【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea

文字の大きさ
上 下
8 / 45

8. 悪役にされた令嬢と令息は婚約する

しおりを挟む


「シャルロッテ。ディライト殿が来たのだろう?  いつまでモタモタしているんだ?」
「「!!」」

  お父様のその声に私とディライト様がハッとなる。
  そして、お互い慌てて顔を逸らした。

  (やだ、私ったら……じっと見つめてしまったわ)

  花束を持っていない方の手で自分の頬を抑えたらとても熱かった。

「……ん?  いったい何をやって……」

  と、そこで顔を出したお父様がディライト様を凝視する。
  そして、何処かで聞いたセリフを大真面目な顔で言った。

「えぇと、どちら様でしょうか?」
「…………親子だな。言動が全く一緒じゃないか」

  ディライト様のその言葉に私は苦笑いする事しか出来ない。

「お父様、ディライト様ですよ」
「……いや、ドゥラメンテ公爵令息はもっと、こう……もっさ」
「お・と・う・さ・ま!」
「おい、シャルロッテ……押す、押すな!」

  本人を目の前にしてもっさりは無いでしょう?
  私はそう思いながら、お父様をぐいぐいと部屋の中へと押し戻した。
  そんな私達を、ディライト様は可笑しそうに笑う。

「ディライト様?  何がおかしいのですか?」
「いや、シャルロッテが元気そうで良かったなと思って。実は少し心配していた」
「心配……ですか?」
「ああ。ジョーシン殿下に婚約破棄なんてされてしまったから……その、まぁ……だから、手紙をすぐに送ってみたけれど杞憂だったかな」

   (あぁ、そっか。お父様が婚約破棄された事に怒って私に何か罰を与えたりしないか心配してくれていたんだわ)

  婚約の申し込みの手紙もすぐに送って来たのはそういう事──……

  ……キュン
  そう思ったら胸がキュンっとした。

  (…………キュン?)

  もう、私の心臓は絶対におかしいわ!



───

  
  先程から私の胸がおかしいけれど、どうにか心を落ち着かせて話し合いに臨む。
  ここでお父様にしっかり認めて貰わないと全ての計画が狂ってしまう。

  (絶対に認めて貰うんだから!)

  お父様と向き合う形で私とディライト様は隣同士に腰掛けた。

「それで、本当にドゥラメンテ公爵令息殿は、シャルロッテと婚約を?」
「はい。こちらも王女殿下との婚約は白紙になりました。シャルロッテ嬢もジョーシン殿下との婚約は白紙になったと認識しております故、何の問題も無いと思っております」
「……それはそうなのだが」

  お父様が渋い顔をして私達の事を見る。

「聞く所によると、シャルロッテとドゥラメンテ公爵令息殿は、パーティーで婚約破棄宣言されただけでなく、殿下達に“悪役”とまで呼ばれたとか」
「……はい」
「……」

  改めて思い出すだけでも怒りがフツフツと湧いてくるわね……
  そんな思い出し怒りをしていると、そっと横からディライト様の手が伸びて来て私の手を握る。

  (なっ……!)

  思わず変な声が出そうになったけど、耐えた。
  優しく握ってくれるその手は“落ち着け”と言ってくれているみたいだった。

  (……ズルい)

「そんな二人が婚約したとなれば、社交界では大きな騒ぎになるし、随分と好奇な目で見られ、噂もされるだろう」
「そうですね」
「その時に、あなたはシャルロッテを守れますか?」
「……」

  お父様のその言葉にディライト様の方をチラッと横目で見ると、ディライト様は困った様子を見せる事もなく、あの綺麗な真っ直ぐな目できっぱりと答えた。

「守ります」
「……」

  思わずその横顔に私は見惚れてしまった。

「シャルロッテ嬢がもう、あんな風に泣く所は見たくありませんから」
「!」
  
  そう言って優しく手をもう一度握ってくれたので、ドキドキしすぎて頭がおかしくなるかと思った。


───


「ディライト様」

  お父様との話を終えて帰ろうとするディライト様を見送ろうと玄関まで着いて来た。

「ありがとうございました」
「うん?」
「……お父様、認めてくれました」
「あぁ、婚約のこと?」
「それもですが、ちゃんと“フリ”をしてくれた事です」

  ディライト様はお父様の前で、私の事を好きなフリをしてくれた。それと……

  ───シャルロッテと婚約したら、王位継承権を持つディライト殿は否応なしに王位争いに巻き込まれる事になるが?

  その質問に、ディライト様は、
「俺は彼女の望む通りにするまで。シャルロッテ嬢がジョーシン殿下ではなく俺に王となる事を望むなら俺はそれに応えるまでです」
  と答えてくれた。
  お父様は「分かった」とだけ頷いたけれど、その後“婚約を認める”そう言ってくれた。

  (これで、ドゥラメンテ公爵家とアーベント公爵家が手を結ぶ事になったわ)

  ───反撃開始よ!

「約束だからな」
「!」

  ディライト様はそう言って優しく私の頭を撫でてくれた。
  その仕草と笑顔に胸がまた、キュンとしたけれど、私はもう一つ伝えるべき事がある。

「あの、お借りしていた上着の事なのですが」
「ああ、うん」
「メイドに教わって手洗いしたのです。でも、やっぱりワインの染みが……完全に落ちませんでした。すみません……」

  私がそう告げると、ディライト様は何故か驚いた顔をしている。

「ディライト様?」
「……手洗いって、誰が?」
「私ですけど……?」

  私が首を傾げながらそう答えると、ディライト様はますます驚いた顔を見せた。

「シャルロッテ自ら?」
「は、はい。だって、出来れば私が自分の手で綺麗にしたかったんです……」

  私は少し照れながらそう答える。

「…………っっ」
「ディライト様?」

  すると、何故かディライト様が天を仰いで身体を震わせ始めた。

「な、何でもない………………何だこれ……無自覚にも程がある……」
「?」
「えっと、あー、うん。構わないよ。むしろ頑張ってくれてありがとう」

  ディライト様はそう言って私の頭を撫でた。

「……ですから、その、約束通り弁償させて頂きたいのです。なのでー……」
「分かった。デートしよう」
「…………え?」

  デート?  聞き間違いかと思った。
  私が目を丸くしていると、ディライト様はあの破壊力満点の笑顔を私に向けて言った。

「それなら一緒に買い物に行かないか?  そこで何か俺にプレゼントを買ってくれたら嬉しい」
「買い物?  プレゼント?」
「上着でなくても構わないから」
「え?  え?」

  (お出かけ!?  デート!?)

   よく分からないうちにディライト様と“デート”する事が決定していた。





─────そんなシャルロッテが、ディライトとのデート決定に軽くパニックを起こした翌日……


「ジョーシン殿下、口を開けて下さいな?」
「うん?」
「はい、あーん」
「あーん?」

  王宮のジョーシンの私室では“真実の愛”の相手同士の、イザベルとジョーシンがお菓子を食べさせ合っていた。

「ジョーシン殿下、美味しいですか?」
「あぁ、美味しいよ」
「このクッキー私が作ったんですよ!」
「へぇ、さすがイザベルだ」
「ふふふ……た~くさん食べて下さいねぇ……ふふ」

  部屋にある机の上には、今日中に片付けないといけない書類が山となって積み上がっているが、その山が減る様子は一切無い。
  本日、イザベルが訪ねて来てから公務を放り出してずっと二人でこうして過ごしていた。

  そこへパタパタと部屋へと駆け付けてくる足音が聞こえて来る。

「お兄様!  大変ですわ!」

  そう言ってバーンという扉の音と共に部屋へと駆け込んで来たのは、王女のミンティナ。ミンティナの後ろにはイザベルの双子の弟の男爵令息マルセロも控えている。

「どうした?  ミンティナ」
「あら、マルセロ?  貴方までどうしたの?」

   呑気な二人にミンティナが声を荒らげる。

「どうしたもこうしたもありませんわ!  お兄様!  イザベルお姉様!」
「だから、何だ?」
「あの二人───ディライトとシャルロッテが婚約したそうですわ!」
「「は?」」

  ジョーシンとイザベルは二人仲良く驚きの声を出した。

「まぁ!  それは本当なの?  ミンティナ様」

  イザベルがミンティナに問いかける。

「……間違いありませんわ!」
「僕もそう、聞きました」
  
  ミンティナとマルセロが頷く。

「あーら、まぁ、ふふ。あの冴えない感じがお似合いの二人ではなくて?  ねぇ、ジョーシン殿下!」
「溢れたもの同士で傷の舐め合いか……フッ」

  ジョーシンは小馬鹿にしたように笑う。

「そんな言い方可哀想ですわよ、殿下」
「ははは、イザベルは優しいな。シャルロッテあの女とは大違いだ」

  そう言ってジョーシンはイザベルの頭を撫でる。

「まぁ、殿下ったら!  ふふ……」

  (───ふふふ、シャルロッテ悪役令嬢の名前を聞いても殿下のこの様子。大丈夫そうね、ちゃんと上手くいっているわ)

  内心でイザベルはそうほくそ笑む。

  (だけど、まさかあの悪役同士が婚約するなんてね……知らない展開だこと。まぁ、所詮あの冴えない“負け犬達”が今更どうしようともう関係無いわね)

  私達イザベル&マルセロは勝ち組で悪役達シャルロッテ&ディライトは負け組なのだから──……
  
  
しおりを挟む
感想 290

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...