所も好き!
「……なら、たくさん見せつけて差し上げましょう!」
「それでこそ、俺の愛するシャルロッテ」
ふふふ、と私達は顔を見合せて笑い合う。
「さぁ、行こうか。愛しの俺のシャルロッテ国民が待っている」
「はい! 旦那様!」
私は差し出された大好きな人の手を笑顔で取って共に歩き出す。
「……シャルロッテ。愛してるよ。この先も色々あると思うけれど、この気持ちだけはずっと変わらない」
「……ディライト様」
「君を生涯大切にし、幸せにしてみせる」
「……私もです! 一緒に幸せになりましょう!」
───その日、お披露目された新国王と王妃の美しさに人々は息を呑んだ。
世の中にはこんなにも美しく、お似合いな二人がいるのか! と。
また、お互いが相手の事を大事に大事に思っているその姿も更なる共感を呼んだ。
この二人が、婚約者の元王子と王女に、“真実の愛”の相手では無いと言われ、更に悪役呼ばわりまでされポイ捨てされた過去がある……なんて言っても誰も信じようとしなかったと言う。
むしろ、その元王子と王女の目は節穴なの? 逃した魚は大きかったね!
そんな言葉が誰からも出るくらい、いつだってラブラブで幸せそうだったとか。
また、その国民人気をうまく利用して王室制度の改革を進めて行ったとか。
「あぁ、俺の可愛いシャルロッテ! 今日もふわふわだ。気持ちいい」
結婚して夫婦となってからもディライト様は、毎日毎日私を愛でる事を欠かさない。
「ディライト様! 皆が見ていますよ??」
「いいんだよ、シャルロッテがふわふわなのがいけない」
「!? い、意味が分かりません!!」
「ははは」
───あぁ、幸せ。
あの日、“真実の愛”とやらに負けて、悪役だなんて呼ばれゴミのようにポイ捨てされて何もかも絶望したけれど、その先に待っていたのは嘘みたいな幸せな日々。
(本当に“真実の愛”とやらがあるのなら───)
あんな変な力で捻じ曲げたペラッペラなものではなく、こういう“愛”の事を言うのではないかしら?
大好きなディライト様のちょっぴり重いそんな愛に囲まれながら、私はそんな事を思った。
そして、この幸せはこれからもずっと続いていく────
ある日、
真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので
………悪役にされた者同士、思いっ切り幸せになってやりました!!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
とりあえず、すみません……もはや短編とは?
(私の中でですが、10万字~は長編かなと思っています)
完結と共に長編に変更しておきました(……今更)
行き当たりばったりな証拠ですね……
そんな状態の話だったのに最後までお読み下さった方に心より感謝申し上げます。
ちなみに、転生者でこの世界の事を知っていたらしい双子によると、
シャルロッテもディライトも、それぞれ悪役令嬢と悪役令息という世界です。
そして、沢山の感想コメントありがとうございました!
某感染症のせいで欠勤者が出て、ただでさえ1日の拘束時間の長い仕事が、かなりハードに……
更新に手一杯で返信はまたまた力尽きましたが……全部楽しく読んでいます。
(あ、私は元気です!)
また、誤字脱字報告等々もありがとうございました!
最後に一つだけ。
この話の双子……実はあらすじも本文も“特殊な髪色”としか書かなかったのですが、
見事に“ピンク”へと皆様の中では変換されていて私は非常に楽しかったです。
……ですよね!
本当にここまでお読み下さりありがとうございました!
懲りずに新作も始めます。
『名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~』
よろしければ、またお付き合い頂ければ嬉しいです!
ありがとうございました。
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