25 / 43
第2章
side フリード⑥
しおりを挟む目的地は、ミラバース伯爵家だ。
フィーが鍵を託すなら、親友だというリリア嬢しか考えられない。
キースからリリア嬢は記憶喪失だと聞いているが、きっと鍵はリリア嬢の元にある。
不思議とそう確信が持てた。
そして、ミラバース伯爵家の屋敷に着くと、
伯爵、キース、リリア嬢、そしてリリア嬢の婚約者、ペレントン侯爵の嫡男ロベルトの4人が話し込んでいた。
そして、ちょうどまさに今、リリア嬢が手にしているのは、この箱の鍵と思われる物だった。
やはり俺の予想は、当たっていたようだ。
「なるほど。やはりミラバース伯爵令嬢が持っていたのか」
俺の言葉に4人が弾かれたように振り向いた。
「フリード!」
「「「フリード殿下!?」」」
「連絡もせずに来訪して、悪かったな。どうしても確認したい事があって訪ねて来たんだが」
「……王太子がほいほい出歩くなよ……」
キースに軽く咎められた。
「もちろん、護衛もいるぞ」
「そういう問題じゃないだろ!!」
キースの小言は無視して俺は続ける。
とにかく今は時間を無駄には出来ない。
フィーの処分決定までに証拠を手にして戻らなきゃならないんだからな。
……だが、その前に。
俺はどうしてもやらなければならない事が一つある。
「ミラバース伯爵令嬢……いや、リリア嬢。この度は、弟が申し訳ない事をした」
俺はリリア嬢に向かって謝罪をした。
「……えっ?」
リリア嬢は驚いている。まさか謝られるとは思っていなかったのだろう。
だけど、俺はどうしても謝らずにはいられなかった。
「あぁ、楽にしてくれていいよ、この訪問はお忍びだからね」
「あ、ありがとうございます」
リリア嬢は完全に戸惑っている。
まぁ、仕方ないよな。俺はため息を吐きながら続けた。
「君は今回のニコラスの件の被害者だろう?」
「被害者……と言いますか……」
「どう考えても被害者だと思うが? 君には婚約者がいるのにニコラスが君を脅して横槍を入れてきたんだろう? だから君達の婚約は今、解消に向けて動いてしまっている。違うかな?」
俺はリリア嬢とロベルトを見る。
二人は完全に今回の件でとばっちりを受けてしまった被害者だ。
本当に申し訳ない。
「違いません……」
リリア嬢が目を伏せながら答える。
「まぁ、この件が片付いたら元に戻せるはずだよ。俺からも陛下に口添えするからそこは安心して欲しい」
この二人の関係が戻らなかったら、フィーが絶対に悲しむ。俺はフィーにそんな思いをさせたくない。
学院に入学した後のフィーから貰っていた手紙にはよくこの二人の事が書かれていた。
お互いを大切に想いあっている仲の良い婚約者同士なのだ、と。
そして、そんな二人が羨ましいとも書かれていた。
(俺だってフィーを大切に想ってる! と何度返信に書きたいと思ったか……)
リリア嬢とロベルトがどれだけフィーにとって大切な友人なのか、その手紙を読んでるだけの俺にも伝わって来たくらいだ。
だから、二人の為に俺が出来る事は何でもするつもりだ。
しかし、リリア嬢……記憶喪失と聞いていたが、話をしている感じだとそんな印象を受けない。むしろ記憶を取り戻しているような?
俺はチラリとキースを見る。
すると、キースは無言で頷いた。
……なるほど、何があったかは分からないがリリア嬢は記憶を取り戻していたようだ。
良かった……フィーが知ったら、安心するだろうな。
早く教えてやりたい。
だが、今はこの箱を開ける事が先決だ。なので話を続ける事にした。
「……それよりも、まず今はその鍵の話だな。実はさっき地下牢にいるスフィアの元へ行ってきてね。色々問いつめて来たんだよね」
ニッコリ笑ってそう言ったら何故か皆がギョッとした顔でこちらを見た。
「俺としては小一時間くらい問い詰めたい事があったんだけど、警備の隙をついて行ったから時間が無くてさ……」
「フリード! そこはいいから話を戻せ!!」
キースにツッコミを入れられた。
「チッ……で、そこでスフィアから、どうにかこの箱の情報を聞き出してね、でも鍵がかかっていて。残念ながら鍵の在処までの話は時間切れで出来なかったから、何か知ってる事あるかと思ってミラバース伯爵家を訪ねて来たわけだ。どうやら当たりだったみたいだな」
そう言って箱を皆に見せる。
「……スフィアは大丈夫でしたか?」
リリア嬢が心配そうに尋ねてきた。
「うん。俺から逃げようとするくらいには元気だったよ」
「へっ!?」
どうやらリリア嬢は、俺のフィーへの想いを知らないらしい。思いっきり“どんな関係なの!?”って顔に出ている。
「あの……何故、殿下はスフィアが証拠を持っていると知っていたのですか?」
「あぁ、スフィアには、“影”がついてるからね」
「それはニコラス殿下の婚約者だからですか?」
「違う。スフィアには俺の影がついてるんだ」
「えっ!?」
リリア嬢の顔はもはや疑問でいっぱいだ。分かりやすいな。
まぁ、婚約者でもない俺の“影”がついてる何て言われたのだから、驚くのは当然か。
「スフィアは俺の大事な人だからね。……まぁ、そこのところ本人は全然分かってないみたいだったけど」
「…………!?」
いやいや、リリア嬢。驚き過ぎじゃないか?
「で、俺はスフィアを取り戻す為、動いてるってわけだ。……協力してくれるよね?」
半ば脅しのようになってしまったが、リリア嬢の協力は必要不可欠だ。
承諾して貰わねばならない。
「……は、はい。勿論です……」
少々、怯えている気もするがリリア嬢の承諾は得られた。
これで無事に箱は開けられるだろう。
その時、キースがリリア嬢に小声で耳打ちしていた。
俺のフィーへの想いを教えているのだろう。
だけど、知らなかったのはリリア嬢だけでロベルトは知っていたようだ。
……確か、彼は社交界デビューがフィーと同じ日だったからな。
あの時の俺の様子を見て気付いたってところだろう。
……肝心のフィーは全く気付いてくれなかったのにな。
と、ちょっと落ち込んだ。
だが今は落ち込んでる場合では無かったと思い出す。
「…………そろそろ、いいかな? まぁ、俺も時間さえあるならスフィアへの愛を語り尽くしたい所だけど。今は時間が無いのでね」
残念ながらあまり悠長にしている場合ではない。
本当はすっごく語り尽くしたいのだが。延々と語れる自信があるぞ。
「えっと、それではペンダントの鍵でこの箱を開けてみればいいんですね?」
リリア嬢が、そろそろと箱の鍵穴に鍵を差し込んだ。
………………カチリ
どうやら開いたようだ。
「手紙が数束に押し花? ……それにブレスレットと本が1冊?」
女性の物なので、俺達は少し離れた所で様子を見ることにして、まずは女性であるリリア嬢1人で箱を開けてもらった。
「フリード殿下、スフィアはこの箱の事をなんだと話していましたか?」
中身を見たリリア嬢にこの箱が何なのか聞かれた。
「……自分にとってとても大切な物が入っている、とだけ言っていたが。何が入っていた?」
「えっとですね……」
もうそろそろ良いかと思い、近付いて箱の中身を見て俺は「えっ!」とだけ小さく声を上げてそのまま言葉を失った。
と、同時に嬉しさと恥ずかしさが込み上げてきて思わず顔を覆ってしまった。
フィーにとって大切な物というのが……
「で、殿下……? 大丈夫ですか」
俺の動揺が伝わったせいかリリア嬢が困惑している。
いや、俺もだよ……俺も頭の中が混乱中だよ……そう思いながら口を開いた。
「…………その手紙の束は、スフィアがニコラスと婚約する前までの間に俺がこっそりスフィアに送り続けてた手紙だ。そしてブレスレットは俺がプレゼントに贈ったもので……押し花は、勘違いでなければ……だが、俺が今までスフィアに贈った花を押し花にしたものだと思う……」
「……………………!」
まさか、フィーの大切な物が入ってるという箱の中に俺が贈った物が入ってるなんて思いもしなかった。
贈り続けた花はわざわざ押し花にまでしてくれていたようだ。
「……………………!」
リリア嬢は心の底から驚いているようだった。……俺もだ。
「フィー……取っておいてくれてたんだな……」
嬉しくて嬉しくて無意識の内に小さな声でそう呟いていた。
俺はフィーをどんな事をしても手に入れるつもりで、俺に気持ちが向いていないなら、何度でも口説いて口説いて振り向かせるつもりで帰って来た。
だが、これを見せられたら……少しだけ、少しだけだが期待したくなってしまう。
フィーにとって、俺は特別な存在になれてるのではないか、と。
「手紙や押し花、ブレスレットは殿下からの贈り物だとすると、今回の件の証拠とはならないですよね。と、なると……この本でしょうか?」
リリア嬢の言葉に、ハッと現実に戻される。
そうだ! 今は証拠品を確保しなくては。
「……そ、そうだな……」
この本……いや、ノートは何だろう? フィーの日記か?
さすがに、これを読むのは抵抗があるが……だが、背に腹はかえられない。
俺はそのノートを開いた。
しかし、予想に反して、ノートの中に書かれていたのは日記ではないようだ。
と言うより、何が書かれているのか分からない。
「ーーーーこれは、どこかの異国の文字でしょうか?」
リリア嬢も分からないらしい。
フィーは、何故こんな見たことのない文字が書かれた物を持っているのだろう。
そう疑問には感じたが、証拠品もこれでは無さそうだ。
「おかしいな? この箱の中にあるはずなんだが……何故見当たらない?」
その場にいた誰もががっくりと肩を落としたが、
ノートの最後に一通の紙と手紙の束が挟まっている事にリリア嬢が気付いた。
「フリード殿下、この手紙もフリード殿下が贈った物ですか?」
それは俺の送った手紙とは違う物だった。
「…………っ! それだ! 開けてみてくれ」
広げて読んでみると、紙には俺の暗殺計画が書かれており、束になっている手紙にはニコラスとセレン嬢が俺の暗殺計画を示し合わせたやり取りが記されていた。
「……あった……!」
見つけた!!
この証拠品とこちらが調べあげた情報で、二人を追い詰める事が可能になった。
……これで、フィーを助け出す事が出来る!
「本当に助かった……これで絶対にフィーを必ず助けると約束する!」
俺のその言葉にリリア嬢は「……お願いします!」と何度も俺に頭を下げた。
……その必死な様子を見て思う。
フィーは、何故かあのまま処罰を受ける事を望んでいたが、フィーの大事な親友はこんなにもフィーの事を案じてる。
そこのところ、ちゃんと分かってもらわないといけないよな……
俺は四人にお礼を言ってミラバース伯爵家を後にし、急いで王宮に戻る。
──必要な物はこれで揃った。
あとは、ニコラス達を……この手で……叩きのめすだけだ。
40
お気に入りに追加
3,253
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる