【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

文字の大きさ
上 下
33 / 43
第3章

4. 物語は終わったはずなのに

しおりを挟む



「きゃーー!!  スフィア様とミレーナ様がぁぁぁーーーー」


  女生徒の叫び声に、周囲にいた人達が何事かと集まってくる。

  今、私とシーギス侯爵令嬢……ミレーナ嬢は階段の下にいる。
  いや……正確には倒れている。
  
  何故なら、二人揃って階段から落下したから。

  階段ですれ違った際に、突然ミレーナ嬢に腕を引っ張られてそのまま同時に二人で落下した。

「ひ、酷いですわ、スフィア様……」

  先に起き上がったミレーナ嬢が涙を流しながら訴えてきた。
  集まって来ていた周りの野次馬も、その言葉に騒然となる。
  もちろん、ミレーナ嬢は全てわざとなのだろう。
  集まっている人達に聞かせる為か大袈裟なくらい声が大きかった。

「ミレーナ!?  大丈夫!!?」

  その辺で待機していたのだろうか。都合よく駆け寄ってくるミレーナ嬢の友人。

「ル、ルーラ、私なら大丈夫よ……」
「スフィア様!  何故、ミレーナを階段から突き飛ばしたんですか!?」
「ルーラ、や、やめて……スフィア様だって一緒に落下してしまったのよ、だから、ね?」
「まぁぁぁ! ミレーナったら!  スフィア様を庇うの!?  貴女って人は優しすぎるわっ!!」

  二人の演技は随分とのりに乗っている。

「いいのよ……わたくしが悪いのですもの……ほら今、わたくしがフリード殿下と仲良くさせていただいてるから……スフィア様はきっと私の存在が面白くなかったのでしょう……」
「まぁぁぁ!  スフィア様!  ニコラス殿下との婚約がダメになったからって今度はフリード殿下を狙ってるんですの!?  そんなにも王家に嫁ぎたいのですか!?」

  階段落ちの罪を私に着せながら、さり気なく殿下との仲をアピールして来た……
  本当になんて人なの。シーギス侯爵令嬢、ミレーナ。
  殿下が警戒していた意味が分かった。

  そしてルーラ嬢も大袈裟なくらいのオーバーリアクションだった。

  実はこの手の嫌がらせ。今日が初めてでは無い。
  さすがにここまで危険なのは初めてだけれども。
  手を変え、趣向を変え、毎回被害者になるミレーナ嬢は、ことある事にその犯人を私に仕立てあげながら自分とフリード殿下の親密さを強調していく。

「勝手に話を決めつけないでいただけますか?  そして私はミレーナ様を突き落としてなどいません!」
「まぁぁ!  そんな話、誰が信じると思ってるんですか?  スフィア様。あぁ……本当に強欲な方!  ミレーナ、大丈夫?  医務室に行きましょう!」

  ミレーナ嬢の友人、ルーラ嬢がミレーナ嬢を支えてその場から去っていく。
  この言葉を合図に、周りの野次馬も解散となった。

  周囲の冷たい呆れたような視線が私に突き刺さってきてとても痛い。
  毎回、反論は試みてるけど、多分私の言い分を信じてる人の方が少ない。
  今更ながらセレン嬢の流す噂を放置していた事を後悔した。
  もちろん自業自得なんだけど。


「…………」


  そして、私もいつまでも倒れ込んでる場合ではない。
  さっさと起き上がって、この場から離れなくては。
  そう思って立ち上がろうとしたけれど、

  ズキンッ

「……っ!」

  足に鋭い痛みが走った。どうやら落下時に捻ってしまったようだ。

  ミレーナ嬢は、自分も一緒に落下するからか階段の低めの位置から仕掛けてきたけれど、さすがに私は無傷とはいかなかった。
  落ちるつもりでいるミレーナ嬢は受身を取るだろうけど、落とされる側は受身なんてとっていないのだから。

「しかし……階段落ちイベントが起こるなんて」

  悪役令嬢の出てくるゲームやら物語の中では定番とも言える階段落ちイベントは、あの小説の中でも起きる。
  “悪役令嬢スフィア”が“ヒロインのセレン”にも行ったイジメの1つだった。
  危険性が高いからか物語の終盤で発生し、この事件によってとうとうニコラス殿下の堪忍袋の緒が切れ、悪役令嬢スフィアの断罪へと向かうきっかけになる重要なイベントなのだけど。
  まさか物語が終わった今、しかも自分がやられる側で起きるとは夢にも思わなかった。

「うーん、立てるかな……?」

  足はズキズキ痛むけど、何とか立てそうだ。どうにか足を引き摺りながら教室に向かう。
  本当は医務室に行きたいけれど、今はミレーナ嬢がいるので行けない。

  今日は、リリアとロベルトが休みで良かった。
  二人がいたら巻き込んでしまっていたかもしれないもの。それだけが救いだった。



◇◇◇



  ……あぁ、困ったわ。
  目の前のフリード殿下の笑顔が怖い。

  王宮に着くなり、何故か今日に限ってフリード殿下が私を待ち構えていて、「どうしたの?」と聞く間もなく馬車を降りたら有無を言わさず横抱きにされて、殿下の執務室に連れて行かれた。
  ソファーに降ろされたと思ったら、殿下は「ここで待ってろ!  絶対に動くなっ!」と声をかけ部屋を出て行ってしまい、戻ってきた時は王宮の医師を連れて来てくれた。
  足を見せるよう言われ捻った足の手当てが行われ、殿下は今、私の向かい側で怒りのオーラを発している所だ。


「…………フリード。あの……」


  このピリピリした空気に耐えられず、おそるおそる声をかけた。
  それに、どうしても聞きたい。いや、聞かなくてはと思う。

  ──どうして私が足を怪我した事を知ってるの?

「……フィーの足の怪我の事か?」

   私はコクコクと頷く。

「どうして私が足を怪我した事を知ってるのです……?」
「あぁ。どうしても何も……今、シーギス侯爵令嬢監視をつけてるからな。フィーがここに来る前に報告があった」
「監視!?」
「親子共々、色々企んでるようなんでね」
「そうでしたか……」

  あの自称密偵さん、みたいな人達が暗躍しているという事かしら。
  ……って言うか、にもって何?   
  まさか……私にも……?  殿下ならしてておかしくないわね。

「…………大丈夫か?」

  殿下はさっきまでは怒りのオーラを振り撒いていたのに、今はとても辛そうな顔を私に向けている。胸がキュッと痛んだ。
  それだけ心配かけたという事だから。

「ご、ごめんなさい……気をつけるように言われていたのに」
「……本当にな。事故の話を聞いて心臓が止まるかと思った。さっきまでは説教の1つでもしたくなるくらいの気持ちだったが……」

  殿下はそこで言葉を切って、手を伸ばしてそっと私の頬に触れる。

「フィーの顔を見たらダメだな。怒るどころか心配の気持ちの方が強い。側で守れなかった自分が歯痒いよ」
「フリード……」

  殿下の想いに胸が締めつけられる。

「学院内に護衛をつけられないのが本当に辛い……」
「でも、外では守ってくださっているではありませんか」

  学院内では、王族以外は護衛を付ける事が出来ない。
  でも、学院の外に出た時はこっそり王宮の護衛を付けてくれている事を私は知っている。
  もともとの公爵家の護衛もいるから、私はかなり守られていると言っていいだろう。

「それでも、だ。学院の中でフィーを守れないのは辛いんだよ」
「心配かけて、本当にごめんなさい……」

  私は項垂れる。

「うん。俺の心臓を止めたくなかったら、今後はとにかく気を付けてくれ」
「……はい」

  自分の事以上に私の事を気遣うこの人に、これ以上心配かけるわけにはいかない。
  私は、しっかりと胸にそう刻み込んだ。

 
  コンコン


「申し訳ございません、殿下、今よろしいですか?」

  扉をノックする音がした。

「入れ」

  私の頬に触れていた手を戻し、殿下は入室を許可する返事を出した。
  そうだった。ここは殿下の執務室だった……!
  つい甘い雰囲気になる所だったわ!!

「失礼します、スフィア様、お邪魔して申し訳ございません。……殿下こちらが押収した資料なのですが、やはり解読は……」

  そう言いながら入室して来たのは、殿下の側近であるキース様。リリアの兄だ。

「やはり、難しい……か。これが解読出来れば更なる証拠になるかと思ったんだが……」

  殿下は何やら悔しそうな顔をしている。
  この話……私が聞いても良い話なのかしら?

「あ、あの殿下……お忙しい様ですし、私は今日はこれで……あっ」 

  そう言って私は立ち上がろうとするも、捻った足の痛みでよろけてしまう。

「!!  大丈夫か!?」

  慌てて殿下が抱きとめてくれたので、幸い倒れずにはすんだ。
  けれどその拍子に、キース様から渡されていた資料らしきものがバラバラと床に散らばってしまった。

「す、すみません……!!」
「いや、気にするな。こっちは大丈夫だから」

  そう言って殿下が拾い集めている資料の中身が、ちょうどチラリと見えてしまい、私は思わず息をのんだ。

「……っ!  そ、それ!」

  私の声に気付いた殿下が、「ん?」という顔をした後、「これか?」と言ってその資料を見せてくれた。
  私の顔色が変わった事に気付いたのだろう。

「フィー?」
「スフィア様?」

  殿下とキース様が、怪訝そうな顔で私を見る。

「……っ」

  今、キース様が持ってきて、殿下に手渡した資料。
  それはどこからどう見ても私が以前拾った、日本語で書かれセレン嬢が持っていた、あの時の計画書だった。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……? 嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して── さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。 勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】夢見る転生令嬢は前世の彼に恋をする

かほなみり
恋愛
田舎の領地で暮らす子爵令嬢ユフィール。ユフィールには十八歳の頃から、アレクという歳下の婚約者がいた。七年前に一度顔を合わせたきりのアレクとは、手紙のやりとりで穏やかに交流を深めてきた。そんな彼から、騎士学校を卒業し成人を祝う祝賀会が催されるから参加してほしいとの招待を受け、久し振りに王都へとやってきたユフィール。アレクに会えることを楽しみにしていたユフィールは、ふらりと立ち寄った本屋で偶然手にした恋愛小説を見て、溢れるように自分の前世を思い出す。 高校教師を夢見た自分、恋愛小説が心の拠り所だった日々。その中で出会った、あの背の高いいつも笑顔の彼……。それ以来、毎晩のように夢で見る彼の姿に惹かれ始めるユフィール。前世の彼に会えるわけがないとわかっていても、その思いは強くなっていく。こんな気持を抱えてアレクと婚約を続けてもいいのか悩むユフィール。それでなくとも、自分はアレクよりも七つも歳上なのだから。 そんなユフィールの気持ちを知りつつも、アレクは深い愛情でユフィールを包み込む。「僕がなぜあなたを逃さないのか、知りたくないですか?」 歳上の自分に引け目を感じ自信のないヒロインと、やっと手に入れたヒロインを絶対に逃さない歳下執着ヒーローの、転生やり直し恋愛物語。途中シリアス展開ですが、もちろんハッピーエンドです。 ※作品タイトルを変更しました

処理中です...