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14. 悪役にされた令嬢と令息は注目を集める

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  (私ってディライト様に翻弄されてばかりいるわ)

  ディライト様ってどうしてあんなに“婚約者を愛しているフリ”がお上手なのかしら?
  上手すぎると思うの。
  サラっと甘い言葉を囁いたかと思えば、すぐその後に赤面したり……
  まるで本当に愛されてるかも……なんて勘違いしてしまいそう。

  (本当に凄い人───)



  会場入りした時から私達に向けられた視線は凄かった。
  さすがディライト様!  やはり、ここは私が彼を肉食令嬢達から守らなくては!
  改めてそう決意した時、ようやく私達が誰なのかに気付いた人が驚きの声を上げた。

「───ま、まさか……アーベント公爵令嬢……と、ドゥラメンテ公爵……令息?」

  その声は思ったよりも会場内に響いたようで、ざわめきがより一層強まった。

  ───え?  アーベント公爵令嬢?  
  ───ドゥラメンテ公爵令息!?  
  ───あの、冷たくお高く止まっていた悪女!?
  ───冴えない容姿のくせに難癖だけは付けていたらしい悪い男??

  そんな好き勝手言っている声が、あちこちから聞こえてくる。

  (ディライト様は冴えない容姿なんかじゃないわよ!  しっかり見てみなさい!!)

  そんな事を思いながら辺りを見回してみると、私達を見て呆然とする者、頬を赤く染めて凝視している者……などなど。
  とにかく様々だった。

  パリーン……
  どこからかは、グラスの割れる音がして「きゃーー、しっかりしてーー!?」そんな令嬢の叫び声も聞こえる。

  (……やっぱり失神した人が出たわね……)

  ディライト様の美しさは恐るべしだわ。
  一方で、

  ───殿下達に酷い事をして婚約破棄されたくせに
  ───よくもまぁ、ノコノコと顔を出せたものだ!
  ───捨てられていた者同士慰め合ったのかしら?
  ───惨めね!

  あの日の事を持ち出してヒソヒソしている人も多い。

「……シャルロッテ」

  ディライト様が私の腰に回している腕にグッと力を入れた。
  そして、心配そうな目で私の事を見つめる。

  (優しいわ……自分の事だって酷く言われているのに)

  私はにっこり笑って答えた。

「大丈夫ですよ?  好きに言わせておけばいいのです」
「シャルロッテ……」

  私はそっとディライト様のキラキラした美しい顔の頬に触れる。

ディライト様あなたが、あまりにも素敵だから皆、私の事が羨ましいんですよ」
「ははは、それを言うなら君だよ、シャルロッテ。君はこの会場の中のどの花より綺麗だ。実は俺はさっきから視線が痛い」

  ディライト様が私の手を取りながら負け時と答える。
  そして、ディライト様はそのまま私の手の甲にそっとキスをした。

  (!?)

  さすがにその行動にびっくりした私は固まってしまう。

「君は誰よりも可憐で美しいよ、シャルロッテ」
「ディ、ディライト様……」
  
  ディライト様のそんな行動で、それまで優雅に微笑んでいたはずの私の顔が真っ赤に染まる。
  そんな私の様子にますます会場がざわついた気がした。

  ───!?  誰だあれは!  本当にアーベント公爵令嬢か!?
  ───めちゃくちゃ可愛っ……
  ───そもそも、見た目が全然違う……!
  ───え、あのふわふわ……凄い好み……

「…………」
「?」

  突然、ディライト様がハッとした顔をして会場内を見回す。

「どうされました?」
「うん……聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしてね」
「聞き捨てならない言葉、ですか?」

  私が聞き返すと、ディライト様は真剣な瞳で私を見た。
  そんなに危険な話を耳にしたのかしら?
  私は緊張した面持ちで、次の言葉を待った。

「あぁ。俺の可愛いシャルロッテによこしまな想いを抱く声だ」
「へ?  よこしま?  それはどういう意味ですか?  ディラ…………きゃっ!?」

  そう言ったディライト様はますます私を抱きしめる力を強くする。

「シャルロッテは俺のだろう?」
「それ!  ずっと思っていたんですけど、言い方!  “俺の婚約者”じゃないんですか?」
「…………俺のシャルロッテなんだよ」

  胸がドキンッとした。
  この人は私を殺しに来てるのかしら?
  ドキドキしすぎて暫く顔があげられなかった。


  ようやく胸のドキドキも落ち着いた頃、ディライト様が私に言った。

「……シャルロッテ、踊ろうか?」
「え?」
「今夜は舞踏会だよ。踊らないと」

  それはその通りだけど、どうして突然??
  ディライト様は辺りをキョロキョロと見回して言う。

「まだ、殿下達は来ていない。その間にシャルロッテと踊っておきたい」
「!」

  ───彼らが現れればそれどころじゃなくなるからね───……

  ディライト様のそんな心の声が聞こえた気がした。

「さぁ、お手をどうぞ?  俺の姫君シャルロッテ
「ふふ」

  差し出された手を取って私達は踊る事にした。





「───さすがだね?」

  踊り始めてから少しして、ディライト様が感心したように言った。

「はい?」
「さり気なく混ぜた複雑なステップにもしっかりついて来る」
「……私を誰だと思っていて?」

  ジョーシン様にとって相応しい女性と認められる為にたくさんたくさん練習してきたんだもの!
  当然よ!

「俺の可愛いシャルロッテ」
「……」

  その言葉にガクッと肩の力が抜けそうになる。

「ははは、そんな顔も可愛いなぁ…………知ってるよ。ちゃんと知ってる」
「え?」
「シャルロッテがずっと努力して来た事をちゃんと知ってる」
「……っ!」

  急にそんな事を言うのはずるい……

ジョーシン殿下あいつの為だったとしても、これまでのシャルロッテが努力して来た事に何一つ無駄な事なんて無い」
「ディライト様……」
「見てごらん?  今も俺達のダンスを皆、惚れ惚れした様子で見ているから」
「……」

  そう言われてターンしながら会場の人達を見ると、私達の事を惨めな奴らだなんだと言っていた人達までうっとりした目で私達を見ていた。

  (ディライト様、これを狙って踊ろう、と言った?  私なら皆を唸らせるダンスが出来るはずだと信じてくれて?)

  そんな思いで目を見つめると、ディライト様は眩しい笑顔を見せて言った。

「よく知りもしないで勝手な事を言う輩には見せつけてやるのが一番」
「!」
「俺の可愛いシャルロッテは、黙らせる事が出来るだけの力を持った素晴らしい人だからね」
「…………」

  (やっぱり!  でも、持ち上げすぎよ……!)

  そう思ったものの嬉しくて緩んでしまう口元は抑えられなかった。



  ───そんな私達のダンスが終わったその時──……
  会場の入口が騒がしくなる。

「…………来たかな」

  ディライト様小さな声でそう呟く。
  私も視線を扉の方へと向ける。

「……」

  そして、扉が開けられ会場へと入って来たのは───……

  (!!)

  ジョーシン様、ミンティナ王女殿下、イザベル様、マルセロ様の四人だった。
  
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