【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea

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35. 悪役にされた令嬢は、何かを企む双子の姉の罪を暴く

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「シャルロッテ……」

  (ち、近いわ……ディライト様……)

  唇に触れたいって言ったわよね??
  そ、そ、それって……本物の愛し合う恋人や夫婦がする……挨拶とは違うキス。
  え、え、演技でそこまでやるの!?

  ドキドキし過ぎて心臓が飛び出しそうになる。

「また、そんな目をする……」
「え?」

  (そんな目……?)

「勘違いでも何でもいい。後で怒られてもいい!  でも、そんな風に愛しそうな目で見られたら、もう我慢は無理なんだよ」

  そう呟いたディライト様の美しい顔がゆっくり私へと近付いて来た。

  (あと少し……)

  互いの息を感じられるほどの距離に顔が近づいたその時……
  私の視界の端で、もの凄い勢いでこちらに向かって来る人物の影が見えた。

「……!?  えっ?  何?  だ、誰!?」

  ( え?  えっ……怖っ!  誰がこっちに向かって突進してくるの……?)

  私の脳内は軽いパニックに陥った。
  そんな私の様子を見たディライト様が近付くのをやめてとたんに心配そうな表情になる。
  
「?  シャルロッテ、どうし……」
「あなた達!  私の目の前で何をしているのよっ!!?」
「!」

  ディライト様の言葉を遮り、突進して来た人……イザベル様が勢いよく割り込んで来た。

「──誰の許可を得て私の前でイチャイチャしているのよ!  ふざけないで!」
「……」
「……」

  私とディライト様がそっと目を合わせる。

  (ふざけないで、と言われても)

  それに許可って。

「……私とディライト様が何をしようとも、そこにイザベル様の許可は必要ないと思いますが?」
「何ですって!?  私の“真実の愛”の相手に手を出そうとしているのだから、私から文句が出るのは当然でしょう?」

  まだ言っている。私は呆れた。

「ディライト様はイザベル様の真実の愛の相手なんかじゃありません! 何度言えば分かるんですか?  そんな薄っぺらいものは、どこにもありません!」

  イザベル様はどうしてそんなに“真実の愛”に、こだわるのかしら??
   とにかく彼女の言う真実の愛は薄っぺらすぎる。

「はぁっ!?」
「イザベル様は要するに自分の好きな人の事を最もらしくそう呼んでいるだけですよね?」
「何ですって!?」
「それも、いるだけです!」
「……え?」

  イザベル様の顔が引き攣った。
  今の言葉で魅了の力を連想したに違いない。

「ひ、人の気持ちを捻じ曲げているですって!?  な、何を言ってるのよ」
「……」

  口では強気な事を言っているけれど、イザベルの目は確実に泳いでいた。
  甘いわね、イザベル様。
  今のあなたの反応は、いかにも疚しい事がありますよ、と言っているも同然なのよ。

「……私達が何も知らないとでも思っているんですか?」
「だ、だから!  なんの話よ!」

  私はにっこり笑って答えた。

「イザベル様、もうお忘れですか?  ここ数日、あなたの弟であるマルセロ様はディライト様の元にいたんですよ?」
「は?」
「そもそも、どうしてそんな事態になったのか考えましたか?  そして、私達がマルセロ様から“何か”を聞いたとは思わないのですか?」
「…………え、ま、さか」

  イザベル様の顔色が変わる。

「イザベル様、あなたはいつも美味しそうなクッキーを焼いてよく皆様に差し入れをされていたようですね」
「!」

  イザベル様がピクリと反応した。

「ジョーシン様もよく好んで食べられていた……とか。ですわよね?  ジョーシン様」
「え?  あ、あぁ……」
  
  呆然と固まっていたジョーシン様が、私に話を振られるとハッとしたように頷く。

「ジョーシン様が食べられていたのですから、他にも多くの方が口にしているはずです」
「な、何が言いたいのよ!」
「イザベル様。ディライト様があなたが多くの方に食べさせたクッキーを詳しく調べてくれました」

  私のその言葉にイザベル様はポカンとする。

「……は?  何で?  どういう事?  調べたからって……」

  (……あぁ、この反応。やっぱりそうなのね?)

  イザベル様は調べたから何だというの?  そんな顔をしている。
  つまり、思った通り!
  イザベル様はこのクッキーに何が入っていたか知らないんだわ。

  マルセロ様もそうだった。
  私はてっきり彼は香水か何かで匂いを纏わせて振り撒いてると思っていた。
  でも、あの時、おかしいなと疑問を持った。
  その後のディライト様の取り調べで分かったのは、マルセロ様は香水を使っていたわけじゃない。
  そういう体質だった。

  (自分の意志で人を魅了する匂いを発生させられる、と聞いた時は眩暈がしたわ)

  そんな物語の魔法のような事があるの?  って。
  何度も身体検査も行ったけれど、何故そんな匂いが身体から出せるのかは不明なままだった。

  ──いっその事、解剖しちゃいたいね

  そう口にしたディライト様はとてもとても惚れ惚れするくらいの黒い笑顔だったわ。
  ……聞かなかった事にしたけれど。



「……調べたからって何なのよ!  ど、毒なんて入れてないし!  皆、元気そうじゃないの!!」
「……」

  つまりは、イザベル様もそう。同じなのよ。
  ディライト様が調べた分析結果で分かった新種の媚薬成分と幻覚剤。
  あれはイザベル様がわざわざ薬をどこからか入手したわけじゃない。イザベル様もマルセロ様と同じで“そういう体質”だったのだと思う。

  (自分の手で作ったものに人を魅了する力を入れられる、そんな体質)

  そんなにわかには信じられない魔法のような力だから、イザベル様はまさかそれが成分結果として現れているとは思っていない。

「皆、元気には元気だが、殿下を筆頭に皆、明らかに様子はおかしくなったな」
「なっ!」

  ディライト様が私の言葉を引き継ぐ。

「プリマデント男爵令嬢。これがお前の配っていたクッキーを分析した結果だ。その結果、お前はこれから牢屋で厳しい取り調べが待っている」
「牢屋ですって?  それに、と、取り調べ!?」

  そう言ってディライト様が、皆にもよく分かるようにあのクッキーの中に含まれていた成分について説明する。
  そして、当然だけれどその内容は皆に大きなショックと驚きを与えた。

「……は?  待ってよ!  び、媚薬……?  禁止薬物の幻覚剤……?  何よ、これぇ……」

  イザベル様は真っ青な顔をしてその場で震え出した。

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