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40. 悪役にされた令嬢は寂しさを覚える
しおりを挟む「なっ、なっ……」
私が断言したその言葉にジョーシン様は青白いを通り越して真っ白になっていった。
「くそっ! だがシャルロッテ! 私を見限ってディライトを選んでも、ディライトが王になることは無いのかもしれないぞ? 反王政派のヤツらがいるからな!」
「……」
「残念だが、お前だって王妃になれるとは限らな───」
「ジョーシン様」
私はにっこり笑って言う。
「……っ! く……その顔は可……!!」
「?」
ジョーシン様が変な叫び声をあげた。
とりあえず、無視して続ける。
「ジョーシン様。貴方は本当に私の事をまるで分かってくれていなかったのですね? 私はこれまで一度だって“王妃”という立場を望んだ事はありません」
「な、に?」
(そう……この人の目には、私はそんな風に映っていたのね)
イザベル様と同じじゃないの。
「あの頃の私は“好きだと思っていた人”の力になりたかっただけですよ」
「……え?」
「だから、今の私はディライト様が自分の望む生き方が出来れば、私は王妃になんてならなくても構わないのです」
「だが、そうなると反王政派の奴らが……」
「……」
私は無言のままもう一度にっこりと笑う。
そんな私の顔を見たジョーシン様が身体を震わせた。
「……シャル……ロッテ! ま、さかお前もディライトも、さ、最初からこれを狙って……!」
「……」
──今頃、気付いても遅いのよ、ジョーシン様。
「あぁ、それから。前にも言いました。気安く私の名前を呼ばないでいただけますか?」
「なっ……」
「……それでは。これから、この先のあなたがどうなっていくのか、楽しみにしていますね」
「待て! シャル…………うっ」
シャルロッテと呼びそうになったジョーシン様はディライト様に睨まれて言葉を詰まらせた。
「……」
この国の王室はもう終わりね。
ジョーシン様はこれだし、全く相手にされなくて放心しているミンティナ殿下も問題外。
国王陛下達も……あれは完全に反王政派の勢いに呑まれている。
(おそらく近いうちに退位を発表する事になるのではないかしら?)
これから忙しくなりそう。
そんな事を考えていたら、目の前にスっと手を差し出される。
(ディライト様……)
「……そろそろ帰ろうか、シャルロッテ」
「はい……」
私はそっとディライト様の手を取る。
そして、寂しさを覚えた。
(そうだわ……これで終わりなんだわ)
王族の行く末や、イザベル様とマルセロ様の処罰について……まだまだ全てがスッキリするのはこれからだけど、その下地は完成した。もうこれで私の望みはほぼ叶ったわ。
つまり、それは……
───ディライト様との契約が終わる事を指している───……
────
「……え? あの……ディライト様??」
「……」
帰る事にした私達は、そのまま馬車に乗り込んたのだけど……
「さすがにこの態勢はどうかと思います……!」
「……大丈夫だよ、落としたりしないから」
これまでも馬車の中での距離は近かった。
向かい側ではなく、隣に座ったり抱きしめられたり。
…………では、これは??
「そ、そういう問題では無いです! 何で……何で、ひ、膝……」
「ひ?」
「膝の上に乗せるんですかーー!?」
「ははは!」
私の訴えにディライト様は楽しそうに笑う。
何がそんなに可笑しいの?
私が慌てているのを楽しんでいる??
「そんなの決まってるだろう? シャルロッテが“ふわふわ”だからだよ」
「ふわ!? 意味が分かりません!」
ディライト様が苦笑しながら、ギュッと私を抱きしめ抱え込む。
「ふわふわの見た目に、ふわふわの髪、そして抱き心地もふわふわ……こんなにふわふわして可愛いのだから愛でたくて仕方ないんだよ」
「は……」
「シャルロッテの全てが愛しい。本当は会場でもっと見せつけてやりたかったけど」
「けど?」
ディライト様が苦笑する。
「照れて顔を赤くしたり、嬉しそうに微笑むシャルロッテに心臓を射抜かれた輩が多すぎてね」
「……」
「一人一人、全て抹殺するのはちょっと大変だからこれ以上増やすのは勘弁なんだ」
「!?」
吹き出すかと思った。
“抹殺”って例えじゃなかったの!?
──チュッ
「ん……」
ディライト様が額に軽くキスをする。
(もうすぐお別れなのに何で?)
もう、イチャイチャする必要なんてないのに……
「シャルロッテ……」
「ディライト……様」
ディライト様は額だけでなく頬にもキスをたくさんくれたので、馬車の中での私は甘く甘く蕩けさせられてしまった。
───
「シャルロッテ。明日、時間があるなら俺と出かけないか?」
「お出かけ?」
馬車が我が家について降りた後、玄関の前でディライト様が真剣な表情でそう言った。
「約束しただろう? デートしようって」
「デート! 2回目の?」
私の目がキラッと輝く。
デート! もうこれで終わりだと思っていたので凄く嬉しい!
「そうだよ」
「行く! 行きます!! 行きたいです!!」
私はグイグイ近付いて全力で答えた。
「…………ち、近っ! しかもまた、そんな今すぐ襲いたくなるような目をして……いや、その無邪気さが可愛い……」
「ディライト様?」
物凄い早口だったので、全く聞き取れなかった。
「何でもない。明日……話すよ」
「明日?」
「それと、お願い事なんだけど……」
ドキッとした。
ジョーシン様を引きずり下ろす為に契約したこの偽装婚約。
同時に私はディライト様から全てが終わったら“願い事”を聞いて欲しいと言われている。
「……まだ、完全に終わりでは無いけれど、明日、聞いてもらえる?」
「は、はい! 勿論です!」
「ありがとう」
(私にも叶えられる内容だと言っていたけれど、本当に大丈夫かしら?)
ちょっとドキドキする。
だけど、ここまでの結果になったのは全部、ディライト様のおかげだもの。
(ここまでのお礼として、ディライト様の望みを叶えて……)
ディライト様を私から解放しないと!
今はゴタゴタしているから、正式な婚約解消は少し先だけど、それでも。
(その後の自分の身の振り方も考えなくちゃ……)
───その日の夜は全然眠れなかった。
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