【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea

文字の大きさ
上 下
22 / 45

22. 悪役にされた令息は令嬢の事しか頭に無い

しおりを挟む


  ……結局の所、あの二人は何者なのだろう?

  (まさか殿下達に変な力を用いて洗脳していたとはな……)

  催眠や洗脳の一種なのだろうか?
  よく分からない。
  屋敷に戻ったらそういった類について調べてみないといけない。
  いや、王宮の方が本や資料はあるか?
 
「んん……」

  そんな事を頭の中で考えていると、俺の肩にもたれながら眠っている眠り姫の魅惑的な可愛い声が聞こえて来た。

  (眠り姫のお目覚めか?)

  今は色々あった舞踏会からの帰りの馬車の中。
  俺の可愛いシャルロッテは疲れてしまったのか、馬車に乗り込むなり、うつらうつらし始めたので肩を貸してゆっくり寝かせる事にした。
  寝顔が可愛すぎて何度悶えた事か!
 
「……シャルロッテ、起きた?」
「……んぅ」
「シャルロッテ?」

  愛しのシャルロッテに声をかけるも反応が鈍い。
  そのどこか寝ぼけた様子のとろんとした表情も可愛いなぁと見惚れていると、ただでさえ可愛いシャルロッテは、ニコッと花のような笑顔を俺に向けた。

「シャル……」
「ディライト様!」

  超絶可愛い笑顔を見せたシャルロッテがそのまま俺に抱きついて来た!

  (めちゃくちゃ可愛いんだが!?  そして、こ、これはなんのご褒美なんだ!?)

  俺は完全に油断していて慌てた。

「ディライト様~」
「シャルロッテ……?」

  おそらく寝ぼけているのだろうが、何て無防備なんだ!

  (俺の名前を呼んでそんな可愛い笑顔をしてくれるなんて……)

  こんなの期待してしまう。
  ウラバトール侯爵との話し合いの中で俺達の関係が“偽装婚約”だと再認識したシャルロッテは様子がおかしかった。
  聞けば“嫉妬”と言う。

  (……ドゥラメンテ公爵家の次期公爵夫人は君だよ、シャルロッテ)

  そう伝えたら君はどんな顔をする?
  あぁ、早く全てを終わらせて君にそう伝えたい。
  その為にも───

  (あの双子をどうにかしないと)

   あまり頭の良くなさそうな二人はあんな所で堂々と色々な事を喋ってくれた。
   そして、次に狙われているのは俺達。特に……

  (あの、顔だけ男マルセロがシャルロッテを誘惑するだと?)

  そんな事は絶対に許さない!
  変な術のような力を使うとは言え、シャルロッテがあんな男に靡くとは欠片も思っていないが、誘惑するつもりで近付いたら、シャルロッテの可愛さにやられて向こうが本気になりでもしたら後々、すごく面倒だ。
  シャルロッテには俺がいるから無駄なのだと分からせてやらねば。

「シャルロッテ。君は顔を赤くして恥ずかしがるかもしれないが、暫くは誰の前でも俺とイチャイチャして貰うよ?」
「……イチャイチャ?  ディライト様と?」
「そう。俺とイチャイチャだ」

  そんな無邪気な顔で聞き返すのか!  寝ぼけているとは言え破壊力すごいな……

「…………します!  ディライト様とイチャイチャ…………嬉しい、幸せ」

  (……え!?)

  何だかとんでもない言葉が聞こえた同時に、更にギュッと抱きつかれた。

  (あぁ、可愛い、フワフワ……柔らかい……凄い幸せだ……)
  
  堪らなくなった俺は、シャルロッテの額にキスをした。
  そして、きっとイチャイチャの演技の一つだと思われるだろうが……それでも……
  そう思って口にしてみた。

「シャルロッテ……君を愛してるよ」
「……」

  ポカンとした(可愛い)顔で俺を見上げたシャルロッテがすぐさま、はにかんだ笑顔になる。

「わ…………私もです!」
「!!」

  (何なんだ、その笑顔と言葉の返しはっ!!)

「~~~!!」
 
  シャルロッテのその答えが演技だと分かっていても、俺は今にも死にそうなくらい幸せな気持ちになってしまった。



  ちなみに、その後完全に目が覚めたシャルロッテは「凄い夢を見ました!」と頬を赤らめ、全部夢の出来事にされてしまった。



◇◇◇◇




  それから、数日後。
  用事があって王宮に向かった日の事だった。

「きゃっ!  すみません!」
「!」

  出会い頭に人とぶつかってしまう。
  俺はその声を聞いて“とうとう来たな”そう思った。

「えっと、大丈夫ですか?  本当にすみません、ちゃんと前を見ていなくてー……」

  (本当にな。わざとらしい)

  内心でそう思いつつも俺は笑顔を返す。

「いや、大丈夫だ」
「あぅ!  眩し……あ、大丈夫のようなら、よ、良かったです……」

  俺を誘惑しに来たらしい、イザベル・プリマデント男爵令嬢が可愛いとも思えない表情で頬を赤く染めながら言った。

  (好きでもない女が目の前で頬を赤くしようが照れようが、かなりどうでもいいな)

  これがシャルロッテだったら、可愛い!  と口に出して思いっきり腕の中に閉じ込めてしまいたくなるのだが。

「……」
「……では、俺はこれで」

  少しの沈黙の後、特に話したい事も無いのでさっさと離れる事にした。

「えっ!?  あ、ま、待って下さい!」
「……」

  俺の反応に焦ったのか慌てたように引き止める男爵令嬢。その顔が“何故?”と言っている。
  まさか、他の男共は今の仕草で堕ちるのか?  嘘だろう?

  (全く欠片も可愛いなどと思えなかったが?)

「あ、あの!  これぶつかってしまったお詫びです……なんですけど良かったら……」
「!」

  ───とりあえず、またクッキーをたくさん焼いて殿下達やその周辺にも食べさせないと!
  ───不思議だよね、何で姉さんの力は食べ物を介してでしか発揮出来ないんだろう?

  これがあの時、話していたクッキーか!

  (しかし、非常識にも程があるだろう)

  まともに挨拶すらした事の無い令嬢から、クッキーを貰って下さいと言われてホイホイ受け取る男がいるとでも思っているのだろうか?  どれだけおめでたい頭をしているんだ?

「?  あの……?」

  (まぁ、そういう男がいたからこその、この女の行動なのだろうな)

  本来はそんな得体の知れない物は貰えないと突っ返す所だが、このクッキーとやらを調べる為に仕方なく誘いに乗るフリをする。
  似非笑顔をはりつけて俺は男爵令嬢に言った。

「いや、ありがとう。そういう事なら有難く頂くよ、プリマデント男爵令嬢」
「あ、いえ!  う、嬉しいですわ。実はそれ、わ、私が作ったのです!  お口に合うと良いのですが……」
「へぇ、器用なんだね」
「あ……」

  俺が微笑むフリをすると男爵令嬢はますます頬を赤く染めた。すごくどうでもいい顔だ。

  (あぁ、シャルロッテに会いたいなー……)

  この後、帰りがけにアーベント公爵家に寄る事にはなっているが、早く会いたい。今すぐ会いたい。
  シャルロッテの笑顔でこの荒んだ心を浄化して欲しい!

「よく作るのです!  ですから、美味しかったら言ってください!  ドゥラメンテ公爵令息様の為になら、またいつでも焼きますわ!」
「……あぁ、ありがとう」

  俺が似非笑顔を見せると、男爵令嬢も微笑んだ。
  その微笑みは裏で“ほらね、男なんてやっぱりチョロいわ”と言っていそうな微笑みだった。

「では、急ぐので。これで失礼する」
「は、はい……」

  それだけ言って俺はさっさと男爵令嬢から離れる。

  (このまますぐにシャルロッテの所に向かいたいが、一度、邸に戻ってこのクッキーを分析に回さないといけないな)

  こういう時、権力の強い家に生まれついて良かったと思う。昔から狙われる事の多かった我が家には毒の解析を得意とする者達がいる。
  “毒”とは違うかもしれないがまずは彼らに確認してもらおう。
  彼らにクッキーを託した後は……

「シャルロッテ……」

  シャルロッテの元へ行って思う存分イチャイチャの時間だ!
しおりを挟む
感想 290

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...