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34. 何かを企む双子の姉は悪役にした令嬢に反撃される

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  ……何よこれ。どういう事?

  マルセロが帰って来なくなったのは、すっかり悪役令嬢と上手くやってるとばかり思っていたのに!
  だから、悪役令嬢のビッチな本性を知って目が覚めたドゥラメンテ公爵令息様を私がお慰めしてあげるつもりだったのに!
  それで私の優しさと美貌に公爵令息もメロメロ……計画はどこへ行ったのよ!!

  (マルセロの奴……!)

  上手く行くどころか公爵令息の所にいた……ですって!?
  しかも、私達の自慢の髪をあんな地味にしちゃって……バカなの?
  
  (しかも何で色が変わっただけでモブさが増してるのよ……信じられないわ!)

  そんな事を思いながら私は項垂れている様子のマルセロを見る。
  ……これは、もうダメね。使えない。

  (つまり、幸せになるのは私一人でいいって事よね!)

  私の相手として申し分ない人だと思っていた王子は要らない。
  ここ数日で分かったわ。
  ジョーシン殿下は公務を与えられていない。完全に見限られた!

  (間違いない!  次の王はドゥラメンテ公爵令息よ!)

  ちょっと陛下達が難色を示してるらしいけど、あんな無能王子では周囲からの指示も得られない。
  さすがに考え直すでしょ!

   (それに彼はとんでもなくカッコいい!  最高よ!)

  悪役令息だからって正直バカにしていたけど、彼は本物。偽物化粧詐欺女の悪役令嬢とは大違い!
  だから、主人公の私の方が彼の相手には相応しい!
  王位をチラつかせて彼を縛り付けようとする悪役令嬢なんて不要でしょ───


  と、思ったのに。



「まさか!  こんなふわふわで抱き心地の良いシャルロッテの温もりが苦しいはずないだろう?」
「……!」
「これからも、もっともっと抱き着いてくれたら嬉しい。うん、そうだな毎日は譲れない……」
「これから?  ま、毎日……?」

  (……!?  はぁぁ!?  何あれ!)

  何で二人して頬染めてあんなイチャイチャしながら会話してるのよ!?
  許せなかった私はとっさに怒鳴る。

「あぁぁ、もう!  さっきから、何でそこでイチャイチャ繰り広げてるのよ!」

  そう言ったら悪役令嬢のくせに反論して来た。
  なんて生意気なの。
  そっか、男がいなくなるのが辛いのね?  マルセロとは何も無かったとしてもやっぱり性格はビッチに違いない!
  だから、優しい優しい私はしょうがないから無能王子は返してあげようと思ったわ。

  (前はあれだけ大好きオーラを出していたんだもの?  喜んでくれるわよね??)

  だから、こう言ってやったのよ!

「ジョーシン殿下をお返しします!  ですから代わりにドゥラメンテ公爵令息様を私にくださいね?」

  
  
  悪役令嬢、シャルロッテは私の発言にポカンとした顔を見せた。

  (ふふ、驚いてるわぁ!  とっても、間抜けな顔……)

  さぁ、泣いて喜びなさい!
  ありがとうございます!  嬉しいですって!
  そしたら、これまでの事は次の王妃として許してあげるわ。これからもその辺の道端で生きて行く事も許してあげる!

  と、ほくそ笑んでいたら、
  
「イザベル!  君って人は……!  やっぱりディライトの奴と浮気を……」

  これまで沈黙を貫いていた無能王子がショックを受けた顔で私に向けて怒鳴る。

「待っててくれると言ったではないか!  さっきのエスコートも何だか様子がおかしいと思っていたが……」

  (煩いわね。邪魔しないでよ!  こっちはあなたに“愛しの愛しのシャルロッテ”を返してあげようとしてるんだから黙って有難く受け取りなさいよ!!)

  私は知っている。
  どこがいいのかさっぱり分からないけれど、この無能王子はずっと悪役令嬢に惚れていたらしい。

  ───あまりの可愛さに独り占めしたくて嘘をついた。
  結婚すれば夜だけは素顔に戻るだろう?  私だけの特権だ。

  それなのに私を口説くの?  と、訊ねたら、

  ───シャルロッテは私にベタ惚れだからな。軽いつまみ食いくらいは許してくれるさ。
  それに私が愛してるのはシャルロッテだけだ。

  とか言っていたくせに、魅了の力を使ったらあっさり抵抗もなく私に心変わりしたくせに。

  

  私は目に涙を浮かべてうるうる作戦に出る。

「……もともと相思相愛だった二人の間に入ったのは私ですもの……」
「イザベル……!」
「実はずっと二人を引き裂いた事、申し訳ない気持ちで一杯でした。だから、やっぱりシャルロッテ様にお返ししま────」
「要りません」

  (…………ん?)

  今、どこから声が?
  そう思って声のした方を見ると、間違いなく悪役令嬢がその言葉を発していた。
  その目は私に怒っているようにも見える。

ジョーシン様そこの人も要りませんし、ディライト様をあなたになんて譲りません!」
「そんな……!  でも、分かるのよ。私の真実の愛のお相手はきっと──」
「違います!」

  悪役令嬢のくせに生意気にも反論してくるなんて!
  大人しく乗っかりなさいよ!

「さっき、マルセロ様によって“真実の愛”とやらがどれだけ薄っぺらいものか分かったはずなのにまだ、そう言うんですね?」
「……私のはいつだって本物よ!  マルセロとは違うの!」
「そうですか!  ですが……もしも!  ディライト様にそのような相手がいるなら、その相手は…………私ですから!」
「!」

  (本当にイラつく勘違い女ね……)

  断罪されるだけの女にそんな相手がいるわけないでしょう!?
  と言ってやりたい。

「私はジョーシン様……いえ、ジョーシン殿下ではなくディライト様を愛しています!」

  悪役令嬢がそうキッパリ口にしたと思ったら、ドゥラメンテ公爵令息が悪役令嬢に抱きついた!
  そしてそのまま公爵令息は悪役令嬢なんかの顔にキスをし始めた。

  (また、私の目の前でチュッチュと……!)

「ディライト様……ん、擽ったいです……」
「ダメだ……そんなに可愛い事を言ったシャルロッテがいけない」
「だって……私……」
「シャルロッテ……」

  こんなにも可愛い私を無視して、公爵令息は悪役令嬢に迫っていく。
  悪役令嬢は抵抗しないので、されるがままなっていた。
  無能王子も、そこの人呼ばわりされて要らないとまで言われたせいでショックを受けているのか固まって動かず黙ったまま二人を見ている。

「ディライト様……」
「俺のシャルロッテ……」

  頬を染めて甘く蕩けそうな顔をした悪役令嬢と公爵令息は、完全に二人の世界を作りあげていた。

「……シャルロッテ。その顔はダメだ……我慢出来ない……その甘くて美味しそうな唇に……触れたくなる」
「んっ…………え……?」

  そう言って公爵令息は悪役令嬢の顎を持ち上げて顔を近づけようとする。
  その光景を見てさすがの私も動揺した。

  (はぁ!?  ちょっと待ちなさいよ!  まさか唇にキスをする気なの!?)

  そんなの挨拶の領域超えてるでしょーー!?
  私の未来の夫に何するのよーー!

  さすがに、これには我慢がならなくて私はイチャイチャを繰り広げている二人の元に突進した。

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