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22. 悪役にされた令息は令嬢の事しか頭に無い
しおりを挟む……結局の所、あの二人は何者なのだろう?
(まさか殿下達に変な力を用いて洗脳していたとはな……)
催眠や洗脳の一種なのだろうか?
よく分からない。
屋敷に戻ったらそういった類について調べてみないといけない。
いや、王宮の方が本や資料はあるか?
「んん……」
そんな事を頭の中で考えていると、俺の肩にもたれながら眠っている眠り姫の魅惑的な可愛い声が聞こえて来た。
(眠り姫のお目覚めか?)
今は色々あった舞踏会からの帰りの馬車の中。
俺の可愛いシャルロッテは疲れてしまったのか、馬車に乗り込むなり、うつらうつらし始めたので肩を貸してゆっくり寝かせる事にした。
寝顔が可愛すぎて何度悶えた事か!
「……シャルロッテ、起きた?」
「……んぅ」
「シャルロッテ?」
愛しのシャルロッテに声をかけるも反応が鈍い。
そのどこか寝ぼけた様子のとろんとした表情も可愛いなぁと見惚れていると、ただでさえ可愛いシャルロッテは、ニコッと花のような笑顔を俺に向けた。
「シャル……」
「ディライト様!」
超絶可愛い笑顔を見せたシャルロッテがそのまま俺に抱きついて来た!
(めちゃくちゃ可愛いんだが!? そして、こ、これはなんのご褒美なんだ!?)
俺は完全に油断していて慌てた。
「ディライト様~」
「シャルロッテ……?」
おそらく寝ぼけているのだろうが、何て無防備なんだ!
(俺の名前を呼んでそんな可愛い笑顔をしてくれるなんて……)
こんなの期待してしまう。
ウラバトール侯爵との話し合いの中で俺達の関係が“偽装婚約”だと再認識したシャルロッテは様子がおかしかった。
聞けば“嫉妬”と言う。
(……ドゥラメンテ公爵家の次期公爵夫人は君だよ、シャルロッテ)
そう伝えたら君はどんな顔をする?
あぁ、早く全てを終わらせて君にそう伝えたい。
その為にも───
(あの双子をどうにかしないと)
あまり頭の良くなさそうな二人はあんな所で堂々と色々な事を喋ってくれた。
そして、次に狙われているのは俺達。特に……
(あの、顔だけ男がシャルロッテを誘惑するだと?)
そんな事は絶対に許さない!
変な術のような力を使うとは言え、シャルロッテがあんな男に靡くとは欠片も思っていないが、誘惑するつもりで近付いたら、シャルロッテの可愛さにやられて向こうが本気になりでもしたら後々、すごく面倒だ。
シャルロッテには俺がいるから無駄なのだと分からせてやらねば。
「シャルロッテ。君は顔を赤くして恥ずかしがるかもしれないが、暫くは誰の前でも俺とイチャイチャして貰うよ?」
「……イチャイチャ? ディライト様と?」
「そう。俺とイチャイチャだ」
そんな無邪気な顔で聞き返すのか! 寝ぼけているとは言え破壊力すごいな……
「…………します! ディライト様とイチャイチャ…………嬉しい、幸せ」
(……え!?)
何だかとんでもない言葉が聞こえた同時に、更にギュッと抱きつかれた。
(あぁ、可愛い、フワフワ……柔らかい……凄い幸せだ……)
堪らなくなった俺は、シャルロッテの額にキスをした。
そして、きっとイチャイチャの演技の一つだと思われるだろうが……それでも……
そう思って口にしてみた。
「シャルロッテ……君を愛してるよ」
「……」
ポカンとした(可愛い)顔で俺を見上げたシャルロッテがすぐさま、はにかんだ笑顔になる。
「わ…………私もです!」
「!!」
(何なんだ、その笑顔と言葉の返しはっ!!)
「~~~!!」
シャルロッテのその答えが演技だと分かっていても、俺は今にも死にそうなくらい幸せな気持ちになってしまった。
ちなみに、その後完全に目が覚めたシャルロッテは「凄い夢を見ました!」と頬を赤らめ、全部夢の出来事にされてしまった。
◇◇◇◇
それから、数日後。
用事があって王宮に向かった日の事だった。
「きゃっ! すみません!」
「!」
出会い頭に人とぶつかってしまう。
俺はその声を聞いて“とうとう来たな”そう思った。
「えっと、大丈夫ですか? 本当にすみません、ちゃんと前を見ていなくてー……」
(本当にな。わざとらしい)
内心でそう思いつつも俺は笑顔を返す。
「いや、大丈夫だ」
「あぅ! 眩し……あ、大丈夫のようなら、よ、良かったです……」
俺を誘惑しに来たらしい、イザベル・プリマデント男爵令嬢が可愛いとも思えない表情で頬を赤く染めながら言った。
(好きでもない女が目の前で頬を赤くしようが照れようが、かなりどうでもいいな)
これがシャルロッテだったら、可愛い! と口に出して思いっきり腕の中に閉じ込めてしまいたくなるのだが。
「……」
「……では、俺はこれで」
少しの沈黙の後、特に話したい事も無いのでさっさと離れる事にした。
「えっ!? あ、ま、待って下さい!」
「……」
俺の反応に焦ったのか慌てたように引き止める男爵令嬢。その顔が“何故?”と言っている。
まさか、他の男共は今の仕草で堕ちるのか? 嘘だろう?
(全く欠片も可愛いなどと思えなかったが?)
「あ、あの! これぶつかってしまったお詫びです……クッキーなんですけど良かったら……」
「!」
───とりあえず、またクッキーをたくさん焼いて殿下達やその周辺にも食べさせないと!
───不思議だよね、何で姉さんの力は食べ物を介してでしか発揮出来ないんだろう?
これがあの時、話していたクッキーか!
(しかし、非常識にも程があるだろう)
まともに挨拶すらした事の無い令嬢から、クッキーを貰って下さいと言われてホイホイ受け取る男がいるとでも思っているのだろうか? どれだけおめでたい頭をしているんだ?
「? あの……?」
(まぁ、そういう男がいたからこその、この女の行動なのだろうな)
本来はそんな得体の知れない物は貰えないと突っ返す所だが、このクッキーとやらを調べる為に仕方なく誘いに乗るフリをする。
似非笑顔をはりつけて俺は男爵令嬢に言った。
「いや、ありがとう。そういう事なら有難く頂くよ、プリマデント男爵令嬢」
「あ、いえ! う、嬉しいですわ。実はそれ、わ、私が作ったのです! お口に合うと良いのですが……」
「へぇ、器用なんだね」
「あ……」
俺が微笑むフリをすると男爵令嬢はますます頬を赤く染めた。すごくどうでもいい顔だ。
(あぁ、シャルロッテに会いたいなー……)
この後、帰りがけにアーベント公爵家に寄る事にはなっているが、早く会いたい。今すぐ会いたい。
シャルロッテの笑顔でこの荒んだ心を浄化して欲しい!
「よく作るのです! ですから、美味しかったら言ってください! ドゥラメンテ公爵令息様の為になら、またいつでも焼きますわ!」
「……あぁ、ありがとう」
俺が似非笑顔を見せると、男爵令嬢も微笑んだ。
その微笑みは裏で“ほらね、男なんてやっぱりチョロいわ”と言っていそうな微笑みだった。
「では、急ぐので。これで失礼する」
「は、はい……」
それだけ言って俺はさっさと男爵令嬢から離れる。
(このまますぐにシャルロッテの所に向かいたいが、一度、邸に戻ってこのクッキーを分析に回さないといけないな)
こういう時、権力の強い家に生まれついて良かったと思う。昔から狙われる事の多かった我が家には毒の解析を得意とする者達がいる。
“毒”とは違うかもしれないがまずは彼らに確認してもらおう。
彼らにクッキーを託した後は……
「シャルロッテ……」
シャルロッテの元へ行って思う存分イチャイチャの時間だ!
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