【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea

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19. 悪役にされた令嬢と令息は復讐計画を進める

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「……いったい、話とは何でしょう?」

  ウラバトール侯爵が警戒した様子で訊ねてくる。
  反王政派の彼と王子の婚約者だった私のこれまでを思えば仕方の無い事。

「先程のドゥラメンテ公爵令息殿とジョーシン殿下のやり取りは見ておりました……公爵令息殿がジョーシン殿下に代わり“王”になりたいそうですね?」
「……」

  さっきの二人のやり取りを見ていたのなら話が早い。
  そのまま話を進めるだけよ、と私は口を開く。

「ウラバトール侯爵様。あなたの事ですから、今このままジョーシン様が王太子となり、陛下の後を継ぎ次のこの国の王となる事を危惧しておりますわよね?」
「……そうですね。特に最近の殿下の評判はすこぶる悪い。公務を放ったらかして男爵令嬢と過ごしてばかりだと。あんな方が次の王になるなんて我々は許せない!」
「つまり……ますます反王政に向けての気持ちが強くなっています?」
「それは当然です!  やはり、もうこの国に“王”は必要ない!  ……例えそれが誰であっても」

  ウラバトール侯爵は、そう口にするとディライト様へと視線を向けた。
  次の王がジョーシン様であろうと、ディライト様であろうと反王政派の気持ちは変わらないらしい。

  (それは良かったわ)

「ですから、ドゥラメンテ公爵令息殿は王位が欲しいようですが、反対しても無駄ですよ。我々はこれまで通り反王政を掲げて───」
「ええ。分かっておりますわ。ですからどうぞ。もっとやって下さい」
「え?  もっと……やれ?」

  私がにっこり笑ってそう答えると、ウラバトール侯爵は驚愕の表情を私に向ける。

「私はディライト様がジョーシン様の代わりに王位を狙うから、反王政派のあなたの事が邪魔で呼び出したわけではありませんわ」
「待ってくれ。い、意味が分からない……」
「実は、ディライト様に“その気”はありませんの。そして私は、ジョーシン様を引きずり下ろしたいだけなのです」
「その気は無い?  殿下を引きずり下ろす?」

  ウラバトール侯爵は驚いた表情のまま、ディライト様の事を見る。
  ディライト様は頷きながら答えた。

「あの話はジョーシン殿下に対する脅しだ」
「脅……し」

  侯爵は、信じられん、本当に?  そんな表情のまま私達二人の顔を見る。

「……ジョーシン様の婚約者だった頃の私は、彼の婚約者としてあなた方の行動は許せない、ただひたすらそう思っていました」
「……アーベント公爵令嬢?」
「ですが彼に捨てられて、初めて思いました」
「何をですか?」
「反王政派の声が大きくなるくらい今のこの国の王族は“絶対的存在”では無いのだと、初めて客観的に考える事が出来ました」

  盲目的にジョーシン様だけを見ていた私には気付けなかった。
  少しずつ国民の心は王家から離れていっている事に。
  昔から反王政を掲げる動きはあった。でも、ここまで声が大きくなったのは……そういう事。

  (実際、陛下達もジョーシン様達を咎める素振りを見せていない)
  
「ここ数日、あなた方の掲げる主張、信念など調べられる事は調べさせて頂きました」
「……」
「私の望みはあくまでも“ジョーシン様を引きずり下ろす事”ですが、その結果があなた達の望む形になる事に異論はありません。ですから、遠慮なくやって下さいませ!」
「……」

  侯爵の頭の中は完全に混乱しているようだった。

「ドゥラメンテ公爵令息は……それでよろしいのでしょう、か?」
「うん?  あぁ……」

  侯爵がディライト様に訊ねているのは“あなたは王になれるかもしれないのに良いのか”だ。
  ディライト様が私の肩に腕を回して抱き寄せながら言う。

「俺は元々、王位に興味なんか無かったので。ですが、シャロッテが“俺に王になってくれ”と望むのなら、何が何でもその座についてみせますが、そうでないのならシャルロッテの気持ちを汲みたいので構いませんよ」

  ディライト様はきっぱりとそう言い切ってくれる。

「……ディライト様、ありがとうございます」

  私が微笑みながらお礼を言うとディライト様も優しく微笑み返す。

「当然だろう?  俺の可愛いシャルロッテの願いだからね」
「!」

  そう言って優しく私の額にキスをするディライト様。

  (ウラバトール侯爵様が見ているのに!)

「もう!  ディラ……」
「ははは!  これはこれは二人はこっちが恥ずかしくなるくらいの熱々ですな!」

  顔を赤くしてディライト様に抗議しようとした私の声を侯爵が笑いながら遮る。

「あの王子・王女よりもこちらの方こそ“真実の愛”を感じるではないか!  どうもあちらは思いやりが感じられず薄っぺらく見えて仕方が無かったのだ!  ははは、これはいい!」

  その言葉に私とディライト様は顔を見合わせる。
  何だかお互い恥ずかしくなってしまい照れてしまった。

「それにアーベント公爵令嬢」
「は、はい!」
「あんなに氷のように冷たかったあなたが、まさか実はこんなに可愛らしい見た目で、なのに中身はここまで勇ましい方だったとは……知りませんでした」
「は、はぁ……」

  いまいち何に驚かれているのかよく分からず間抜けな返事になってしまった所で、すかさずディライト様が間に入って来る。

「そうなんです!  俺のシャルロッテは可愛いだけでは無いんです」
「なるほど。ドゥラメンテ公爵令息殿がそこまで惚れ込んでる理由が分かりましたよ」
「でしょう?」

  (ディライト様は惚気けるのもお上手ね……)

  あの演技力は本当に見習いたい。
  
「アーベント公爵令嬢。今のあなたが“王妃”となる姿を見てみたかった気もしますが、我々の信念は変わりません」
「え、ええ……」
「ですが、貴族トップのドゥラメンテ公爵夫人として立つあなたの姿も非常に楽しみです」
「え?」

  (ドゥラメンテ公爵夫人……)

  ウラバトール侯爵様は、計画が上手く運べば……とこの先の展望を語ってくれたけれど、それを聞きながら私の頭の中では、ドゥラメンテ公爵夫人となる姿は見せられないのに……と申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。

  (偽装婚約者だから、その座につくのは私ではない───……)



───────……


  一方の会場に残された王子、王女、双子は皆からの好奇な目線に晒されていた。

「……ジョーシン様!  どういう事ですか!  あなたが王になって私が王妃に……」
「煩い!  黙れ!  言いたい事は分かるが今は黙っていろ!」

  ディライトによる王位継承の権利に対する発言に不安になったイザベルがジョーシン王子に詰め寄るも冷たく突き放されてしまう。

「ひ、酷い!  もしもあなたが王にならなかったら、私、私の幸せはどうなる……」
「黙れと言っているだろう!  それから縁起でもない事を口にするな!」

  (この私が王になれない?  ディライトなんかに地位を奪われる、だと!?  そんな事あるはず無いだろう?  昔から私は皆から信頼されて……)

  (ジョーシンが王にならなかったら、私はどうなるのよ!?  何この展開……聞いてないわ!)

  ジョーシン王子とイザベルがそれぞれ焦りを見せる中、一方の二人も───

「ちょっと、マルセロ!  あなたどういうつもりなの!?」
「え?」

  ミンティナ王女がマルセロに詰め寄っていた。

「わたくしがディライトに責められた時、どうして庇ってくれなかったの!?」
「え……いや、だって。それは……」
「それに、呼ばれたからと言って、あっさりわたくしから離れてイザベルお姉様の元に駆け付けるなんて!  わたくしとお姉様のどちらが大事なの!?」
「え、え!?」


  ───“真実の愛”とやらで結ばれているはずの四人の醜い言い争い。その様子を舞踏会参加者達は覚めた目で見ていた。

  逆に皆の心に残っているのは、あの美男美女の公爵家の二人……
  思わず見惚れるくらい美しいダンスをする二人、互いに想い合っているのが伝わって来て、こちらが照れてしまいそうな程の熱々っぷりの様子。更には王子の前でも堂々としていたあの凛とした姿。

  ───あの二人が悪役?  嘘でしょう?  むしろ“悪役”なのは───……

  この日、多くの人の心の中でそんな気持ちが生まれていた。

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