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23. 悪役にされた令嬢と令息は(無自覚に?)イチャイチャする
しおりを挟む「……飽きた」
私は部屋で寂しくそう呟く。
「お嬢様、どうかされましたか?」
「あ、ううん、何でもないわ。気にしないで」
舞踏会でジョーシン様に宣戦布告をした後、双子の怪しい企みを聞いてしまった私は、あれからずっと家にこもっている。
そうなると家でやれる事が限られてしまい、とりあえず本を読んで過ごしていたけれど、どれも読み切った本ばかりなので早々に飽きてしまった。
(家で過ごすのは正直、飽きたけれど……)
ジョーシン様はともかく、あの双子の片割れが私を“誘惑”するなんて口にしたものだから警戒せざるを得ない。
(確かに家にいるのが一番安全なのよね)
男爵家の彼がおいそれと付き合いのない公爵家である我が家を訪ねるなんて出来ないのだから。
万が一、訪ねて来たとしても門前払いをするように、と言いつけてある。
(ディライト様に会いたいな)
その代わり、ディライト様は毎日我が家に来てくれる。
そして、何故か前よりも激しいスキンシップをして帰っていくのよね。
(ディライト様曰く、これは必要なイチャイチャで私も承諾した、と言っていたけれど)
確かに舞踏会の帰り、馬車で眠ってしまった時の夢の中でディライト様に「たくさんイチャイチャしよう!」と言われて「します!」って、元気よく答えたけれど、あれがまさか現実だったなんて。
(恥ずかしい……)
ディライト様の事を好きだと自覚してからは、ますます胸がときめく回数が増えた。
(でも、今は一緒にいられるだけで幸せなの)
「あら?」
そんな事を考えていたら少し玄関が騒がしい。誰か来た?
私は部屋の時計を見上げる。
いつもより時間は少し遅い気がするけれど、ディライト様に間違いないわ!
私の胸がときめく。
ソワソワして部屋の中を動き回っていたら、ノックと共にメイドが顔を出した。
「お嬢様、(お待ちかねの)ドゥラメンテ公爵令息様がー……」
「今、行きます!」
私はメイドの声を最後まで聞かずに部屋を飛び出した。
「……ディライト様!」
「シャルロッテ!」
(やっぱりディライト様だった!)
大好きな人の姿が見えたので私の顔が自然と綻ぶ。
そして、私は彼の元に駆け寄った。
「ようこそ、ディライト様」
「あぁ、今日もお邪魔するよ、シャルロッテ」
ディライト様はそう言うなり、まず私を抱きしめる。
これは既に日課となりつつあるので、ドキドキしながら私もそっと抱きしめ返す。
「うん。今日も俺のシャルロッテは、ふわふわしていて可愛いな」
「あ、ありがとう……ございます」
ディライト様は耳元でそんな事を囁くものだからこっちはドキドキが止まらない。
彼は顔も美しいのに声も素敵で、聞いていると思わず耳が蕩けそうになる。
「えっと、ディライト様も……素敵です、よ?」
「シャルロッテ……」
私が頬を赤らめてそう言うとディライト様は嬉しそうに笑ったので、胸がキュンとした。
(……この笑顔、好きだわ。ずっと見ていたい)
と、私がディライト様に見惚れていたら……
「コホンッ……シャルロッテ、ディライト殿。頼むからそういうのは部屋に行って二人っきりになってからにしなさい!」
「!」
ディライト様と微笑み合っていたらお父様がやって来て私達を一旦引き離す。
せっかくディライト様を堪能していたのに! お父様が酷い!
「どうして? お父様」
「お前たちのその甘~い空気に充てられて、使用人達が使いものにならなくなるからだ! 見てみろ。今日は既にそこでもう数人がやられているではないか!」
お父様のその言葉を聞いて辺りを見回すと、確かに以前にも見たような光景が広がっていた。
(また、皆、プルプルしている?)
「??」
「……ははは、これは申し訳ない。さぁ、お言葉に甘えて部屋に行こうか? シャルロッテ」
「え、ええ……」
「全く……何でお前達は顔を合わせるなりすぐに抱き着くんだ! 自重という言葉は無いのか!」
と、お父様は不満をこぼし、相変わらず挙動不審な使用人達を横目に私とディライト様は部屋に向かった。
────……
「シャルロッテ……」
部屋に着くなり、ディライト様は再び、私を自分の腕の中に閉じ込める。
「ディライト様……?」
「シャルロッテに会いたくて会いたくてたまらなかった」
「……?」
何だかいつもと違う様子に戸惑っていると、ディライト様が言う。
「……今日、王宮でプリマデント男爵令嬢が俺に接近して来たよ」
「も、もう!?」
私が驚きの声をあげるとディライト様が優しく微笑んで頭を撫でてくれる。
「安心して? 俺は変わってないよ。可愛い可愛いシャルロッテ一筋のままだ」
「っ!」
その言葉に驚いて顔が赤くなる。
「あれ? そういう心配をしたのではない?」
「~~もう!」
と、ついつい口では怒ってしまったけれど、いつもと変わらないディライト様の様子に内心で安堵している。
あの時、聞いた会話によるとイザベル様は“食べ物を介して”でないとダメ……だと言っていたから、会っただけならそこまで心配する必要は無いのかもと思いつつもやはり気になってしまう。
「それで、おそらく例の何かが仕込まれていると思われる手作りクッキーを渡して来たから手に入れたよ」
「!」
と思ったら、イザベル様はちゃっかり仕掛けていた!
「た、食べたのですか……?」
「まさか! 誰があんな得体の知れない物!」
「得体の知れない……」
ディライト様が心底嫌そうな顔でそう言ったのでますます、ホッとする。
(でも、そうよね……普通ならそう思う所よね……)
どんな流れで、どんなシチュエーションだったかは分からないけれどジョーシン様はそれを口にしたのよね……もっと警戒出来なかったのかしら?
なんて思ってしまうけれど、貴族令嬢の手作りクッキーなんて珍しい。興味を持ってしまったのかもしれない。
そして、必ずジョーシン様が口にする前に毒味役がいるから、イザベル様はそうやって周りから洗脳していった可能性が高い。
「そのクッキーは今、俺の家の者に成分を分析させているからその結果次第では男爵令嬢を叩けるかもしれない」
「!」
「だから、シャルロッテ。すまないが、その結果が出るまでは……」
「分かっています。私にはこのまま家から出ないでくれ、でしょう?」
私がそう言うと、ディライト様は申し訳なさそうな表情を私に向けた。
「正直、外に出たい気持ちは強いですけれど……」
「だよね、ごめん」
「……そうだわ! それなら、ディライト様!」
「うん?」
「この件が片付いたら、また私と“デート”してくれませんか?」
「えっ!?」
あら?
ディライト様が驚いた顔のまま固まってしまったわ。
また、付き合ってくれる? って言われたからついそう言ってしまったのだけど……
(もしかして、実はこの間の私はしゃぎすぎたからもう恥ずかしくて連れ歩きたくないと思ってた?)
「ごめんなさい、図々しかったですよね……」
私が落ち込みながらそう言うと、ハッと意識を取り戻したディライト様が慌て始めた。
「!? ち、違っ……ちょっと頭の中でシャルロッテとの二度目のデートを妄想していただけだ!」
「も、妄想?」
「そうだ! どこに連れて行って何を見せたら、またあんな風に楽しそうにしてくれるかな、と妄想を……」
「……!」
ディライト様が頬をほんのり赤く染めながらそんな事を言う。
まさか、固まりながら頭の中でそんな事を考えていたなんて!
(そうね、ディライト様と一緒なら──)
「ふ、二人で過ごせれば……その、何でも楽しいです、だから……」
「シャルロッテ……」
ディライト様は再びギュッと私を抱きしめながら私の耳元で甘く囁く。
───約束だ。また、デートしよう、と。
嬉しくて嬉しくて微笑んだら、ディライト様は何故かまた、頬を染めて再び固まってしまった。
そうして家で大人しくクッキーの分析結果を待っていた頃……
「お嬢様、先程またプリマデント男爵家の双子の男が訪ねて来たそうですよ?」
「ま、また!?」
「全て門前払いさせていますが……執拗いですね」
──先触れを送ってもよい返事を貰えなかったから
──どうしても、シャルロッテ様にお会いしたい!
などと執拗いのだと言う。
(まさか、本当に直接やって来るなんて!)
常識を知らないただの間抜けなのか、それとも何か企んでいるのか……
やっぱりあの双子は得体がしれないと改めて思わされた。
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