42 / 45
42. 悪役にされた令息の“求婚”と“お願い”
しおりを挟む一瞬、何を言われているのか理解出来なかった。
「……? えっと?」
「俺はシャルロッテが好きだよ。君を愛してる」
ディライト様が真剣な瞳で私を見つめたままそう告げる。
心臓がバクバクして頭がクラクラしておかしくなりそう。
「それは演技……」
「じゃないから! 俺はこれまでだって一度もシャルロッテに対して演技なんてしていない!」
「……え」
「ずっと好きだった。俺が口にして来た言葉は全て本気だ! 好きだったから抱きしめたし、キスもした」
ディライト様がギュッと私の手を握る。
でも、その手は微かにだけど震えていた。
「ただの演技で好きでもない人にそんな事するわけないだろう? 全部、全部シャルロッテの事が好きだったからだ」
「……っっ」
「シャルロッテ。どうか俺の花嫁になってくれ」
「~~~~……!」
ディライト様のあまりにも真っ直ぐな言葉に私は恥ずかしくて彼を直視出来ない。
そんな狼狽える私に向かってディライト様は優しくいつもの甘い表情で言う。
「シャルロッテが偽装婚約を持ちかけて来た時……口にしていただろう?」
「?」
「……“私は幸せな結婚はもう望んでおりませんから”って」
「あ……」
確かにそう口にした。
私の有責で偽装婚約の解消をして構わない……と言った時だわ。
「その言葉を聞いて思ったんだよ……シャルロッテは、君は俺がこの手で幸せにしたいって」
「!!」
その言葉に純粋に驚いた。
「……幸せ……」
「あぁ。8年間もの間、ジョーシン殿下の為に頑張って努力して、それがあんな一瞬で崩れ去って傷付いているのに、必死で前を向こうとしていたシャルロッテを俺が幸せにしたいんだ」
「ディライト……様」
「それが俺がシャルロッテの協力に頷いた理由だよ。俺の目的はジョーシン殿下やミンティナへの復讐なんかじゃない。全部“シャルロッテの幸せの為”だ」
ディライト様はそこまで言うと、すっと立ち上がってそのまま私を抱きしめる。
「……シャルロッテは俺の事をどう思ってる?」
「え……」
ここでそれを聞くの? と、驚いた私が顔を上げるとパチッと目が合った。
「俺の自惚れでなければ……その、少なからず好意は持ってくれている……と思ってる」
「ディ……」
「だから、知りたい。君の気持ちを教えてくれ、シャルロッテ。それが俺の君にする“お願い”だ」
「えっ!?」
ディライト様がここで“お願い”なんて口にするから驚いた私の声が裏返ってしまう。
「……? どうかした? それが“お願い”では駄目だった?」
「そう、そうではありません……まさか“お願い”が……」
(私、てっきり……)
「……あぁ、もしかして“本当の婚約者になって結婚して欲しい”がお願いだと思った?」
「……」
私は無言のまま、コクリと頷く。
だってこの流れだとそうとしか思えなかった。
「……ごめん、紛らわしい言い方をしてしまった。まぁ、本当はそうしたかったんだけど」
「けど?」
私が聞き返すとディライト様が少しだけ寂しそうな顔になる。
「それを“お願い”にしてしまったら、シャルロッテは断れないだろう?」
「え? あっ」
「俺は、約束した“お願い”だから受けた、じゃない。ちゃんとシャルロッテ自身が俺の事を好きになってくれた上でこの求婚を受けて欲しいんだ」
「ディライト様……」
「だから、まずは素直なシャルロッテの気持ちが知りたい」
(あぁ、もう! だから……だから私はディライト様の事が好きなの)
そう思ったら私の目からポロポロと涙がこぼれる。
───お願いをきくという約束だったんだから結婚してくれ!
ではなく、本当はそう言いたかったけれど私の事を……私の気持ちを一番に考えてくれるこの人が。
堪らなく好き、好きなの。
(こんなにも素敵な人を私は他に知らない!)
「シャルロッテ……!? す、すまない……泣かせるつもりは……まさか! そんなに泣くほど嫌……」
「違います! ………………です」
私が泣き出したから、ディライト様がびっくりしている。
違う違う。誤解しないで!
ちゃんと伝えなくては。
そう思って私は腕をディライト様の背中に回してギュッと抱きしめ返した。
「……シャルロッテ?」
「大好きです、ディライト様…………わ、私も皆の前で口にした“あなたを愛しています”という言葉……演技なんかじゃありませんでした……」
「…………シャル」
「大好きです、私もディライト様の事を愛しています! だ、だから、私を……」
───あなたの花嫁にして下さい。
その言葉は口に出来なかった。
ディライト様が強く強く抱きしめてきたから。
(く、苦し……!)
苦しいのに幸せしかない温もり。
私、これからもこの温もりを感じていいのよね……?
「シャルロッテ……」
「……ディライト様」
私は潤んだ瞳でディライト様を見つめる。目が合ったディライト様も甘く優しく微笑んだ。
「…………好きだよ。俺の可愛いシャルロッテ」
「……」
そう言ったディライト様が美しい顔を近付けて来たので、そっと瞳を閉じる。
(……前は邪魔が入ったけれど────)
今は邪魔をする人なんていないから。
ほどなくして、私の唇に優しくディライト様の唇がそっと触れる。
(あ……)
生まれて初めて触れた大好きな人の唇は、ディライト様そのままの甘くて優しい味がした─────
───チュッ
「シャルロッテの唇は甘いね」
「……な、なんて事を言うんですか……」
恥ずかしくて同じ事を思ってます……とは言えない。
───チュッ、チュッ
「ふわふわで甘くて……まるで砂糖菓子のようだ」
「…………んっ」
初めて唇を重ねてからの、その後のディライト様からのキス攻撃が全く止まらない。
曰く、ずっと我慢していたから反動が凄い……らしい。
優しくチュッと、触れるだけだったキスは回数が増えるにつれて段々、濃厚なものに変わり私の頭の中もすっかりデロンデロンにさせられてしまった。
(ディライト様……恐ろしい人……!)
───
「シャルロッテ。これを」
「?」
そうしてようやく満足したのか、唇を離してくれたディライト様が私に差し出したのは……
「指輪?」
「俺の瞳の色の石を使って作ったんだ」
「……ディライト様の色……」
ディライト様が私の左手を取ると、そっと薬指に指輪をはめる。
「シャルロッテが俺のシャルロッテだという証だ」
「!」
「シャルロッテはその可愛さ故にこれから先も絶対に男共に言い寄られるからね。俺との婚約は既に周知の事実だけど虫除けだ」
「虫除けって……もう! また、それですか……」
私の抗議にディライト様は苦笑する。
「シャルロッテがこんなにも無自覚だから、余計に寄ってくるんだろうなぁ」
「……?」
「可愛いからシャルロッテはそのままでいいよ。俺が蹴散らせばいいだけだし。それにドゥラメンテ公爵家の家紋も彫ってあるから、これを見ても手を出してくるのは余程のバカか阿呆くらいな者だろう」
「ふふっ」
その言い方が可笑しくて笑ってしまった。
「…………その笑顔も可愛い。可愛くて可愛くて…………止まれない」
「え? ディライト……さ」
可愛い、可愛いを連呼したディライト様が、そっと私の唇を塞ぐ。
こうして再び、優しい優しいキスがたくさん降って来る。
(知らなかった……私、こんなにも愛されていたのね)
確かに伝わって来るディライト様からの愛という気持ちが心地よくて幸せだと思った。
…………だから、まさか本当にこの指輪があるのに手を出そうとする、ディライト様曰く、バカで阿呆がいるなんて……この時の私は思ってもみなかった。
87
お気に入りに追加
5,591
あなたにおすすめの小説


【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる