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26. 悪役にされた令嬢と令息は何かを企む双子の“力”について考える
しおりを挟む(抱っこ!? 何故私は抱っこされているの??)
今日もいつものようにディライト様を出迎えて、お父様に怒られると分かっていながらギューッと抱きついたら、何故か抱えられてしまった。
───大丈夫だよ、皆、今日も俺たちは仲良しだなって思うくらいさ。でも、それが大事なんだ。
そう言われてしまったら、私は頷く事しか出来ないのだけど。
(だけどドキドキが凄いの)
こんなに密着したら私の心臓の音がディライト様に聞こえてしまうんじゃないかしら?
そのまま、私の気持ちも全部筒抜けになってしまいそう。
そんな事をぐるぐる考えていたら、ディライト様は額にキスまでして来た!
(もう! 演技が徹底しすぎているわ!)
その後、すごく大事そうに部屋まで運ばれてそっとベッドの上に降ろされた。
何でベッドの上なの!?
と、軽く脳内がパニックになったけれど、そのまま私の隣に腰を下ろしたディライト様が言ったわ。
「シャルロッテ。あの男爵令嬢の配っていたクッキーの成分の分析が終わったよ」
───と。
何だか一人で勝手にワタワタしてしまったじゃないの……恥ずかしい。
それよりも、今はイザベル様のクッキーの件の方が大事!
いったいイザベル様はどんな成分が入った物を作り出しては、多くの人に食べさせて来たのか……
私はドキドキしながら話の続きを待った。
「……結論から言うと“毒物”は検出されなかったよ」
「……!」
ディライト様は淡々とそう話す。
毒ではない……?
では何が?
「毒物は……という事は他のものは何か検出されたのですか?」
「媚薬成分と、この国では使用が禁止されている作用のある薬物の成分が検出された」
「……!」
何も見つからないなんて事は無いと思っていたけれど、こうしてはっきりすると驚かずにはいられない。しかも禁止薬物……
「禁止されている作用とは何ですか?」
「主に幻覚剤と言われているものだ」
「!」
媚薬に幻覚剤だなんて! なんてものをクッキーに混ぜ込んでいるの!?
「実はさ、そんな成分入りの物を王族を含め多くの者に食べさせただけで、既に地下牢に繋げられるくらいの犯罪ではあるんだけど、ちょっと不可解な点が多すぎるんだ」
「どういう事ですか?」
「男爵家をどんなに探っても媚薬と幻覚剤の入手ルートが分からない。あと、厳密に言うと既存の幻覚剤とも少し違うらしい。媚薬も今まで見た事のない種類なんだそうだ」
「つまり……」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ある意味全く未知のものって事になる。強いて言うならそんな未知の二つの成分が混ざった事で“惚れ薬”に近いものが出来上がったんじゃないかと思ってる」
「……惚れ薬」
(なるほど……)
「それにしては不可解な事も多いけどね。でも、媚薬成分と幻覚剤成分が含まれている結果はちゃんと検出されたから、この事で追い詰めるしかない」
「そんなの知らなかったわ! と、逃げられてしまいそう……」
「そうなんだよ。ただ“何か”が入っているのは知っていて、殿下を含む周囲に食べさせていた点は話を立ち聞きしたからね。追求は出来る」
「……」
ディライト様がそっと私を抱き寄せる。
「シャルロッテを早く外に出られるようにしてあげたいから、どうにか始末して早く終わらせたい」
「ディライト様……」
「俺だって早くシャルロッテとデートがしたい」
「え?」
「また、可愛らしくはしゃぐシャルロッテが見たい」
「ディライト様……」
私が思っている以上にディライト様が、次のデートを楽しみにしてくれているようで、それが嬉しくて頬が緩んでしまう。
だけど、ここで一つの疑問が浮かぶ。
「……マルセロ様はどうやっているのでしょう?」
「うん?」
「彼はイザベル様と違って食べ物を配っていないですよね? では、彼はどうやって……?」
「これは、成分結果からの推測となるけど、おそらくあの男は“匂い”を媒介にしている」
「匂い?」
「この媚薬と幻覚剤にはどちらからも香料が検出されている。本来は香りなんて無いはずなんだ。香りだから相手の身体に浸透するまでクッキーより時間がかかると思っているんだけど」
そう言われてハッと思い出す。
「そう言えば、マルセロ様が我が家に訪ねて来る時に応対した者達が、彼からこれまであまり嗅いだ事のない匂いがしたと」
「それだ!」
「……やっぱり彼は、我が家の使用人を誘惑してこの家に入り込もうとしていたんですね」
毎日応対させる者を変更させていて良かったわ。
「それで、手引きしてもらって俺のシャルロッテに接近して誘惑するつもりだったと…………うん。やっぱり許せないな、消そう」
ディライト様が笑顔で物騒な事を言い出した!
「け、消す!? 捕まえるのではなくて?」
「あの男はシャルロッテに邪な思いを抱いた時点で俺の中で抹消リストに記載されている」
「抹消リスト……」
ディライト様は何でそんなリストを用意しているのかしら?
なんて疑問に思った時だった。
「───誰かが、訪ねて来ていますね」
部屋の窓が開いていたのと風向きのせいか、外の声が部屋の中まで聞こえて来た。
「門の前で揉めてるような声だ」
「……この声って」
「……」
「……」
私とディライト様は無言で見つめ合う。
これは、もしかしなくてもプリマデント男爵家の双子の弟、マルセロ様な気がする。
ご丁寧に本日もやって来た……
「これは……凄いタイミングだね。うん、まずは、弟の退治からといこうか?」
「……」
ディライト様が今すぐにでも殺ってしまいそうな目付きでそう言った。
───
マルセロ様の力の件は仮説ではあるけれど、匂いを嗅がないように気をつける為に、鼻と口元を覆うものを用意して私達はマルセロ様が騒いでいる門へと向かう。
ただ、ふと思った。
あの時、立ち聞きした会話の中では、彼らに“好意”があれば力は効きやすいと話していた。
「ディライト様、私、マルセロ様に対して好意も無ければときめいた事すらも無いのですが。それでも匂いを嗅いだら誘惑されてしまうんでしょうか?」
「……俺もだな。むしろ好感度はマイナスだ……ちなみに同性の場合は恋情ではなく、崇拝したり盲目的に慕うようになるらしいが……」
「私は彼に見惚れた事も無いですね」
「え?」
そこでディライト様がピタッと立ち止まって不自然に黙り込む。
「どうかしましたか?」
「……いや、シャルロッテがあの男に、ときめいた事も見惚れた事すら無いというのが嬉しくて」
ディライト様が嬉しそうにそんな事を言うのでびっくりした。
「それはそうですよ! だって私がときめくのはディライト様だけですもの」
「そうだよな、シャルロッテがときめくのは俺だけ───ん? 俺? ジョーシン殿下では無くて…………俺?」
「…………え?」
私は顔を上げる。
ディライト様の驚きで目一杯見開かれた瞳とばっちり目が合った。
(あれ? 今、私……さらっと、ときめくのはディライト様だけって……言った??)
「…………っっ!」
ボンッと、一瞬で私の顔が真っ赤になる。
「シャ、シャルロッテ……」
「ああああの! えっと、こ、これはですね? わ、私は……そ、その……」
「……」
私は言い訳をするために何かを言おうとすればするほど、どんどん発言がおかしくなっていく。
「ディライト様がいつだって素敵でカッコよすぎて…………あ、違っ……いえ、違わない……あまりにもカッコいい……ドキドキが……?」
「────シャルロッテ!」
ディライト様が私の両肩をがっちり掴んで揺さぶる。
「は、ははははい……!」
「……君は、俺にときめいてる? ときめいてくれている? …………俺はそう思っていい?」
「そ、それは……」
「教えて? シャルロッテ」
か、顔が! ディライト様の麗しの顔が近い……!
あと、表情と声が甘い……すごくすごーーーく甘い!!
(こんな顔を見せられたら“好き”が溢れそう!)
「わ、私……ディライト様が……」
と、思わずディライト様に想いを告げそうになったその時、
「あぁ、もう! 毎日、毎日、シャルロッテ様には会わせられないの一点張りだ! それなら、僕はどうすれば会わせて貰えるんですか!? 彼女に会わせてくれ!!」
マルセロ様の苛立った大声が門の方から聞こえて来た。
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