【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea

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42. 悪役にされた令息の“求婚”と“お願い”

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  一瞬、何を言われているのか理解出来なかった。

「……?  えっと?」
「俺はシャルロッテが好きだよ。君を愛してる」

  ディライト様が真剣な瞳で私を見つめたままそう告げる。
  心臓がバクバクして頭がクラクラしておかしくなりそう。

「それは演技……」
「じゃないから!  俺はこれまでだって一度もシャルロッテに対して演技なんてしていない!」
「……え」
「ずっと好きだった。俺が口にして来た言葉は全て本気だ!  好きだったから抱きしめたし、キスもした」

  ディライト様がギュッと私の手を握る。
  でも、その手は微かにだけど震えていた。

「ただの演技で好きでもない人にそんな事するわけないだろう?  全部、全部シャルロッテの事が好きだったからだ」
「……っっ」
「シャルロッテ。どうか俺の花嫁になってくれ」
「~~~~……!」

  ディライト様のあまりにも真っ直ぐな言葉に私は恥ずかしくて彼を直視出来ない。
  そんな狼狽える私に向かってディライト様は優しくいつもの甘い表情で言う。

「シャルロッテが偽装婚約を持ちかけて来た時……口にしていただろう?」
「?」
「……“私は幸せな結婚はもう望んでおりませんから”って」
「あ……」

  確かにそう口にした。
  私の有責で偽装婚約の解消をして構わない……と言った時だわ。

「その言葉を聞いて思ったんだよ……シャルロッテは、君は俺がこの手で幸せにしたいって」
「!!」

  その言葉に純粋に驚いた。

「……幸せ……」
「あぁ。8年間もの間、ジョーシン殿下あの男の為に頑張って努力して、それがあんな一瞬で崩れ去って傷付いているのに、必死で前を向こうとしていたシャルロッテを俺が幸せにしたいんだ」
「ディライト……様」
「それが俺がシャルロッテの協力に頷いた理由だよ。俺の目的はジョーシン殿下やミンティナへの復讐なんかじゃない。全部“シャルロッテの幸せの為”だ」
  
  ディライト様はそこまで言うと、すっと立ち上がってそのまま私を抱きしめる。

「……シャルロッテは俺の事をどう思ってる?」
「え……」

  ここでそれを聞くの?  と、驚いた私が顔を上げるとパチッと目が合った。

「俺の自惚れでなければ……その、少なからず好意は持ってくれている……と思ってる」
「ディ……」
「だから、知りたい。君の気持ちを教えてくれ、シャルロッテ。それが俺の君にする“お願い”だ」
「えっ!?」

  ディライト様がここで“お願い”なんて口にするから驚いた私の声が裏返ってしまう。

「……?  どうかした?  それが“お願い”では駄目だった?」
「そう、そうではありません……まさか“お願い”が……」

  (私、てっきり……)

「……あぁ、もしかして“本当の婚約者になって結婚して欲しい”がお願いだと思った?」
「……」

  私は無言のまま、コクリと頷く。
  だってこの流れだとそうとしか思えなかった。

「……ごめん、紛らわしい言い方をしてしまった。まぁ、本当はそうしたかったんだけど」
「けど?」

  私が聞き返すとディライト様が少しだけ寂しそうな顔になる。

「それを“お願い”にしてしまったら、シャルロッテは断れないだろう?」
「え?  あっ」
「俺は、約束した“お願い”だから受けた、じゃない。ちゃんとシャルロッテ自身が俺の事を好きになってくれた上でこの求婚を受けて欲しいんだ」
「ディライト様……」
「だから、まずは素直なシャルロッテの気持ちが知りたい」

  (あぁ、もう!  だから……だから私はディライト様この人の事が好きなの)

  そう思ったら私の目からポロポロと涙がこぼれる。

  ───お願いをきくという約束だったんだから結婚してくれ!
  ではなく、本当はそう言いたかったけれど私の事を……私の気持ちを一番に考えてくれるこの人が。
  堪らなく好き、好きなの。

  (こんなにも素敵な人を私は他に知らない!)

「シャルロッテ……!?  す、すまない……泣かせるつもりは……まさか!  そんなに泣くほど嫌……」
「違います!  ………………です」

  私が泣き出したから、ディライト様がびっくりしている。
  違う違う。誤解しないで!
  ちゃんと伝えなくては。

  そう思って私は腕をディライト様の背中に回してギュッと抱きしめ返した。

「……シャルロッテ?」
「大好きです、ディライト様…………わ、私も皆の前で口にした“あなたを愛しています”という言葉……演技なんかじゃありませんでした……」
「…………シャル」
「大好きです、私もディライト様の事を愛しています!  だ、だから、私を……」

  ───あなたの花嫁にして下さい。

  その言葉は口に出来なかった。
  ディライト様が強く強く抱きしめてきたから。

  (く、苦し……!)

  苦しいのに幸せしかない温もり。
  私、これからもこの温もりを感じていいのよね……?
  
「シャルロッテ……」
「……ディライト様」

  私は潤んだ瞳でディライト様を見つめる。目が合ったディライト様も甘く優しく微笑んだ。

「…………好きだよ。俺の可愛いシャルロッテ」
「……」

  そう言ったディライト様が美しい顔を近付けて来たので、そっと瞳を閉じる。

  (……前は邪魔が入ったけれど────)

  今は邪魔をする人なんていないから。
  ほどなくして、私の唇に優しくディライト様の唇がそっと触れる。

  (あ……)

  生まれて初めて触れた大好きな人の唇は、ディライト様そのままの甘くて優しい味がした─────





  ───チュッ

「シャルロッテの唇は甘いね」
「……な、なんて事を言うんですか……」
 
  恥ずかしくて同じ事を思ってます……とは言えない。

  ───チュッ、チュッ

「ふわふわで甘くて……まるで砂糖菓子のようだ」
「…………んっ」

  初めて唇を重ねてからの、その後のディライト様からのキス攻撃が全く止まらない。
  曰く、ずっと我慢していたから反動が凄い……らしい。

  優しくチュッと、触れるだけだったキスは回数が増えるにつれて段々、濃厚なものに変わり私の頭の中もすっかりデロンデロンにさせられてしまった。

  (ディライト様……恐ろしい人……!)



───



「シャルロッテ。これを」
「?」

  そうしてようやく満足したのか、唇を離してくれたディライト様が私に差し出したのは……

「指輪?」
「俺の瞳の色の石を使って作ったんだ」
「……ディライト様の色……」

  ディライト様が私の左手を取ると、そっと薬指に指輪をはめる。

「シャルロッテが俺のシャルロッテだという証だ」
「!」
「シャルロッテはその可愛さ故にこれから先も絶対に男共に言い寄られるからね。俺との婚約は既に周知の事実だけど虫除けだ」
「虫除けって……もう!  また、それですか……」

  私の抗議にディライト様は苦笑する。

「シャルロッテがこんなにも無自覚だから、余計に寄ってくるんだろうなぁ」
「……?」
「可愛いからシャルロッテはそのままでいいよ。俺が蹴散らせばいいだけだし。それにドゥラメンテ公爵家の家紋も彫ってあるから、これを見ても手を出してくるのは余程のバカか阿呆くらいな者だろう」
「ふふっ」

  その言い方が可笑しくて笑ってしまった。

「…………その笑顔も可愛い。可愛くて可愛くて…………止まれない」
「え?  ディライト……さ」

  可愛い、可愛いを連呼したディライト様が、そっと私の唇を塞ぐ。
  こうして再び、優しい優しいキスがたくさん降って来る。


  (知らなかった……私、こんなにも愛されていたのね)

  確かに伝わって来るディライト様からの愛という気持ちが心地よくて幸せだと思った。


  …………だから、まさか本当にこの指輪虫除けがあるのに手を出そうとする、ディライト様曰く、バカで阿呆がいるなんて……この時の私は思ってもみなかった。

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