【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

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第3章

10. 暴かれていく罪

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「……ミレーナ様」

  ビクッと自分の身体が震えたのが分かる。
  こうして目の前に現れた彼女の姿を見ると、さすがに先程までの事を思い出してしまった。
  結果として何事もなく無事ではあったけど、拐われた時の恐怖が消えたわけではない。

  そんな私の反応に気付いたのか、殿下が私の腰に手を回して抱き寄せるようにして自分の方へ引き寄せてくれた。
  守ろうとしてくれてるんだと思うと胸がキュンとした。

「卒業、そしてご婚約おめでとうございます、スフィア様」

  ミレーナ嬢は、笑みを浮かべながら明るい声で話しかけてきたけれど、その目は全く笑っていない。
  むしろ、“どうやって抜けてきたんだ”という目を向けてくる。

「あ、ありがとう……」
「殿下もご婚約おめでとうございます」
「…………あぁ」

  殿下は、怒りのオーラが溢れ出ていて返事がかなり素っ気ない。
  そんな殿下の態度を分かっているのか分かっていないのか。
  それでも、ミレーナ嬢は言葉を続ける。

「けれど、殿下は本当によろしいのですか?」
「……何がだ?」
「スフィア様は、約1年程とはいえ、ニコラス様の婚約者だった方ですわ……ニコラス様の引き起こした事件とは無関係だと言えるのでしょうか?」

  ミレーナ嬢のあまりの率直なその物言いに、周囲もザワザワと動揺の声が溢れる。
  また、ミレーナ嬢のその言葉に頷いている人もいるから、同じ様に考えている人は案外多いのかもしれない。

「スフィアが、ニコラスからどんな扱いを受けていたかは、同じ学院に通っていた君の方がよく知っていると思うが?」

  対して、フリード殿下はとても冷ややかな声で答える。

「……スフィア様が、清廉潔白な方でしたらそう思えるのですけど……ね」

  ミレーナ嬢は、わざとらしく頬に手をやり困惑した顔を浮かべる。
  相変わらずこういった演技力には磨きがかかっている。

「…………何が言いたい?」
「率直に申し上げますわ!  スフィア様は陰でコソコソと下級生に対して嫌がらせやイジメを行う方なんです!  最初の被害者は、セレン元男爵令嬢、そして彼女がいなくなってからはわたくしに!  そんな方が王太子妃に相応しいとは思えませんわ!! ねぇ、 皆様もそう思いますでしょう?」

  ミレーナ嬢は声を張り上げ、大袈裟な身振りで周囲の人達に同意を求める。
  周囲の反応は様々だった。
  彼女の言い分を信じて私に侮蔑の表情を向けてくる人、
  半信半疑で、何とも言えない表情を浮かべる人、
  ミレーナ嬢の大袈裟な態度に嫌悪感を顕にする人……


「何の為だ?」
「はい?」
「何の為かと聞いている。スフィアは何故、セレン元男爵令嬢や、シーギス侯爵令嬢の君に嫌がらせをする必要があるんだ?」
「そんな事決まってます。嫉妬ですわ!」
 
  間髪入れずにミレーナ嬢はそう答えた。

「スフィア様がニコラス様の婚約者だった頃、ニコラス様の愛情は全てセレン元男爵令嬢へ向かっていましたもの。婚約者であったスフィア様にとっては面白くありませんでしょう?  セレン元男爵令嬢に嫉妬してもおかしくはありません」
「そうか……では、何故セレン元男爵令嬢が居なくなった後、その対象がシーギス侯爵令嬢……君に変わったんだ?」
「えっ?」
「スフィアは、公爵家の令嬢で侯爵令嬢の君よりも身分も上。学院でも君とは同級生ではないから学力の事で競うことも無いな。一体スフィアは君の何に嫉妬するんだ?」
「そ、それは……」

  ミレーナ嬢はとにかくこの展開をどうにかしたくて、あまり深く考えずに言葉を発していたのだろう。明らかに矛盾点が多すぎた。
  そのせいで痛いところを突かれてしまい、ミレーナ嬢の目が泳ぎ始めた。

  そこで、ふぅ、と殿下は一息ついたと思ったら周りを見渡して言う。

「今、この場にいる者の中で学院内で起きていた事を見知っている者はいるか?  発言の許可を与えよう。自由に発言してくれて構わない」

  殿下の言葉に会場中が騒ついた。

  自由にって……
  そもそも、学院内ではセレン嬢やミレーナ嬢への嫌がらせは私がした事だとみんな信じてると思うから、余計私にとって不利な話が出てくるのではないのかしら?

  と、考えていたら、1人の令嬢が静々と進み出てきた。

「あ、あの……よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない」

  殿下は頷いて続きを促す。

「わ、私は、セレン元男爵令嬢にもミレーナ様にも、スフィア様は嫌がらせなんてしていないと思います!」
「「えっ?」」

  私とミレーナ嬢の驚きの声が重なった。

「……どうしてそう思った?」
「私は、セレン元男爵令嬢のクラスメートで隣の席でした。彼女はいつも小声でブツブツと何か呟いていてとても話しかけられる雰囲気では無かったんですが……」

  小声でブツブツ呟いてるって、セレン嬢は何やってるの……
  その姿を想像してみたけど、絶対に関わりたくないなと思える。

「その、呟きから唯一いつも聞き取れたのはスフィア様の名前で、セレン元男爵令嬢はスフィア様を憎んでるようでした」

  ちょっと!  ダダ漏れだったんじゃないの……
  さすがセレン嬢と言うべきかしらね。

「ある日の放課後、私は教室で1人残っているセレン男爵令嬢を見つけました。彼女は私には気付いていなかったようですが。そこで私は、何故か自分の教科書をビリビリに破く彼女の姿を見ました。……その次の日です。セレン男爵令嬢がスフィア様に教科書を破られたと皆の前で言い出したのは」

  その言葉に会場内がしーんと静まる。

「その事が頭から離れなくて……私はそれからこっそりセレン男爵令嬢をよくよく観察していると、自作自演していてその犯人を全てスフィア様としていると分かりました。あの!  ……スフィア様……!」

  証言していた令嬢が、突然私の名前を呼び凄い勢いでこちらに向いた。

「な、何でしょうか?」

  突然の行動にビックリしてしまい少したじろいでしまう。

「スフィア様!  本当に本当に申し訳ございませんでした……」
「えっ?」
「私、セレン男爵令嬢が言っている事は、全てでっちあげだと分かっていたのに……何も言えず黙って見ている事しか出来ませんでした。そのせいでスフィア様はニコラス様達にいつもあんなに責められて……さらに周囲の方々にも誤解されて……!」

  その令嬢は今にも泣き出しそうだった。

「あの……気にしないで?  これは何を言われても一切否定もせず黙り続けてた私にも非があるのだから」

  勝手に噂が広がって断罪されるなら、それで良いと思っていたあの頃の私の罪だ。
  彼女が気に病む事ではない。
  それに、あの頃の私に擁護の姿勢を見せていたらこの令嬢だって何をされていたか分からない。だからこれでいい。

「で、でも……」
「なら、今あなたは私の為にこうして証言してくれてるじゃない?  ありがとう。だから、これでお互い様にしましょう?  ね?」

  私は笑顔でそう言った。
  今、この場で勇気を出して発言してくれた。その事が本当に嬉しかった。

「スフィア様!!  ありがとう……ございます……」

  令嬢はずっと頭を下げていた。

「すみません……私もよろしいでしょうか?」 

 今度は別の所から声が上がった。 

「あぁ」
「……学院内で起きたスフィア様とミレーナ様の階段落下の事故に関する件です」
「ぬぁっ!」

  ミレーナ嬢は動揺したのか変な声を上げた。
  それじゃぁ、やましい事があると言っているようなもの。

「あの時、ミレーナ様はスフィア様が自分を突き落としたと話されていましたが、冷静になって考えると、
「な、何がおかしいと言うの?  わたくしは確かにスフィア様から突き落とされたわ!  その後、バランスを崩したスフィア様も落下してああなったのよ!?」
「そこです!」

  発言者のあまりの勢いに、ビクッとミレーナ様の肩が震えたのがわかった。

「そこがおかしいのです。ミレーナ様は、スフィア様が上からご自分の事を突き落とした後にバランスを崩して落下した、とあの時も今も仰っています」
「そうよ!  それの何がおかしいと言うの!?」
「……あの時、私はお二人が落下した場所を偶然、通りかかっておりました。……ですから落下直後のお二人の姿を見ています。……ミレーナ様。私が見たお二人は、
「…………どういう意味かしら?」

  ミレーナ嬢はこの言葉の意味が分からなかったらしい。眉を寄せて聞き返す。

「お分かりになりませんか?  ミレーナ様の仰ってる状態で、二人が落下されていたのなら、のです」
「……んなっ!!」

  ミレーナ嬢の顔が引き攣った。
  突き飛ばした後に落下したはずの私がミレーナ嬢の下にいた……
  ようやく、その矛盾点に気付いたのだろう。

「ミレーナ様……セレン元男爵令嬢だけでなく、ミレーナ様もスフィア様に罪をなすりつけていたのではありませんか?」
「………………ちょ、ちょっと言い方を間違えてしまっただけですわ!!」

  ここまで言われても、ミレーナ嬢は自分のした事を認めたくはないらしい。
  周りはもう誰もミレーナ嬢の言葉を信用しようとはしていない空気となっているのに。

「そうか。それでは最後に」

  それまで、無言で証言を聞いていたフリード殿下が動いた。

「……っ」 

  ミレーナ嬢の顔はすでに真っ青だった。

「この今日の大事なパーティーの開始前に、スフィアに危害を加えようとした理由を聞かせてもらおうか?」

  シーンとした会場に、殿下の声はとてもよく響いていた。
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