24 / 43
第2章
side フリード⑤
しおりを挟む地下牢にいるフィーの元を訪れた後、俺は陛下……父上と母上の元に向かった。
父上にだけは、近々秘密裏に帰国する事は伝えていたが、詳しい日時は伏せたままだったので、帰国した事は知らなかったようだ。
「帰国していたのか……」
「挨拶が遅くなりましたが、明け方こちらに着きました」
「……そうか」
父上がどこか気まずそうな顔をしているのは、正直、俺に合わせる顔が無いとでも思っているのかもしれない。正直、俺も文句は沢山あるからな。
「父上」
「……」
「俺にはあんな条件を出しておきながら、スフィアとニコラスを婚約させた件で言いたい事は山ほどありますが、今はそれよりも……」
「昨夜の夜会の事か?」
俺は頷く。
ニコラスがしでかした事は当然二人の耳にも入っていた。
ニコラスが男爵令嬢に入れあげてるのも知っていただろうが、まさか、あんな事までしでかすとは思っていなかったのだろう。
二人はどこか疲れた顔をしていた。
「俺は、ニコラスを許さない」
「……フリード」
「向こうでも報告は受けていました。ニコラスの……特にここ半年の行動、言動。そして昨夜起こした出来事は、もはや王族として相応しいものでは無い」
俺のその言葉に父上にはため息を一つ吐きながら言った。
「では、ニコラスが主張した、スフィア嬢の罪はどうなるんだ?」
「全てニコラス達のでっちあげです」
「そこまで言い切るならば証拠があるのか? ニコラスはあの場で証人も用意していたようだが」
「勿論あります。なので、ニコラスの企んだ罪も同時に暴かせてもらいます」
「……」
俺はフィーとの個人的な連絡が途絶えたこの1年間、無駄に監視をつけてた訳じゃない。フィーの無実の証拠はたくさんある。
無実の罪で一人の令嬢を地下牢に繋いだニコラス達を断罪すると俺が告げた時、母上は少し動揺を見せたが、最終的に二人は静かに頷いた。
そしてこのニコラスの件に関しては、俺に全て一任するよう話をつけた。
「……父上。いや、陛下。この件を片付ける事が出来ましたら許可を求めます」
「許可?」
「俺は約束通り、カーチェラ国との外交を王女との婚姻以外の方法で深めて帰国しました。これで約束は果たせたはずです。ですから、スフィア・ランバルド公爵令嬢への求婚の許可を」
──そう。ずっと許されなかった、フィーへの求婚の許可を今度こそ。
「……そんなに。そこまでするほどお前はスフィア嬢の事が好きなのか?」
「好きです」
俺が間髪入れずに即答した事に父上は、少し驚きの様子を見せたが、やがて観念したように口を開いた。
「求婚の許可は与える……が、王命で婚約者に指名する事は出来ない。既にニコラスの件で振り回してしまっているからな。むしろ王家から解放してあげるべきではと思ってる」
「……分かっています。それでも俺は彼女を望んでいます」
「ランバルド公爵、そして当のスフィア嬢が拒否した場合はキッパリ諦められるか?」
「無理ですね。全力で口説き落とします」
「……」
俺のその答えに父上は苦虫を噛み潰したような表情になった。
自分勝手なのは分かってるさ。
それでも、俺はフィーが好きなんだ。彼女じゃなきゃダメなんだ。
「その執着心は誰に似たんだ……」
「父上じゃないですか? さて、俺はこれで失礼してスフィアを助ける為に必要な証拠品を取りに行って来ます」
「おい! 待てフリード。本当にランバルド公爵家側が拒否した場合は王命使ってでも止める事になる。無理矢理は許さん。それだけは忘れるな」
「……」
「それと、この後だが、スフィア嬢への処分をどうするか大臣達の間での話し合いが行われる事になるだろう。その処分決定までにお前が間に合わなければー……」
「絶対に間に合わせます」
俺はキッパリとそう言い切った。
絶対に間に合わせてみせる!
そして、俺は急いでランバルド公爵家に向かう。
フィーが言っていた箱を取りに行く為だ。
その中に、ニコラス達を追い詰める為の証拠品が入っている。
フィーをあそこから助け出すには、それらも使ってニコラス達を追い詰めなくてはいけない。
「フ、フリード殿下!?」
ランバルド公爵家も混乱していた。
「帰国されていたのですか!?」
「あぁ、今朝ほどな。それよりも、公爵」
「……スフィアの事でしょうか? ………申し訳ございません、殿下の想いを知りながらニコラス殿下と婚約させてしまいました。そして今回……このような……事に……」
「分かっている。だが、今はその話は後だ。スフィアを助ける為に、スフィアの部屋に用がある。誰か詳しい者はいないか?」
「はっ! ……スフィアの部屋に、ですか? それならば……サラ!」
「は、はい!」
サラ、と呼ばれた侍女がおそるおそる前に進み出てくる。
「スフィア付きの侍女か? なら、頼みがある。スフィアには、何か大事なものを入れている箱があるだろう? 今、それが必要なんだ。持ってきてくれないか?」
「えっ? あ……は、はい! 分かりました! 取ってきます」
侍女はスフィアの部屋へと走って行った。
「こ、こちらがその箱です」
「これが?」
侍女が持ってきたのは、これといった特徴のない箱だった。
「は、はい。お嬢様はこの中に、大事な物を入れて保管していました」
「そうか……」
フィーの大事な物。何だか心の中を覗くようで申し訳ない気持ちになるが、この中に証拠品が入っている以上、仕方ない。
そう思って開けようとするがー……
「恐れながら、殿下。その箱には鍵がかかっているのです」
「鍵?」
「はい……そしてその鍵はここには無く……お嬢様が持っているのではないかと」
侍女が申し訳なさそうに言う。
そう言えば、この箱の話をした時に、「鍵……」とフィーは言いかけていた気がする。
しまった! ……ちゃんと最後まで話を聞くべきだった!
では、鍵はどこにあるんだ?
地下牢に連行されて、着替えさせられたフィーの手元にはおそらく無い。
見つかったら取り上げられているはずだ。だから、もし取り上げられていたらあの時そう言っただろう。
そうでないという事は……
「どこかに隠した? もしくは……誰かに……託した?」
1つの可能性に思い当たり、俺は別の目的地を頭に思い浮かべる。
「フリード殿下……」
「公爵。慌ただしくてすまないが、今はこれで失礼する!」
「は、はい」
「スフィアは無実だ! だから、絶対に助けるから待っていて欲しい……それと、俺の気持ちは変わっていない。全てが片付いたら、今度こそ正式な話をさせてくれ。その時は、承諾の返事を貰えると嬉しいのだが」
「! ……殿下。承知しました。お待ちしております……娘を……スフィアをよろしくお願いします……」
ランバルド公爵はそう言って何度も頭を下げた。
「あぁ」
俺は急いで次の目的地へと向かう。
おそらく、鍵のある場所──スフィアが鍵を託したであろう人物に会うために──
49
お気に入りに追加
3,253
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】夢見る転生令嬢は前世の彼に恋をする
かほなみり
恋愛
田舎の領地で暮らす子爵令嬢ユフィール。ユフィールには十八歳の頃から、アレクという歳下の婚約者がいた。七年前に一度顔を合わせたきりのアレクとは、手紙のやりとりで穏やかに交流を深めてきた。そんな彼から、騎士学校を卒業し成人を祝う祝賀会が催されるから参加してほしいとの招待を受け、久し振りに王都へとやってきたユフィール。アレクに会えることを楽しみにしていたユフィールは、ふらりと立ち寄った本屋で偶然手にした恋愛小説を見て、溢れるように自分の前世を思い出す。
高校教師を夢見た自分、恋愛小説が心の拠り所だった日々。その中で出会った、あの背の高いいつも笑顔の彼……。それ以来、毎晩のように夢で見る彼の姿に惹かれ始めるユフィール。前世の彼に会えるわけがないとわかっていても、その思いは強くなっていく。こんな気持を抱えてアレクと婚約を続けてもいいのか悩むユフィール。それでなくとも、自分はアレクよりも七つも歳上なのだから。
そんなユフィールの気持ちを知りつつも、アレクは深い愛情でユフィールを包み込む。「僕がなぜあなたを逃さないのか、知りたくないですか?」
歳上の自分に引け目を感じ自信のないヒロインと、やっと手に入れたヒロインを絶対に逃さない歳下執着ヒーローの、転生やり直し恋愛物語。途中シリアス展開ですが、もちろんハッピーエンドです。
※作品タイトルを変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる