【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

文字の大きさ
上 下
20 / 43
第2章

7. 狂い出した運命

しおりを挟む

  何がなんだかよく分からないまま、重大な証拠の品を手にしてしまい、どうにか屋敷に帰り着いた私は、これらの保管場所を考える。

「…………やっぱり、ここしかないわよね」

  机の引き出しを開け、箱を取り出し鍵を開けた。
  フリード殿下との手紙のやり取りを止めてからは、入れる物がなかったから、この箱の中に物を入れるのは久しぶりだった。
  箱を開けて中に入っている物を見る。
  ノートに、フリード殿下とのやり取りした手紙の束と押し花……そして、

「ブレスレット……」

  あの日、ニコラス殿下の婚約者となった日、ずっと肌身離さず着けていたブレスレットを外してこの中にしまいこんだ。 
  フリード殿下を思い起こさせる物は全て封印しようと思っての事だった。
  さすがに、ドレスや装飾品はこの中にしまえなかったけど、クローゼットの目につかない奥深くに押し込んである。

「……フリード殿下」

  感傷に浸っている場合では無い。
  証拠品となる計画書と手紙の束をノートに挟み込み、再び箱に鍵をかけ引き出しに戻した。



◇◇◇




「婚約解消!?」

  その日の夜、お父様から聞かされた話に衝撃を受けた。

「ペレントン侯爵家の嫡男とミラバース伯爵家の令嬢の婚約が解消になりそうなんだ」

  ──リリアとロベルトが!?  何故、そんな事に……

「お父様、どうしてですか?  あの2人の婚約期間は長いと聞いてます……2人の仲も良好です!  何故ですか?」
「…………」

  お父様は、暫く沈黙した後、視線をあちこち泳がせながらも、とても言いにくそうに口を開いた。

「その、お前には言いづらい話なのだが……ニコラス殿下がリリア嬢を愛妾にすると言い出したからだ」
「……は?  リリアを愛妾に!?」

  意味が分からない。ニコラス殿下がどうしてリリアを愛妾に望むの?
  そもそもニコラス殿下にはセレン嬢がいるではないの。

「婚約者がそんな事を言い出してお前も混乱するとは思うが……そういう事だ」
「………………」

  王族に嫁ぐからにはそれは避けて通れない話だなんだよ、とかお父様は何やら言っていたけれど、これは違う。そういう事じゃない。絶対に違う……!

  そこで思い出したのは、顔色も悪く何かに怯えていたリリアの姿。


  まさか…………ニコラス殿下に何かされていた!?
  リリアに会わなくては!!

「っ!  お父様、ミラバース伯爵家を訪問する許可を下さい!!」

  私は、大声で叫んでいた。





  翌日、そんな私に対して更なる衝撃が襲う。

「……スフィア。リリア嬢が事故にあったらしい。だから今は訪問は控えて欲しいそうだ」
「事故!?」
「馬車に轢かれそうになって頭を打ったそうだ。命に別状は無いとの事だが今は目覚めていないらしい」
「……そんな!!」

  どうしてこんな事になったの。

「リリア……ロベルト……」

  羨ましいくらい仲睦まじい婚約者の二人。
  お互い凄く好き合ってるのは見てるこっちにも伝わってきて……学院を卒業したら結婚する筈だったのに。
  どうして……!!

  気付かないうちに、リリアを巻き込んでいたんだ……
  あの日、もっと話を聞けばよかった……あんなに様子がおかしかったのに。

  何も出来ない自分が悔しく、また許せなかった。






  そして事故の話を聞いてから3日後、ロベルトが屋敷を訪ねて来た。


「リリアは目を覚ましたよ。ただ……」
「ただ?」

  ロベルトは、疲れた顔をしていた。
  どうやら、リリアが目を覚ますまでずっと寝ずに傍についていたらしい。

「人に対する、記憶を失くしている……」
「えっ!?」
「自分の事や、家族……俺の事も、スフィアの事も忘れている」
「記憶……喪失……」
「医師の話では、強いショックがあって心を閉ざしたのではないか、と」
「……強いショック……」
「俺達の話は聞いてるか?」

  ロベルトは、悔しそうな顔をしていた。……婚約解消の話だろう。

「……聞いてるわ」

  リリアはその婚約解消の話がショックだったのか。
  それとも、あの様子がおかしかった事も絡んでいるのか。

  記憶の無いリリアに問いただす事は出来ない。

「……」
「……」

  私もロベルトもそれ以上話す事が無かった。

「……落ち着いたらでいい、1度リリアに会いに来てくれ」
「分かったわ。伯爵家に問題が無いのなら。教えてくれてありがとう……」
「……スフィア」
「何?」
「俺は諦めないよ」

  ロベルトの瞳には強い決意が現れていた。
  

  帰っていくロベルトを見送りながら思う。
  私は無力だわ。
  リリアとニコラス殿下の間に何かがあったのだろうとは思うけど、こうなってしまっては分からない……
  リリアは記憶を閉ざしてしまった。
  事故がきっかけとはいえ、記憶を閉ざしてしまいたいくらい辛い事があったのだろう……

  まさかこんな形でリリア達まで巻き込んでしまうなんて……

「リリア……」

  私は、とにかく今はリリアが早く元気になる事をひたすら願った。



◇◇◇



  公爵家ともなると、人付き合いは大切だ。
  私、個人としては夜会もパーティーも好きではないけれど、付き合いの為に参加しないといけない事も多い。

  本日参加した夜会の会場では、どこもロベルトとリリアの婚約解消の話でもちきりだった。
  ニコラス殿下が横槍を入れたが故の話だと言う事も広まっていた。

  おかげで、ニコラス殿下の婚約者である私に対しても視線が痛い。

『でも、ペレントン侯爵家の嫡男は、納得してないって話よ』
『まぁ!』
『今も、毎日ミラバース伯爵令嬢の元へ通ってるって!』
『領地に戻らずに?  今は休暇中でしょう?』
『愛なの?  愛されてるのね~』

  ロベルトは、領地に戻らずリリアに付きっきりらしい。

  “俺は諦めないよ”

  あの言葉通り、ロベルトはやれる事をやろうとしているに違いない。
  リリアの事故を受けて二人の婚約解消は現在保留になっていると聞いた。
  その間にロベルトは諦めずに走り回っている。

「私は諦めちゃったのにね……」

  小説のストーリーという運命に抗う事を。
  それを覆してでもフリード殿下の傍にいたいという気持ちを。






  そして、さらにそれから数日後、
  私の元に、夜会の招待状が届いた。

「……ニコラス殿下から?」

  セレン嬢が現れてからの半年の間で、私がニコラス殿下と共に夜会に出る事はパッタリと無くなっていた。
  なのに今回に限ってお誘い?
  おかしい……何か裏がある気がする……

  招待状と一緒に入っていたカードを読んでハッとした。


  “ドレスを贈る。君に似合う真っ赤なドレスを“


「えっ………まさか!  でも半年早い!」


  私が……小説の中の“悪役令嬢スフィア”が断罪を受ける事になる卒業パーティー。

  その日のスフィアの装いは、殿だった。
  そして、このカードに書かれている文面は、
  ニコラス殿下から、卒業パーティーに誘われた時に言われた言葉そのものだった。

  小説のストーリー上では、この時のニコラス殿下はすでに悪役令嬢スフィアを断罪すると決めている。
  そんな事を知らない悪役令嬢スフィアは、喜んで殿下から贈られたドレスを着てパーティーに参加するのだ。

  “ニコラス殿下は、やっぱりあんな子より私の方がいいのね!”

  と。
  浮かれてパーティーに現れた悪役令嬢スフィアに、ニコラス殿下は、婚約破棄を告げ、悪役令嬢スフィアの罪の証拠を並べ厳しく断罪する。
  そして……国外追放を言い渡されるのだ。


「もしかして、私はこの夜会で……断罪……されるの?」


  何故、半年も早まったのかは分からない。
  リリアとの事もそうだ。何故、愛妾などと言い出したのかも分からないまま。

「リリアの所に行かなくちゃ……」

  私は、首から下げている鍵型のペンダントをギュッと握りしめる。

「リリアの傍にはロベルトがいる。……きっと上手くやってくれる……」

  記憶は取り戻せていないだろうが、リリアに会わなくては。
  この鍵を託せるのは、リリアしかいない──

  私の事はどうなっても構わない。
  国外追放でいい。むしろ、それを望んでいる。

  だけど、フリード殿下の暗殺計画だけはそのままになんて出来ない。
  あの密偵と名乗っていた怪しい人の言う事を信じるのなら、フリード殿下はニコラス殿下の企みを知っている可能性が高い。
  ならば、あの密偵の人が言ったように、手に入れた証拠品が必要な時が必ず来るはずだ。
  それをリリアとロベルトに託す。

  もう残された時間が無さそうな私に出来るのは、それしかなかった。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……? 嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して── さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。 勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...