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15. 悪役にされた令嬢と令息は衝撃を与える
しおりを挟む──何も知らずにジョーシン様たちは笑顔で嬉しそうに会場へと入って来た。
私とディライト様がそれぞれ王子と王女に捨てられた事は誰もが知っている事なので、皆の視線がチラチラと泳ぎ出す。
「シャルロッテ」
ディライト様が優しく私の名前を呼んだと思ったら、そのまま腰に腕を回して私の事を抱き寄せた。
「ディ、ディライト様……?」
「大丈夫だ、シャルロッテ」
「……」
ディライト様はそう言って私の頭を撫でてくれる。
(……そうよね、ディライト様がいてくれる)
「そうですよね! ありがとうございます」
「あぁ」
私が笑顔を見せてお礼を言うとディライト様も優しく微笑んだ。
私達の会話こそ聞こえていないものの、抱き合って見つめ合いながら微笑み合う私たちの姿に、会場からは感嘆のため息が漏れていた。
「……何か様子がおかしくないか?」
会場内がそんな空気だったからか最初にそう口にしたのはジョーシン様だった。
「皆、私達より何を見ているの?」
ジョーシン様にエスコートされているイザベル様も不満そうにそう口にした。
「……? 美しい? お似合い? ため息しか出ない? 惚れ惚れする? いったい何の話だ?」
「ええ。私と殿下の話……にしてはこちらを見ていない。本当に何の話かしら?」
首を傾げる二人に、ミンティナ殿下が声を上げた。
「……お兄様、イザベルお姉様! あそこ、あそこに何やら人だかりが出来ていますわ!」
「中心に誰かいるみたいだけど……誰だろう?」
ミンティナ殿下と彼女のエスコート役を務めるマルセロ様も不思議そうな声を上げる。
彼らはようやく騒ぎの中心に気付いたらしい。
「王家主催の舞踏会で私達より目立つなんて! いったいどこの誰が何をしているというの?」
イザベル様がそう言って人だかりの中心にいる私達の姿を見ようと背伸びしたり、隙間から覗こうと身体を動かしていた。
そして、どうにか隙間から私とディライト様の姿が見えたらしいイザベル様は、
「───は? 誰よ……何なの」
と驚きの声をあげた。
「イザベル? どうかしたのかい?」
「あ……ジョーシン殿下……そ、それが……」
イザベル様は何故かそこで口ごもる。
そんなイザベル様の様子にジョーシン様も不思議に思って首を傾げた。
「イザベル。あの人だかりの中心が見えたのだろう? 知り合いでもいたのか?」
「い、いえ、違うのです……殿下。知らない人達でしたわ……ですが……」
「知らない人達だった? なら何故そんな動揺している?」
「だって、信じられません!」
イザベル様はそう言って声を荒らげた。
「信じられない、とは?」
「……っ! だって、わた、私達、私達より美し……存在……有り得ない……」
イザベル様が肩を震わせながら何かを言いかけた、その時───
「……ディライト!! 何で貴方がそこにいるんですの!? しかもその格好!」
そのタイミングで私とディライト様に向かって声をかけたのは、ミンティナ殿下だった。
どうやら、人の隙間から私達の姿が見えたらしい。
「……ディライトだと? おい、ミンティナ。人だかりの中心にいるのはディライトなのか?」
ジョーシン様が驚きの声をあげ、ミンティナ殿下に訊ねる。
「ええ、お兄様。間違いありませんわ。しかもすごく美しい女性を連れています」
「ディライトが女性連れだと? それってまさか……いや、でもすごく美しい……だと?」
動揺するジョーシン様とミンティナ殿下。
「誰よ……どこの令嬢なのよ……こんな人、知らないわよ……」
「姉さん、落ち着いて!」
一方で信じられない……と肩を震わすイザベル様。
「マルセロ! 見てご覧なさい! し、信じられないから……しかも、女性の方だけでなく……だ、男性までも……」
「姉さん。今、その男性の事はミンティナ殿下が“ディライト”って口にしていたけれど?」
「ディライト!? 待ちなさいよ! それって負け組の……」
「……でも、二人の婚約の話は聞いたよね、姉さん」
「!!」
彼らの中に、まさか、まさか……という思いが広がっていく。
今、まさに自分達よりも会場中の注目を集める二人。
────あの美しいとしか言えない二人がシャルロッテとディライト!?
イザベル様は今にもそう叫び出したくなるような様子を見せていた。
「気の所為よ。あの人達なわけ……だって……私達より……美……なんて……」
「姉さん……」
イザベル様はずっと肩を震わせていて、マルセロ様はひたすらオロオロしていた。
「んー凄い動揺しているな……シャルロッテ、そろそろ殿下達の所に“挨拶”に行こうか? 俺達が誰なのかは気付いたみたいだし。ミンティナも煩そうだ」
「はい……」
(ミンティナ殿下がディライト様の名を叫んでいたものね、イザベル様は有り得ないとずっと連呼しているようだけれど)
「……」
チラッと四人の方を見ると、ジョーシン様とミンティナ殿下は微動だにせず呆然としている。
(あの表情はどういう感情なのかしら?)
「しかし、俺の可愛いシャルロッテはさすがだね」
「な、何の話です??」
手を取りジョーシン様達の方へと向かっている最中に、ディライト様が感心したように言う。
「四人が固まっているのは、シャルロッテがこの場で誰よりも美しくて可憐だからだ」
「……ディライト様……」
私は内心でため息を吐く。
それは私ではなくて、あなたがよ、と言いたいけれどディライト様、自覚無いのよねぇ……と思った。
「殿下も、会場の人達も今更、シャルロッテの可愛さに気づいて後悔しても遅いんだよ」
そう言って笑ったディライト様の笑顔はいつもより黒かった。
───
「王子殿下、王女殿下、ご無沙汰しております。ドゥラメンテ公爵家のディライトでございます」
「同じく、アーベント公爵家のシャルロッテにございます」
ジョーシン様達の元に辿り着いた私達は彼らに挨拶をする。
「……」
「……」
ジョーシン様もミンティナ殿下も言葉を失った様子で私達を見つめるばかり。
男爵家の双子に至っては、驚愕の表情を浮かべて「ま、眩し……嘘っ……」とか何とか言いながらまだプルプルしている。
「……婚約……二人は婚約した、と聞いた」
やがてジョーシン様がおそるおそるといった様子で口を開く。
私はにっこり笑って言った。
「ええ。私達は突然、以前の婚約が無くなりましたから」
「……!」
「同じ境遇にあった者同士、とても気が合いましたの」
「気が……」
ジョーシン様は何故か動揺しているように見えるけれど、そんなの知らない。
「それに、シャルロッテのその格好……」
「お言葉ですが、殿下。私の事はもう“アーベント公爵令嬢”とお呼びくださいませ」
「…………は?」
ジョーシン殿下は意味が分からないといった顔をする。
バカなの?
「申し訳ございません……いくら元、婚約者の殿下であっても、私は今の婚約者、ディライト様以外の男性から馴れ馴れしく名前を呼ばれたくありませんの」
「な……」
「愛する婚約者のディライト様に誤解されたくないのです。どうか分かってくださいませ、殿下」
「あ、い? 愛する……? ディライトの事を……?」
「ええ」
私が笑顔でジョーシン様に向かってそう答えると、ジョーシン様がますます衝撃を受けたような顔になった。
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