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第3章
1. ようやく気付きました
しおりを挟む「お嬢様~お待ちのものですよ~」
サラが嬉しそうに手紙を持ってやって来た。
「お、お待ちって! 私は別に……!」
「待っていたでしょう? だってもうあの頃とは違うんですから!」
焦る私を見てサラが嬉しそうに笑いながら言った。
フリード殿下と想いを通じ合わせたあの日。
殿下と私がこれから婚約する事は、まだ世間には披露する事は出来ないけれど、公爵家の入口であんな話をしたものだから、我が家の使用人達の中では誰もが知っている話となっていた。
皆、信頼出来る人達で口も固いので、時が来るまでは各自胸の中に仕舞っていてくれそうだ。
それよりも、皆の視線や少し聞こえて来た言葉が「やっと……」「長かったー」「安心した」が多かったのが少し気になったけれど。
中でもサラは、「やったわ! ついに、推しが!」と小躍りしていて誰よりも嬉しそうだった。
フリード殿下は忙しいので、中々会うことは出来ずにいるけれど、留学前の日々に戻ったように、お花と手紙を定期的にまた贈ってくれている。
手紙の内容は、声に出すのも恥ずかしくなるほど愛のこもったラブレターに変わったけれど。
そんな手紙と共に届いた今日のお花は、赤のアネモネだ。
「……ふふ。お花が変わられましたね!」
サラが花を見て嬉しそうに笑った。
「……? どういう意味?」
「あぁ、お嬢様はいまだに気付いていらっしゃらなかったのですね!?」
「気付く……?」
サラは、生あたたか~い目で私を見た。
「お嬢様、留学前の殿下から貰ったお花を覚えてますか?」
「え? えぇ、押し花にもしてあるし……えっと、黄色の薔薇、ペチュニア、ロベリア、パンジー、サンタビリア、リナリア……それから……」
「あーー、それくらいで大丈夫です! では、お嬢様。これらの花達の花言葉を知っていますか?」
「花言葉?」
私が首を傾げると、サラは得意そうな顔で言った。
「君のすべてが可憐、君といると心が和む、いつも可愛い、わたしの胸はあなたの事でいっぱい、私を見つめて…………そして、この恋に気付いて……ですよ」
「……っ!?」
「さすがに、もうお気付きになられましたよね?」
サラはニッコリと笑う。
「殿下は、お嬢様への想いをお花に託してたんですよ? …………片想いの花ばかりでした」
「っ!」
知らなかった!
と言うよりも。全然、気付かなかった……フリード殿下は、私を想って花を選んで贈ってくれてたんだ。適当に目についた花を贈ってくれていたわけじゃなかったんだ。
「そして今日頂いた、赤のアネモネは、君を愛す…………片想いではなくなりましたね!」
「あ……」
「本当に良かったです! 実は私、殿下はこのまま片想いの花を極めちゃうのかと思って心配してましたから!」
「え!」
サラはものすごーくいい笑顔で……なかなかシャレにならない事を言った。
だけど殿下は、あの頃から出来る限り一生懸命想いを伝えてくれようとしていたのね?
改めてあの頃の自分の鈍さ加減に呆れてしまったけど、
私の胸の中にはじんわりとした温かいものが広がっていった。
「サラ。今日のお花も……押し花にして残すわ」
「それがいいと思います!」
「あと……私も『あなたを愛してます』ってお花を贈りたいわ。我が家の庭にあるかしら?」
サラはニッコリ微笑んだ。
「もちろんです!! ありますよ! 殿下、喜びますね!!」
今までフリード殿下がくれた分には足りないかもしれないけど、私も負けないくらい殿下に私の想いを届けたい。
私は、チラリと再び腕に着けたブレスレットを見る。
金と青の石を銀色のチェーンで繋げたブレスレット。
ずっとしまい込んでいたブレスレットを私は再び腕に着けるようになった。
───ん?
「ねぇ、サラ。もしかしてこのブレスレットって……」
私の言葉にサラは苦笑いした。
「…………こちらも、やーっとお気付きになられたのですね!?」
「これ、殿下の髪の色と瞳の色……それを繋いでるのは私の髪色?」
「ふふふ! 独占欲、丸出しですよねーー!」
「っっ! ねぇ……私、すごく殿下に想われてたのね?」
その事にようやく気付いて今更ながら、照れてしまう。
「そうですよ! もうお嬢様くらいですよ、欠片も気付いてなかったのは」
「えっ!? そうなの?」
「殿下のお気持ちは周囲にダダ漏れでしたよ。隠そうともしていなかったみたいですし」
「えっと、つまり…………私ってかなり鈍い?」
サラは神妙な顔をしてコクリと頷く。
「大丈夫です! 殿下はお嬢様のそんな所も大好きですから!」
「えぇ!? いや、そんな事は無いでしょう?」
私は慌てて首を振る。さすがにそこは呆れてるんじゃないかな。
「いいえ! そんな事あるんですよ。殿下のお嬢様への愛は重……いえ、絶対幸せになってくださいね! お嬢様」
「……? サラ、ありがとう」
うん? 何かサラは今、変な事を言いかけなかった? 気の所為?
けど、ようやくあの求婚を受けた日の使用人の皆の視線の意味が分かったわ。サラだけでなく、他の皆も殿下の気持ちに気付いていたからなのね……
──フリード殿下と幸せに。
「……」
サラのその言葉で、私はこれからもフリード殿下と一緒にいる未来を夢見ていいのだと思える事が出来て嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
◇◇◇
色々あった長期休暇も終わり、今日から学院が始まる。
登校すると、私の目の前でリリアとロベルトがイチャイチャしていた。
…………本人達はイチャついてる自覚はなさそうだけど、あれはどこからどう見てもイチャイチャしている。
ただ、二人の関係はまだ婚約者同士に戻ったとは聞いていない。
両家の承諾も必要だし、何よりロベルトにはあの時、リリアとの婚約解消後に別の婚約者を宛てがわれる事になっていたから、そっちの処理もあるのかもしれない。
この事件に振り回された人間は多い。改めてそう思った。
「相変わらずのお二人さんね! でも変わらず仲良しで良かったわ!」
イチャイチャ中の二人を邪魔するのには抵抗があったけれど、後ろから声をかける事にした。
「スフィア!!」
私の声にリリアが嬉しそうに振り返った。
「リリア、久しぶり! そして、ありがとう!! ……ロベルトも」
リリアが抱き着いてきてくれたので、私も抱き締め返す。
2人とも私の為に、色々動いてくれたのだとフリード殿下から聞いていた。
結局、今日までお礼を言うことが出来なかったのが本当に申し訳ない。
「記憶も戻ったと聞いたわ。本当に良かったわ」
「スフィアのおかげよ!」
「なんで私が?」
「スフィアが、捕まった話の衝撃で思い出したようなものなんだよ」
ロベルトが呆れ混じりの声で説明してくれたけど、それは初耳だ。
「えっ! そうだったの? ……それは、その、なんと言うか……」
「そんな事より!! スフィアが無事で本当に良かった!!」
「それこそ、リリア達のおかげでしょ? ……本当にありがとう」
そう言って私は微笑んだ。
本当に感謝しているの。
私はずっと国外追放されるつもりで過ごしてきたけれど、もし現実に国外追放になっていたら、今目の前にいる二人の事も悲しませていたんだなって改めて思った。
(私、自分の事ばっかりだったな……セレン嬢の事言えないや)
家族も、屋敷の使用人も、リリア達も……そしてフリード殿下も。
私の事を大切に思ってくれている人達の気持ちを全て蔑ろにする所だった。
……助けてくれた皆への感謝と、戻ってこれて良かったなという思いが込み上げて来て、ちょっと泣きそうになった。
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