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第2章
side フリード②
しおりを挟む「どういう事なんだ!?」
俺は留学先のカーチェラ国の部屋で頭を抱えていた。
その原因は……
先日、スフィア……フィーから届いた手紙だ。
何度も何度も読み返したが文面は変わらない。
「もう手紙を書けない? 俺からの手紙も受け取れないって何だよ……!」
フィーに何があった?
俺は嫌われるような事をしてしまったのか?
考えても考えても心当たりがない。
留学して1年半。やっと外交手段の政策もまとまって形が見えてきた所だ。
あと残りの1年半をかけて磐石なものにすれば、俺はやっとフィーに求婚出来る!
それだけを思ってやって来たのに。
コンコンと扉のノックの音と共に側近が入室して来た。
その表情がどことなく硬い。
「ちょっと良いか? フリード。……心して聞いて欲しい事がある」
「……? 何だキース。俺は今、最高に機嫌が悪いぞ?」
一緒に留学してきた側近のミラバース伯爵家の嫡男キースは、学院時代からの友人だ。
俺が何のために留学しているかもよく知っている。
だから、言葉遣いも公の場以外では崩してもらっているのだが。
そんな友人キースが、酷く真剣な顔をして、心して話を聞けと言ってきた。
スフィアからの手紙で混乱している所に一体何の話があるというのか。
……嫌な予感しかしない。
俺の本能がそう告げている。
「……お前にとって、とてもとても悪い話だ。よく聞け。…………ランバルド公爵令嬢が婚約をした」
「………………は?」
聞き間違いか? ランバルド公爵令嬢ってフィーの事だろ?
フィーが婚約!?
嘘だろ? 何の冗談だよ……
俺は、自分の身体が震えているのを感じた。
「落ち着け! 聞き間違いじゃない。お前の最愛のスフィア嬢が婚約した。……相手はお前の弟、ニコラス殿下だ」
ガーンと頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
フィーが婚約……しかもその相手はニコラス?
どうしてだ? 何があった?
二人は今、学院の同級生だ。俺の知らない間の1年半に二人は心を通わせたとでも言うのか?
だから、フィーは俺に拒絶の手紙を送ってきたのか?
俺はあまりの混乱と悔しさで手に持っていたスフィアからの手紙を思わず、グシャリと握り潰していた。
「おい、フリード!! しっかりしろ!」
キースが俺の両肩を持って前後に揺らす。
「…………」
「大丈夫じゃないのは分かってるが、今は続きを聞いてくれ!」
続き? 続きって何だ? フィーとニコラスが仲睦まじく過ごしてる話なんて死んでも聞きたくないんだが。
「スフィア嬢とニコラス殿下の婚約は、大臣や有力貴族達が望み、陛下へと進言されたらしい。陛下もランバルド公爵もいい顔はしなかった。だが、そういった声が出ている以上、無視も出来ずスフィア嬢の意向を伺う事になった。そこで……」
「フィーが承諾の返事をしたのか……」
キースは無言で頷く。
何でだよ……! 俺は『待っていて欲しい』と手紙にも書いたじゃないか!
拒否の返事は無かったから、俺は心のどこかで、もしかしたらフィーも俺の事を……なんて期待してしまっていた。
直接言わなかったからか!? 俺の勘違いだったのか!?
だから学院に入学してからのこの1年半でニコラスとの距離が縮まってアイツに惚れたのか!?
色んな思いが頭の中を駆け巡ったが、キースは更に続けた。
そして、その内容には別の意味で衝撃を受けた。
「……スフィア嬢とニコラス殿下は、別にそこまで仲が良いとは言えない。ニコラス殿下の態度は、報告によるとあまり良い態度とは言えないようだしな」
「どういう意味だ?」
「ニコラス殿下のスフィア嬢への態度は、キツい物言いをするわ、睨むわ……と少なくとも好意を抱く人間にする態度とは言えない」
「……」
キースのその言葉に何だか嫌な予感がした。
「二人の接点となると、学院で同じクラス。そしてニコラス殿下が一方的にスフィア嬢に絡んではいたようではあるが、当のスフィア嬢は困っていたようだ」
「…………ニコラスが、フィーに絡んでた?」
初めて聞くその話に俺の心臓が嫌な音を立てた。
ニコラスの性格は俺が良く知っている。
ニコラスは嫌いな人間に自ら絡んでいくようなヤツでは無い。
むしろ、好意を抱く人間の側に近寄って行く傾向がある……
そして、そういう相手を前にする時のニコラスは素直になれず、変な意地を張るんだ。
「はは、嘘だろ?」
「おい、フリード? しっかりしろ!!」
──そうだった。俺達がフィーに初めて会ったあの日も、ニコラスも俺と同じでフィーに見惚れていたじゃないか……!
ずっとニコラスがどの婚約者候補の名前を聞いても頷かないのが不思議だった。
フィーの名前はニコラスの候補に入っていても、1度もアイツに伝えられていなかったんだ……俺が全力で阻止していたから。
ニコラスがいつも頷かなかったその理由は──まさか……
その考えに至った俺の顔色は更に悪くなっていただろう。
そんな俺の様子にキースが困っている。
「フリード……頼むから落ち着いてくれ。スフィア嬢が王宮に訪ねた日も二人は言い合いをしていたとの報告があがっている。……正直、上手くいく組み合わせには思えない」
「……………クソっ」
フィーを幸せにするのは俺だ。ニコラスじゃない。
今更、横からやって来て奪っていくなんて冗談じゃない!
「キース……予定を早めるぞ」
「は? 何だ、急に」
フィーとニコラスはまだ学生だ。婚約だけで今すぐ結婚は有り得ない。
しかし、このままでは卒業と同時に結婚となる可能性はとても高い。
俺の留学予定期間を終えてからの帰国ではもしかすると間に合わないかもしれない。
「あと1年の間に蹴りをつけて帰国する。俺は絶対にフィーとニコラスを結婚なんてさせない!」
「フリード!?」
「それまでは、せいぜいニコラスにはフィーの虫除けにでもなってて貰おう」
「お、おう……」
「それから、フィーには俺の“影”をつける」
「は? フリード、何言って……」
キースが困惑した顔を俺に向ける。
分かってるさ。
俺の婚約者でもない、ましてやニコラスの婚約者となってしまったフィーに俺の影をつけるのはおかしな話だ。有り得ないし許可されるものでも無い。これは俺の独断だ。
だが、形振り構ってなどいられない。
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そんな簡単に手を出しはしないだろう。
だが、念には念を入れてこっそりつけさせてもらう。
俺は決めた。
フィーの拒絶の手紙が、ニコラスと婚約したからなのか、婚約は関係なく単にフィーが俺を嫌いになったからなのかは分からない。
だが、そんな事俺には関係無い。
俺は、絶対にどんな事をしてもフィーを取り戻す。
「……言ったよな、フィー。……俺は諦めが悪いって」
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