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37. 悪役にされた令嬢と令息は決着をつけようとしたけれど
しおりを挟む「……ハッキリだと?」
「そうですよ、さすがのあなたでも、そろそろ思い知った所でしょう?」
「思い知る……」
そう口にしてジョーシン様は会場内を見回す。
ここまで、色々やらかしたジョーシン様に向けられる視線は……
「何で……何でそんな冷たい目で私を見るんだ!」
双子の姉弟がやらかした“魅了”事件は、ジョーシン殿下だって被害者ではある。
だけど、残念ながら彼に向けられる視線は同情だけでは無かった。
「……っ! 何故、私がそんな目で見られなくてはならない!? 私は王子だぞ? この国の正当な……」
「恐れ入ります。 …………お言葉ですが、殿下」
そう言って動揺して叫んでいるジョーシン様に声をかけたのは彼の側近の一人。
「なんだ?」
「あの男爵令嬢に操られていたとは言え、その間に貴方様が全く手をつけようとしなかった仕事を片付けてくれたのは、ドゥラメンテ公爵令息でございます」
「……何!?」
「何故、あんなに溜まっていた仕事がある日、突然無くなっていたのか、貴方は考えもしなかったのですね」
「ディライトが!?」
側近の彼は悲しそうな表情でそう言った。
ジョーシン様はその事実に大きなショックを受けている。
「……」
「恥ずかしながら我々も、あのクッキーを口にして男爵令嬢に対して、その……好意を抱いてはおりましたが……」
「……」
「殿下はわれわれより強く操られていたのだろう、と分かっていても……それでも貴方様の行動と言動は……」
側近の彼が言いたいのは、“婚約破棄したり、仕事放棄するほどのめり込んだのは殿下達だけだった”だと思う。
ジョーシン様もミンティナ殿下も双子と出会ってからまともな判断も公務も出来ていなかったから。
「……イザベル、貴様……」
ジョーシン様が萎れていたイザベル様に冷たい目線を向ける。
視線を感じたイザベル様はハッとした様子で言う。
「わ、わ、私は悪くないわ!」
「……何だと?」
さっきまで萎れていたわりには威勢のいいイザベル様。
「いくら何でもそこまで操れるわけないじゃない! 公務を疎かにしたのは殿下自身の問題でしょ!! あなたがそういう人だったって事よ」
「……っ! 貴様……!」
そこで二人はまた、見苦しい言い争いを始めた。
皆、そんなジョーシン様とイザベル様を冷めた目で見ている。
微かに残っていただろうジョーシン様派だと思われる人達も肩を竦めてもう無理だと言い始めていた。
(……これで、ディライト様の優勢に傾いたわ!)
「私の幸せの為に、もっと使える人だと思ったのに!」
「……貴様! それが本性か! どこまで私を騙して……」
「最初に私に色目を使ったのは殿下ですよー?」
「貴様っ……!」
私達から見れば、それは完全にどっちもどっち。
ジョーシン様も今更、どんな言い訳をした所で、失った信頼を取り戻すのは簡単じゃない。
そう思ったら改めてディライト様ってすごい人なんだと思った。
(ミンティナ殿下にあんな風に婚約破棄されて笑い者になっていたのに……)
今は誰一人、彼の事をバカになんてしていない。
「ディライト様はカッコいいですね」
「え?」
「さっきの言葉! すごく、すごーく、カッコよかったです」
さっきから会場内の令嬢達がうっとりした表情でディライト様を見つめている。
(きっと、その中には私を蹴落としてジョーシン様と……って思っている人もいるのでしょうね)
「ディライト様はきっとこの先もモテモテでしょうから──……」
「シャルロッテ」
「は、はい?」
「俺は、不特定多数の令嬢達が俺の事をどう思おうとも関係ないし、気にもならない」
「え?」
ディライト様は、でも……と続ける。
「いつだって、シャルロッテにだけはカッコいい、素敵、そう思われたいんだ」
「え……と、私にだけ?」
「そうだ。俺はその為ならどんな努力だってしてみせるよ。だから───」
そんなディライト様の真剣な瞳が私に向けられた時だった。
「────これは、なんの騒ぎだ?」
「随分と騒がしい様子だけれど??」
そう言って会場に現れたのは……
「父上! 母上!? 何故ここに……本日参加の予定はなかったはず……」
ジョーシン様が驚きの声を上げた。
私達は慌てて頭を下げる。
(ここで、陛下が登場するなんて……!)
タイミング的には最悪としか言えない。
せっかく、ジョーシン様よりディライト様という空気になって来ていたのに戻されかねない。
「ミンティナが“私の真実の愛の人”をちゃんと紹介したいから、来て来てと騒がしかったから少し顔を出しておくかと思ったのだが…………」
「何だか様子が変ねぇ……?」
陛下たちは会場内を見回しながらそう口にする。
そして、暫くあちらこちらに視線を向けた後、不思議そうな顔をした。
「……ミンティナが、わざわざ婚約破棄宣言をしてまで結ばれたかったという、身分の低い男はどこだ?」
「すごく噂になっていた人よね? 双子で髪色が特殊で……」
(本当にこの男爵家の二人の印象はまず髪色なのね……)
陛下達の認識もそこらしい。
「お、お父様、お母様……ち、違うのです……わたくし……」
と、そこへずっとショックを受けて動けていなかったミンティナ殿下が二人の元へと駆け込む。
「ああ、ミンティナ。そこにいたのか。違うとは何だ?」
「わ、わたくしは騙されていたのです……!」
「騙す……?」
陛下の顔が怪訝なものに変わる。
「わたくしもお兄様もあの双子に洗脳されて騙されていたのですわ!!」
「洗脳だと!?」
「ええ、お父様……ですから、わたくしは騙されてずっと好きだった婚約者に酷い事を言ってしまいましたの……」
「ディライトの事か? お前がもうあの男は嫌だと泣きついてきたではないか」
「……洗脳されていたからですわ。わたくしの本当の想い人は」
「ディライトだと?」
ミンティナ殿下が頷く。
その様子を見て私はすごく嫌な気持ちになった。
(そして……何だろう、嫌な予感、がする……)
ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てる。
──そうよ、お父様が言っていたじゃない……
陛下は子供可愛さに次代はジョーシン様を推していて、ポンコツに成り下がった彼の為に……
「……っ!」
(……いけない! このままだと陛下は!!)
「お兄様もですわ。今、あそこで何やら言い争いをしていますように、目が覚めたようですの。ですから、お兄様も本当は婚約者を……婚約者だった方をお好きで……」
「シャルロッテ嬢か。ん? つまり、何だ? 二人共あれだけどこかの男爵家の者達がいいと言っていたが……結局は元の婚約者の方が良かった……と、そういう事か?」
陛下はそこで黙って何かを考え込んだ後、私とディライト様の方に視線を向けた。
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