【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

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第3章

6. これから先への不安

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「何か言われたり、されたりしていないか?」

  目の前のフリード殿下が飲んでたお茶のカップを置きながら心配そうな顔で尋ねてくる。

  ここは、殿下の執務室。
  最近はお妃教育の休憩時間に、殿下の執務室で一緒にお茶をする時間が設けられるようになった。

「大丈夫です。まぁ、そうですね……強いて言うなら、前より遠巻きに見られてる感じはしますねぇ……」

  私もカップを置きながら最近の学院での様子を答える。

  殿下が私にそんな顔で近況を尋ねてきたのは、先日、ニコラス殿下とセレン嬢の処分が世間に発表されたからだ。
  同時に、ほぼ暗黙の了解となっていた私とニコラス殿下の正式な婚約解消も発表された。

  私はあの断罪された日の夜会を最後に、社交界には顔を出していない。
  だから、詳しくは知らないけれど、ニコラス殿下についていた貴族の処分はすでに済んでいたから、発表しても大きなトラブルにはならなかったらしい。

  しかし、社交界は顔を出さずにすんでも、学院はそうはいかない。
  そんな学院の方では、ヒソヒソと遠巻きにされる日々がまだ続いている。
  ニコラス殿下の婚約者だった頃は、セレン嬢との関係に関してあれやこれや言われ、
  あの夜会の後は、ニコラス殿下との婚約破棄に関して言われ、最近は、ミレーナ嬢の行為とその内容に関して。

  こう考えると、私は常に周りに遠巻きにされヒソヒソ言われている気がする。

「そうか。んー……まぁ、俺としてはフィーに余計な虫が寄ってこないのは助かる面もあるがー……いや、しかし……」
「虫ですか?」

  殿下は真剣な顔でブツブツ呟いている。部分的にしか聞こえなかったけど“虫”という単語は聞き取れた。
  私がよく分からず首を傾げていると、殿下は苦笑しながらさらに続ける。

「ニコラスとの正式な婚約解消が発表されたから、フィーは世間的には今、婚約者がいない状態だろう?  余計な男共が近付いてくる可能性がある」

  その言葉に私は、パチパチと目を瞬かせる。
  え?  フリード殿下ってばそんな心配をしていたの?

「何を言ってるんですか?  いくら、私の公爵令嬢という身分が魅力的と言っても、婚約破棄された王子の元婚約者わたしを口説く人なんていませんよ?」

  私がそう答えると、殿下はジロっとした目で私を見てきた。そしてため息を一つ吐いた。
  何でそんな顔を……?  そして何故、ため息まで……?

「フィーは分かってない……」
「はい?」
「フィーは今までの夜会でどれだけの男を虜にして来たか全く分かってない!!」
「え?」

  むしろ私は、殿下が何を言ってるか分からない。

「俺がどれだけ牽制してきたと思ってるんだ!?  フィーの社交界デビューの後に公爵にあんな事を頼んだのも、あのままじゃ、沢山の縁談が舞い込んで早々に誰かと婚約してしまうと思ったからだ!」
「は、はぁ……」

  殿下の勢いに圧倒されてしまう。
  そう言えば私に来る縁談は殿下が握り潰してたとか言ってた……わね。

「俺がいない間に、ニコラスが割り込んできた事はもちろん面白くなかったが、破談にさせる事は決めていたから、むしろ虫除けとして働いて貰えて助かったと思ってたくらいなんだぞ!」
「……ん?」

  破談にさせると決めていた?
  虫除け?

「あぁ、俺は、帰国したら何がなんでもニコラスからフィーを奪うって決めてたからな。せいぜいニコラスにはそれまでの虫除けになってもらおうかと。さすがに王子の婚約者を堂々と口説く男は、そうそういないだろうから」

  殿下はニッコリ笑って言った。
  私が、何も言えず口をパクパクさせていると、殿下は面白そうな顔をしてさらに話を続ける。

「ちゃんと言ってただろう?  俺は諦めの悪い男だって」
「えっ?  ……あ!」

  確かに、留学するという話を聞かされた時に言っていた気がする。

「あの時は、早く帰国してフィーに求婚するため。ニコラスに婚約者の座を取られてからは、ニコラスからフィーを取り戻すため。……俺はフィーの事に関しては何一つ諦められないみたいだ」

  本当にこの人は。言葉にならない想いが私の胸に込み上げてくる。

「あの、本当にフリードは…………私の事を好きすぎると思います……」

  自分でこんな事を口にするのは、自意識過剰かな?  と少し抵抗があったけど、言わずにはいられなかった。

「うん。俺もそう思う」

  なのに殿下はあっさりと認めた。こうもあっさり認められてしまうと自意識過剰でもなかったのかもしれないなんて思ってしまう。

「ミミズのイタズラを仕掛けた時の反応が印象深かったのもあるけど、その前から……最初の挨拶の時から俺はフィーに見惚れてた。あの一瞬で俺はフィーの虜になったんだ」
「いや、虜って……大袈裟です」

  あの時は挨拶しただけですよ!?  しかも、渋々!

「大袈裟じゃないぞ?  フィーに次に会う時は、カッコよくなった俺を見てもらいたい一心であの日から俺は変わったから」
「えっ」

  そう言われて思い出した……確かに、ニコラス殿下もそんな事言ってたような気がする。兄上は私に会ってから変わった!  とか何とか。

「でも!  まさか!  その後、7年間も会えないとは思わなかった……」
「うっ!」
「8歳の少女だったフィーが、15歳の女性となって目の前に現れた時の衝撃は……言葉に出来ない……想像以上だった」

  殿下は色々思い出したのか、顔を手で覆う。
  その隙間から見える顔がほんのり赤いのは気のせいではないと思う。

「私は、再会してからはフリードにドキドキさせられっぱなしでしたよ?」

  私が拗ねたような声を出すと、殿下は手を顔から離して苦笑する。

「ハハッ!  そりゃそうだ。これでも一生懸命口説いてたんだから。むしろ、ドキドキしてくれてて安心した。フィーは鈍すぎて全部流されてる気がしてたからな」
「むぅ……」
「なんか話がズレたけどな、フィーは魅力的なんだよ。頼むからもう少し自覚してくれ」
「わ、分かりました……」

  正直、よく分かっていないけどそう返事をしておかないと怖いので素直に答えておいた。
  でも、ジトっとした目で見られてるから、多分、分かっていないのはバレバレだと思うけれど。

「それから……」

  口調が変わったので、真面目な話かな?  と思い顔をあげた。

「俺達の婚約発表は、来月のフィーの学院の卒業パーティーで行うと決まった」
「へ?  卒業パーティーでですか?」
「うん。本当は王宮主催の夜会とか開ければ良かったけど、今はニコラスの事もあるからさすがに出来ないからな」

  王族が不祥事起こしてるのに、のんきに夜会とか開催してる場合じゃないわよね。

「だが、さすがにこれ以上公表を延ばすのもって事でそこにねじ込んだ」
「だからって卒業パーティーにねじ込むとは」
「まぁ、フィーが今年の卒業生だから認めて貰えたようなものだよ。それに……」
「それに?」
「フィー、卒業生代表だろう?」
「……知って!?」
「パーティーで、卒業生代表が王族との婚約発表なんていい宣伝になる!  って学院側は大盛り上がりだったぞ」
「えーー……」

  それでいいのですか!?  学院長!!  と声を大にして言いたい。

「俺は公表出来ればどんな場でも良かったけど、フィーの卒業パーティーに顔出せるのは嬉しいよ?」

  殿下は嬉しそうに言うから、私の心もじんわりと温かい気持ちになった。

「俺がエスコート出来る。ドレスを贈ったかいがあった」
「あ……そうでした!  今回もありがとうございます」

  卒業パーティー用に殿下からドレスを贈られたのは数日前の事だ。
  今回も殿下の目の色の青をベースにしていて、殿下の想いが溢れまくっている!  
  と、サラは言っていたっけ。
  殿下の瞳の色のドレスを纏って、殿下にエスコートされる。
  確かに婚約発表の場としてはいいのかもしれない。
  ちょっと公私混同感はあるけれど……


  だけど、卒業パーティーか……と思った。
  小説のストーリーでは、“悪役令嬢スフィア”が婚約破棄と断罪を言い渡される、まさにクライマックスの部分だった卒業パーティー。
  まさか、それが私の婚約発表の場になるとは思いもしなかった。
  本当に、ストーリーは変わったのだなと思うと非常に感慨深いものがある。
  作られた物語ではなく……ここで生きている自分の物語を歩んでるのだと改めて実感した。


「あとは、シーギス侯爵の事を何とかしないといけないんだが……」

  殿下が、苦々しい顔をする。

「他に証拠が出ないのですか?」
「うん、中々巧妙に隠してる。全然、尻尾を出さない」

  証拠集めは難航しているようだ。
  あの紙を読まなかったら……読める人間がいなかったら関与している事さえ気付かれなかった人だ。かなりうまく隠しているのだろう。

「フィーは、あれから特に報告は受けてないけど、シーギス侯爵令嬢からの攻撃は大丈夫なのか?」
「あー……小さい嫌がらせは無くはないですけど、あの時のように怪我するような事はありません」
「……小さい嫌がらせはあるのか……くれぐれも気を付けてくれ。婚約発表が迫ってる事から、また強行手段に出るかもしれない」
「……!  そうですね、分かりました。気をつけます」



  卒業。そして婚約発表は来月。
  無事にその日を迎えられるよう私は願うばかり────

  だけど、そういう運命なのか……やっぱりこの世界はそう甘くないんだなって私は思い知らされる事になる。

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