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13. 悪役にされた令息は令嬢が可愛くて仕方ない
しおりを挟む───俺の欲しい物は、君だよ? シャルロッテ。
そう言えたらいいのに。
デート中、俺は可愛いシャルロッテを見ながらそんな事ばかり考えていた。
(だけど、今は言えない)
シャルロッテが求めているのは、復讐のための偽装の婚約者となってくれる俺。
それだけ、ジョーシン殿下が、シャルロッテの心の中を占めていると思うと醜い嫉妬心まで湧いてくる。
(俺だけを見て俺の事だけを考えてくれればいいのに)
自分がこんなに心が狭いなんて知らなかった。
もし、シャルロッテに俺がこんな想いを抱いてると知られたら、“こんなはずじゃなかった”と、避けられてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
(演技だと思ってくれていれば側にいられる)
でも、俺は何一つ演技なんてしていない。全部、本当の事を言っている───
────……
王宮の舞踏会に向かう馬車の中で隣に座る彼女を横目でチラリと見る。
(めちゃくちゃ可愛い……)
今日、シャルロッテを迎えに行ってドレスアップした彼女を見た後、俺の語彙力は見事に消え失せた。
可愛い以外の言葉が見つからない。
これまでと違って露出が控えめの清楚なドレスはシャルロッテによく似合っている。
きっと、この格好がシャルロッテが本当に好きだった、したかった格好なのだろう……
「……」
(本当に別人みたいだ)
俺の知っていた、シャルロッテ・アーベント公爵令嬢は、あまり笑顔を見せず冷たい印象の令嬢だった。
話す機会が無かったので、性格も噂で聞くばかり。
ただ一方で誰よりも将来の王妃として、相応しくあるよう努力している令嬢でもあった。
(どこかチグハグだと思っていたのはこういう事だったのか)
あの日、婚約破棄されてからのシャルロッテは、見た目だけでなく、中身も可愛い人だった。
復讐だと言ってかなり過激な考えを口にしたかと思えば、可愛らしく頬を染めたり……
そう、つまりは全部! 存在が可愛い!!
「……ディライト様?」
馬車に乗り込んだ後、黙り込んでしまった俺を不思議に思ったのか、ぱっちりした可愛い目を俺に向けてくる。
(あんなに冷たそうな細い鋭い目つきだったのにな。改めて化粧ってのは凄い)
「何でもないよ、可愛いシャルロッテに見惚れていた」
「かっ? 見惚……うぅ……」
シャルロッテが照れた。
(あぁ、やっぱり可愛いなぁ)
今日の舞踏会ではこんな綺麗なシャルロッテは、間違いなく色んな意味で噂の的となるだろう。
それに、ジョーシン殿下だって……
(絶対このふわふわシャルロッテは殿下の好みど真ん中のはずだ)
むしろ、俺としてはジョーシン殿下は、シャルロッテのこの素顔を知っていてわざと真逆な女性になるよう仕向けたような気がしている。
(やっぱり、可愛すぎて他の男から隠したかった……のだろうか?)
───だが、どんな理由があるにせよ、ジョーシン殿下はシャルロッテを公の場で捨てた。
“真実の愛”とやらがどんなものかは知らないが、あの男爵家の双子が有名になった時に、最初に会いたいと言い出したのは殿下達だ。
最初から何か感じるものがあったのかもしれない。
(ミンティナも……昔からミーハーで見目麗しい男が好きなのは知っていたが……)
余程、好みでは無い顔の俺が疎ましかったのだろうな。
当たり前のように決まっていた婚約者で、妹のように思っていた王女。
いくらあの男爵令息が気に入ったからと言って、公の場であんな事を言い出すとは思いもしなかった。
(だが、公の場での婚約破棄のダメージが大きいのは明らかにシャルロッテの方だ)
───私は幸せな結婚はもう望んでおりませんから
あの時の全てを諦めたかのような言葉がそれを表している。
「シャルロッテ……」
「ディライト様!? な、何を!?」
俺はそっとシャルロッテを抱き寄せる。
シャルロッテは突然の事に動揺しているが、そんな慌てる姿もやっぱり可愛い……
俺はシャルロッテに出会ってから“可愛い”しか考えていない気がする。
だが、可愛いものは可愛い!
(なぁ、シャルロッテ。お願いだから、幸せな結婚は無理だなんてそんな事は言わないでくれ)
シャルロッテは俺が誰よりも幸せにしてみせるから───……
────
馬車が止まった。
「……ディライト様? 王宮に着いたみたいです、よ?」
「…………あぁ(もっとこうしていたい)」
ギュッ!
離すどころかもう一度抱きしめる。
「お、降りないと」
「…………あぁ(もっとこうしていたい)」
「……ディライト様……」
シャルロッテが可愛い顔で困り出した。
───あぁ、そんなシャルロッテも可愛い!
では無くて……そろそろ本気で怒られそうだ。俺は、しぶしぶシャルロッテから離れる。
「すまない、シャルロッテ。行こうか」
「え、ええ」
シャルロッテはどこかホッとした様子。
「……」
(俺にドキドキしてくれたらいいのに)
そんな彼女の手を取って俺達は会場へと歩き出した。
「……」
会場に向かうにつれて、シャルロッテの顔が強ばっていく気がする……
(無理もない、か)
「シャルロッテ」
「?」
俺に名前を呼ばれてその可愛い顔を上に向けるシャルロッテ。
──チュッ
すかさず俺はそのシャルロッテの額にキスを落とした。
「~~な、何を!?」
「いつもの可愛い可愛いシャルロッテの顔が見たくてね」
「……いつもの、私……?」
顔を赤くして慌てるシャルロッテにそう告げる。
「雑音なんて耳に入れなくていいよ。俺の口にする“シャルロッテは可愛い”という言葉だけ覚えていて欲しい」
「っ! ……ディライト様!」
(そうやって赤くなる所が堪らない!)
復讐計画を口にしたり、万が一、ジョーシン殿下が復縁を迫って来たらボコボコにすると言った時との違いが凄い。
「言っただろう? 俺は君を守りたい」
「! あ……ありがとうございます」
「……!」
シャルロッテは花のような笑顔で俺に微笑んでくれた。
これも最高に可愛いくて俺は内心で悶えた。
────俺達が会場入りした途端、視線が一気にこちらに向けられた。
(そんなに見なくても……)
可愛いシャルロッテを見せびらかしたい気持ちもあるが、反対に誰にも見せずに俺だけのシャルロッテにしておきたい、そんなどす黒い気持ちも生まれてしまう。
「……すごい見られていますね?」
「あぁ。皆、シャルロッテの美しさに息を呑んでいる」
俺がそう口にすると、シャルロッテは不思議そうな顔をした。
「私ではなく、ディライト様ですよ?」
「は? シャルロッテだろう?」
「私? まさか!」
──鈍い。シャルロッテは自分の美しさを全く分かっていない。
(これも、ジョーシン殿下のせいなのか?)
「何度も俺が言っているだろう? シャルロッテは可愛いと」
「お世辞……社交辞令……」
「そんな事で誰が何度も何度も口にするものか!」
俺はやや強引にシャルロッテの腰に腕を回し抱き寄せる。
会場の視線も俺達に釘付けだ。
(綺麗だろう? 美しいだろう? この可憐な人がお前達が、あの日バカにした“シャルロッテだ”!)
しぱらくザワザワした後───
「───ま、まさか……アーベント公爵令嬢……と、ドゥラメンテ公爵……令息?」
ようやく俺たちが誰か気付いたらしい、その誰かの言葉に会場のざわめきはますます大きくなった。
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