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27. 悪役にされた令息は何かを企む双子の弟を叩き潰す
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気持ちが盛り上がりすぎて、好きですって言いそうになっていた。
マルセロ様の大声で現実に戻されてしまったわ。
「……どうやら、あの男爵令息は自分の命が惜しくないみたいだな」
「……」
ディライト様の方から凄い冷気が……これはかなりお怒りの様子……
「行こう、シャルロッテ」
「はい」
私は熱くなった頬を冷ましながら、ディライト様と共に門へと向かった。
────
「とにかく、お帰り下さい。毎日来られてもお嬢様には会わせられません!」
「理由は何でだ? そんなの横暴すぎる!!」
「横暴も何も常識でしょう!? あなたはそれが分からないのですか? それにお嬢様にはとっっっってもお似合いの……いえ、こっちが気恥ずかしくなるくらいの熱々の婚約者様がおられますので大変迷惑です!」
「あぁ、婚約者の事はもちろん知っている! ……だが、あの者は……」
マルセロ様は、今日の応対者である使用人シジーにかなりの剣幕で詰め寄っていた。
(ディライト様とお似合いだって言われたわ……ちょっと嬉しい)
熱々の婚約者は照れるけれど。
「とにかく! 何度訪ねられても───」
「ありがとう。もう大丈夫よ。シジー、あなたはもう下がっていいわ」
彼らの背後から私がそう声をかけると、言い争っていたシジーとマルセロ様の二人が勢い良くこちらへと振り返った。
「お嬢様!? ドゥラメンテ公爵令息様まで!」
「……あぁ! アーベント公爵令嬢! ドゥラメンテ公爵令息も一緒? ハッ! そうか、あなたが……」
(そうか、あなたが? って何……?)
マルセロ様はようやく私が姿を見せたからか笑顔浮かべる。
ついでに何故か意味が分からないけれど、ディライト様にまで同じような笑顔を向けていた。
「……」
きっと、この笑顔は見る人が見れば胸をときめかせて頬を赤く染めてしまいたくなるくらいの笑顔なのだと思われるけど……
(うーん、全くそそられないわね)
私は口元に広げた扇の奥でそんな事を考える。
ディライト様が眩しすぎて、マルセロ様ってとても特徴的な色の髪をしているはずなのに全然印象に残らないわ。
「お会いしたかったですよ、アーベント公爵令嬢。ようやく僕と会う気になってくれたんですね?」
マルセロ様が私に向かって微笑む。
「……勘違いしないでください。私はあなたのその毎日の行動に迷惑だと言いに来ただけですわ」
「迷惑……僕があなたに会いに来る事がですか?」
「ええ。当然です。毎日、毎日何の用ですか?」
「……シャルロッテ様! 僕はあなたに愛の───」
勝手に名前呼びに変えたマルセロ様は、愛とか言いながら私に近付こうとした。
「俺の婚約者の名前を勝手に呼んで、馴れ馴れしく触れようとしないで貰おうか」
「!」
そう言って庇うように私とマルセロ様の間に入ってくれたのは勿論、ディライト様。
その目は完全に冷え切っている。
(普段、私には見せない顔だわ)
こんな時なのにディライト様の新しい一面を見て胸をときめかせてしまう私は重症ね。
「なっ! ……ドゥラメンテ公爵令息様……な、何で!? ……あなたは姉さんが……みりょ……」
「ははは! 何で? とはどういう意味かな? プリマデントの令息殿?」
「…………っ! うっそだろ? 姉さん……何やってんだよ……」
マルセロ様は小さな声でイザベル様を責めた。
(きっと、ディライト様にクッキーを渡した事をイザベル様から聞いていたのでしょうね……)
だから、クッキーを食べたはずのディライト様が自分の味方ではない事に戸惑っているみたい。
さっきのディライト様に向けて言った“そうか、あなたが”という言葉は、イザベル様のクッキーを食べて虜になったディライト様が私をここまで連れ出してくれた……と勘違いしたから出た言葉だったというわけね……
(なんてお粗末なのかしら)
姉弟でも情報の共有が出来ていない。
よくもまぁ、こんな様子でジョーシン様やミンティナ殿下や王宮の人達を操れたものだわ。
「……」
あぁ、二人揃って行動していたからかも。
基本的な行動としてはマルセロ様が匂いで怪しい力の元を振り撒き、洗脳しやすそうな人を見つけたらイザベル様のクッキーを与えて更に強化するという形を取っていたのかもしれない。
(あ、でも……)
イザベル様がディライト様に先にクッキーを渡していた事を思うと、単独行動で洗脳した例外もあるはず。
結果として二人は、男女問わずに皆を自分達の虜にしているので、クッキーだろうと匂いだろうと、もれなく洗脳された人は相手が異性なら恋をして同性だと崇拝するように作用しているのではないかしら?
実際、ミンティナ殿下はイザベル様の事をイザベルお姉様と呼んで慕っていたもの。
私とジョーシン様が婚約していた時は顔を合わせる事なんて全く無かったのに。
(なんて迷惑な代物なの……)
「君の姉がどうかしたか?」
「……いえ、姉からドゥラメンテ公爵令息様と王宮で会ったという話を聞いていたので……」
「それで? その話が今、この場で関係あるのだろうか?」
「……い、いえ……」
マルセロ様は悔しそうに俯いた。
「さて? それで俺のシャルロッテに馴れ馴れしくも君は何を言おうとした?」
「……」
「愛……と聞こえたが、まさか愛の告白などではあるまいな」
「……!」
ビクッとマルセロ様の身体が跳ねた。
「あぁ、まさか、そんなはずは無いか。なんと言ってもそなたはこの国の王女、ミンティナ殿下と“真実の愛”で結ばれた相手だからな。そんな事をしたら王族への裏切りだ!」
「……!!」
今度はマルセロ様の顔色がどんどん悪くなっていく。
この顔、絶対ミンティナ殿下の事を忘れていたんだと思う。最低ね。
「ふむ……その反応はどういう事だろうか? プリマデント男爵令息殿?」
「……」
「まさか、王女殿下を裏切って不貞を働こうとした? それもその相手が俺の大事な大事な婚約者で、しかも横恋慕?」
「……う、あ……」
「これはこれは……否定しないのか。なるほど……それならばこの事は一応王族の一員として黙って見過ごす事は出来ないな。しっかりきっちり報告させてもらおう」
“報告を”という言葉にマルセロ様は取り乱した。
「ち、違っ、違っ違います……そ、そんな不貞だなんて! ぼ、僕は決してミンティナ殿下を裏切ってなんかいな……」
「プリマデント男爵令息殿。俺のシャルロッテは、見ての通り可愛いんだ」
(───ん?)
突然、惚気のような事を言い出したディライト様が私の腰に手を回して抱え込む。
「誰が見ても美しくて可憐だろう?」
「……?」
マルセロ様は、だから何だ? という顔をしている。急な話の変わり様についていけていない様子。
だけど、その様子はディライト様の次の発言で一変する。
「───俺のシャルロッテは、ふわふわしていて抱き心地も最高なんだ」
「!!?」
ディライト様のその発言にマルセロ様は驚愕の表情を見せた。
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