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16. 悪役にされた令嬢と令息は王子を追い詰めていく
しおりを挟む「私はディライト様の事を愛しておりますので」
「……んなっ!?」
私の発言に対してジョーシン様が変な声をあげた。
その顔は信じられん! と言わんばかりの顔で私はふと思う。
(まさかとは思うけれど、この人、あんな形で私を捨てておいて、まだ自分の事を忘れられずに一途に想ってくれている……なんて夢でもみていたのかしら?)
「何か?」
「い、いや……だって君はずっと私の事を……いや、そ、それに格好……」
「私の格好が何か?」
「……っ」
おそらく今日の私の格好について言いたいのでしょうね。
はっきり言えばいいのに。
「……私の格好が以前と違う雰囲気だと言いたいのでしょうか?」
「あ、あぁ……」
「そうですか。私、婚約者でもなく、ましてや好きでもない方の為に着飾る趣味はありませんので……あぁ、ですけど以前の私がしていた格好は別に婚約者だった方はお好きではなかったようですけれどね」
「っっ!?」
ジョーシン様が目を大きく見開いて驚愕の表情となり、また言葉を詰まらせている。
そこにディライト様がすかさず私の肩を抱きながら間に入って来た。
「殿下、今のシャルロッテはとても可愛らしいでしょう?」
「……くっ! だ、だから! そ、その姿は私だけが……」
ジョーシン様はとても悔しそうな表情になり、何かを言いかける。
でも、ディライト様も止まらない。
「確か、ジョーシン殿下の“真実の愛”のお相手とやらも美しい方だと騒がれておりましたが、俺はシャルロッテ以上に美しい女性を知りませんね」
「……ディライト様ったら……大袈裟ですわ。恥ずかしいです……」
「いつも言っているだろう? 大袈裟なんかじゃない。シャルロッテは誰よりも美しくて可愛い!」
「!」
そう言ってディライト様は肩を抱いていない反対の手で私の頬を撫でる。
その目に、熱が籠っているように見えたせいで言葉も仕草も演技だと分かっていてもドキドキしてしまった。
(あぁ、もう!)
「シャルロッテ……」
「ん、ディライト様、擽ったいです……」
「す、すまない。だが俺はいつでもシャルロッテのその可愛い頬に触れていたい」
「も、もう! ですから、皆様の前では恥ずかしいです! そ、そういうのは、ふ、二人きりの時にしてくださいませ」
「……! 二人きりならいいのかい?」
「!」
ディライト様が蕩けそうな笑顔でそんな事を言うので思わず勘違いしそうになる。
…………ラブラブの演技ってこれでいいのかしら?
というより、演技なんてする余裕が全然無いのだけど!
これで大丈夫なのかと本気で心配になって来た。
(でも、偽装婚約をジョーシン様に見破られる訳にはいかない!)
この後、まだ追い詰めなくてはならない事が残っている。
そう思った私はグッと気合いを入れ直す。
そして、相変わらず縁起の上手いディライト様は、直視したらまた令嬢が失神してしまいそうな程の甘い甘い笑顔を向けながら私に言う。
「仕方ないだろう? 俺は、毎日毎日シャルロッテの事が愛しくて愛しくてたまらないんだ。1日中君の事ばかり考えているんだよ、シャルロッテ」
「ディラ……んっ」
チュッ!
そう言ってディライト様が私の額にキスをした。
(!?)
演技なんてそっちのけで私の顔が本気で真っ赤になる。
会場からは、キャーーという黄色い悲鳴が飛び交い、どこかで、人の倒れる音がしたので失神した人がいるのかもしれない。
「なっ! 何をしている……!」
「何って……愛しくて可愛い自分の婚約者を愛でているだけですが? 何かいけませんでしたか? 殿下はもう無関係ですよね?」
「……っ!」
しれっとした顔で答えたディライト様の言葉にジョーシン様はまたも言葉を詰まらせる。
さっきからずっとこんな感じだわ。
「…………ディライト様、恥ずかしいです」
「すまない、だが、シャルロッテが可愛すぎるのがいけない」
「わ、私のせいですか?」
「────あぁ。もう……可愛すぎて誰にも見せずに隠しておきたいよ………………そう思いませんか? ジョーシン殿下?」
「!!」
その言葉にジョーシン様の瞳が大きく揺れた気がした。
「見た目だけでなく中身も可愛らしい健気なシャルロッテは元婚約者の期待に応えようと日々努力していましたからね。本当に可愛いです」
「……!」
「ですが……そんな健気で可愛い可愛いシャルロッテが、何故かジョーシン殿下には“悪役”に見えたようで」
「それ……は」
「そんな愛らしいシャルロッテをあっさり切り捨てる事が出来たあたり、さぞ殿下の“真実の愛”のお相手とやらはとてもとても魅力的な方なのでしょうね?」
ディライト様がたっぷりと嫌味を込めた。
「魅力……的」
そう呟いたジョーシン様は、未だにこちらを見て悔しそうにプルプル震えているイザベル様の方を見た。
「ジョーシン殿下……こ、こんなの嘘ですよねぇ?」
目が合ったイザベル様はジョーシン様の名前を呼んで甘えて抱きつこうとする。
「シャルロッテ様が私よりも美しくて可愛いなんてそんなバカな話有り得ませんよね?? これは誰かの陰謀ですよね!? あ、ドッキリ!? 嫌だわ、なんて悪趣味なの!」
「……」
(どっきりって何かしら?)
イザベル様は一人でペラペラと喋りだしたけれど、ジョーシン様は答えない。
「ジョーシン殿下!」
「……」
「お願いですから、早くいつもみたいに“イザベルが一番だよ”って言ってください!」
そう言ってうるうるした目をジョーシン様に見せつけるイザベル様。どうやら泣き落とし作戦に出るらしい。
「……」
「で、殿下?」
きっといつもなら「イザベルが一番美しい。綺麗だよ」とか言って抱き寄せるか何かするのだろう。イザベル様は明らかにそれを期待する様子でジョーシン様の返答を待っていた。
しかし。
ジョーシン様は動かない。
「イザベル……が魅力的?」
「え? ジョーシン殿下?」
「……確かに初めて見かけた時、私好みの可愛らしい子だとは思った……思ったから誘いにも乗った……乗ったが……」
その言葉にイザベル様がハッとする。
「……チッ、何でこうなったのよ……まずいわ!」
少し様子のおかしいジョーシン様を見たイザベル様が焦った顔になった。
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