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29. 悪役にされた令嬢と令息は画策する

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「シャルロッテ。今、王宮内は三つの意見が対立している」
「お父様?  突然、何の話ですか」

  ディライト様がとても黒い笑みを浮かべながらマルセロ様を退治してから数日後。
  その日、帰宅したお父様に「話がある」と呼ばれて執務室を訪ねると、疲れ切った顔でこう告げられた。

「王室の今後についてだ」
「あぁ……」
「最近、めっきり干されて、もはや、誰からも期待されていないジョーシン殿下を推す者、ディライト殿を推す者、そして、反王制派だ。勢いとしてはディライト殿派と反王制派が強いのだが……」
「……干されているのにジョーシン様を推す方もいるんですね……?」

  一応、あれでも直系ですものね。
  それに反王制派の動きもそろそろ確認しておきたい所よね……

「……陛下達だよ」
「!」
「やはり、自分の子供に継いで欲しいと願ってしまうらしい」
「……」

  ずっと沈黙を貫いてきたけれど、ついに出て来たのね。
  婚約破棄騒動も、双子の存在もずっと黙認していてジョーシン様やミンティナ殿下を責める様子を見せなかったからある程度は察してはいたけれど……

「そのせいで、陛下の事を見限ってディライト殿派につくものや、反王制の声が圧倒的に強くなって来た所で、ジョーシン殿下派から厄介な話が出て来てしまった」

  (嫌な予感がする)

「正直、殿下は阿呆過ぎて期待出来ないし、あの男爵令嬢が未来の王妃と言うには少々……なので、長年婚約者で妃教育も受けて来て後ろ盾も強いシャルロッテに“婚約者”に戻って貰えば良いのでは?  という声だ」
「お断りします!」
「全く考える素振りが無いほどの即答か……」
「当然です!」

  私がそうキッパリ言うと、お父様は苦笑いしながら言う。

「そう言うと思ったよ……シャルロッテは、ディライト殿の事が大好きだからな」
「う!」
「あれだけ言ったのに毎日毎日、出迎えながらイチャイチャイチャイチャ……」

   (その通りだけど、そう断言されると恥ずかしいわ)

「……そ、そうよ。好き。私、ディライト様の事が大好きなの!  だってディライト様はね、あんなに素敵なのに──」
「落ち着けシャルロッテ……」
「いいえ、まだ語り足りないわ!  お父様!  ディライト様は──」

   お父様が必死に止めに入るまで、私はディライト様の好きな所を延々と語り続けた。




◇◇◇



「無理やりパーティーを開かせる?  いえ、開かせる事になった?」
「そうなんだ。早速、あの男爵令息には役に立ってもらったよ」
「……えっと?」

  その日、私の元を訪ねて来たディライト様が、残りのイザベル様やジョーシン様&ミンティナ殿下を追い詰める為に、ちょっとしたパーティーを開かせる事になったよ、と私に言った。

「何故、そこでマルセロ様が出てくるのですか?」

  今、彼の身柄はドゥラメンテ公爵家にある。
  謎の力の更なる分析と、残りの人達を追い詰める為にディライト様は利用すると言っていたけれど……

「ミンティナに手紙を書かせた」
「ミンティナ殿下に?」
「男爵令息はこうして人知れず追い詰める事になったけれど、他の三人は公の場で追い詰めたかったからね」
  
  でも、舞踏会が終わったばかりで最近は新しい催しの予定が無かったから。どこかの貴族が開くパーティーや夜会では迷惑かけてしまうし。
  と、ディライト様は言う。

「男爵令息に、最近、忙しくてミンティナと会えそうにないので、何かパーティーがあったならいいのに……みたいな手紙を書かせた」
「!」
「ミンティナは単純で我儘な所があるからね。こうすれば何か適当な事を言ってパーティーを開きたいと周囲にお願いすると思ったんだ」
「……」
 
  そうして、本当にパーティーの開催が決定、と。

  (ディライト様って……)

  私はじっとディライト様を見つめる。

「どうかした?」
「いえ、ディライト様ってとても格好良いなぁって……」
「え!」

  心の底から感じた事を呟いたらディライト様が少し顔を赤くした。
  そして、照れくさそうに言う。

「…………他の誰よりもシャルロッテにそう言われる事が嬉しい」
「ディライト様……」

  その笑顔に胸がキュンとする。
  マルセロ様の前ではあんなにも黒い笑顔を見せ、こうして裏で色々画策したりもするのに、私の前では顔を赤くして照れたり、嬉しそうに笑ってくれたり……

  (そのギャップがすごい)

「シャルロッテ……な、何でそんな目で俺を見るんだ?  て、照れる……」
「そんな目……?  照れる?」
「あぁ、ただでさえシャルロッテはこんなにも可愛いのに、更に可愛いさが増す。そんな目だ」
「……」

  私にはその違いが全然分からないけれど、ディライト様の中では何かが違うらしい。

「……シャルロッテ、君を抱きしめてもいい、だろうか?」
「え!?」
「俺は今、ものすごく君を抱きしめたい!  その柔らかい身体をギューっと腕に閉じ込めて、ふわふわのその髪に触れて……とにかく!  シャルロッテを心ゆくまで堪能したい!!」
「な、な……」

  (何をそんなに堂々と言っているの!)

「それに、今度のパーティーでは、大勢の前でたくさん俺とイチャイチャして貰わないといけないからね。予行練習だと思ってくれれば」
「予行練習……」

  そう言いながらディライト様は、向かい合わせに座っていたソファから私の隣のソファへと移動してくる。
  そして、止める間もなくそのまま私の身体は優しい温もりに包まれた。





  ─────その頃、イザベルは。


「……?  マルセロが帰って来ない。こんなの初めてなんだけど??」

  無事に悪役令嬢の懐に入ったと思われるマルセロ。
  でも、まさかその日から全く帰宅しないなんて思いもしなかった。

「さすがにびっくりなんだけど……」

  腐っても悪役のあの女の身分は公爵令嬢。所有する屋敷もきっと沢山ある。
  男一人こっそり囲うなんて簡単な事なのかもしれない。

「あの化粧詐欺女は、化粧詐欺だけでなく実はビッチ女なのかも。さすが悪役令嬢……」

  あのそれなりに見える偽物の容姿を利用して男に近付き……好き放題しているに違いない!
  あぁ、まさに悪役にピッタリの女!

「だけど、マルセロ……浮気は程々にしてくれないと困るわ」

  先日、ミンティナ殿下に「マルセロ様と急に会えなくなって……」と泣きつかれたばかり。
  まさか、悪役令嬢の元でヤリまくってるらしいなんて言えないし……

  (困ったわ……)

  そんな事を考えていたら、ミンティナ殿下から手紙とパーティーの招待状が届いた。

  “忙しいらしいマルセロがどうしても私に会いたいと言うので、急遽パーティーを開催する事にしましたの”

「そういう事だったのね。へぇ、やるじゃないの、マルセロ。そこで悪役令嬢を再び、断罪するつもりなのね!」

  お盛んなだけだと思ったら、ちゃっかり陥れる準備をしていたなんて。さすが私の弟!

「ドゥラメンテ公爵令息様も、悪役令嬢のあの女を愛してるとか意味分かんない事を言ってたけど、実はあの女が、とんでもないビッチで浮気までされてたと知ったらさすがに見限るはず!」

  これで、彼の目も覚めるわ!






  ───こうして、さまざまな思惑を胸にパーティーが開催される事が決まった。

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