【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

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第1章

9. もう二度と会えない?

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  それからの私は、フリード殿下に言われたから……だけではなく、何となく自分も他の男性と踊る気分にはならなかったので、お兄様と1度踊った後は他の人と踊る事もせずにお兄様と談笑して過ごしていた。

「お兄様、どうして今日はそんなにキョロキョロしているのです?」
「リストを作ろうかと思っていてね」
「はい?」

  どうしよう。お兄様の思考が理解出来ない。

「もちろん、スフィアに邪な視線を送ってるヤツらのリストだよ」
「……」 

  そんなもの作ってどうするの?  そう思ったけど口に出すのはやめた。なんだか聞くのが怖い。

「あぁ、その筆頭が来やがった」
「何言って……?」

  お兄様がそう小さな声で呟いたと思ったと同時に、後ろから聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
  
「スフィア」

  慌てて後ろを振り向くと、フリード殿下がこちらに近付いてくる所だった。
  隣にいたお兄様は「チッ……来やがった」と小さく舌打ちした。
  ……その態度、大丈夫なのだろうかと非常に心配になる。

「殿下……時間は大丈夫なのですか?」
「うん。むしろ待たせて悪かった」
「私は大丈夫ですが……」
「なら、あっちに行こうか。スフィアを借りるよ、ユーベル」
「…………………はい」

  お兄様はとんでもなく嫌そうな顔をして答えた。
  美しい顔が台無しだ。





  そうして私達はバルコニーへと向かって歩き出し、到着すると今日は少々肌寒いせいか他に人はいない。

「大丈夫?  寒くないか」
「大丈夫です」
「寒かったら言ってくれ。……あぁ、だけどやっとフィーと2人になれた!」
「2人って……」
「今日はフィーの隣にはユーベルがずっと張り付いてたからさ」

  そうなのだ。お兄様は私と離れるもんか!!  って顔をしてずーっと私の隣にいた。
  令嬢達が、チラチラとダンスを誘ってくれないかしら?  って秋波を送ってたけど、まさかの全て無視!  我が兄ながらどうかと思う。

「今頃、ユーベルは令嬢達に囲まれてるんじゃないのか?」

  殿下はクツクツと笑いながら言った。

「ですね。どうにかお嫁さんを見つけてくれるといいんですけど……」

  容姿端麗な25歳で独身で恋人のいない公爵家の跡取り、令嬢からすれば優良物件のはず。なのに婚約者がいない。
  昔、私を溺愛しすぎて振られていたのよね……。
  そろそろ、良い人を見つけて欲しいものだ。

「……それは難しいんじゃないか?  ユーベルのシスコンは有名だからな。さっきも俺の事睨んでただろう?」
「うっ!  兄が申し訳ございません……」

  社交界デビューのエスコートの件で、お兄様はフリード殿下を敵視している。
  どうやら殿下はそれを感じ取っていたらしい。

「構わないさ。それだけフィーが可愛いんだろ?  …………その気持ちは凄く分かるからな……」
「えっ?」
「……ゴホッ……気にするな」
「はぁ……」

  さっきのダンスの時といい、たまに小声で喋られるとよく聞き取れない。

  

「そういえば、フィーはもうすぐ学院に入学か?」
「はい、そうです。ニコラス殿下と同級生になりますね」
「あぁ、そうか。そうなるのか」
「殿下は卒業されるので、ちょうど入れ違いなんですよね……」
「そうだな」

  ちょっとだけ、一緒に通ってみたかった───なんて……何考えてるの、私!?
  そもそも学年が違うのだから、同時期に学院に通っていても接点なんて無かったでしょうし!
  なんて1人で焦っていると、

「フィーと通ってみたかったな」

  と私が考えていた事をすごく真面目な顔をして語るものだから、可笑しくて笑ってしまった。

「ふふふ。殿下は卒業後、公務に専念されるのですか?」

  私がそう問いかけると、殿下はちょっと困った顔をした。

「……その事でフィーに話がしたいと思って呼んだんだ」
「?」

  ──どういう事だろう?

「俺は、学院を卒業したら隣国のカーチェラに留学するんだ」
「えっ?」

  私は、驚いてうまく返事が出来なかった。
  フリード殿下が留学?
  ……私の知っているストーリーではフリード殿下は留学なんてしていなかった。

  私、こんな展開は知らない……!
  もしかして物語が変わってる?  この変化は何を意味しているのだろうか。


  そこまで考えた時、私の頭の中に記憶が流れ込んできた。

「!?」

  ──それは小説の中のワンシーンで……


『はぁ、私は兄上の婚約者が羨ましいですよ』
『どういう意味だ?  スフィア嬢と何かあったのか?』
『……何かあったも何も、そもそもスフィアは癇癪持ちなんですよ。それに比べて兄上の婚約者、カーチェラの王女は穏やかな性格な方ですからね……羨ましいです。兄上も私もお互い長いこと婚約してるのは同じなのにこうも違うなんて……』
『ニコラス……』


  ──そうだった!  思い出したわ。
  小説の中のフリード殿下には幼い頃から婚約者がいた。相手は隣国の王女さまだ。

  だけど今、この現実の世界であるフリード殿下に婚約者はいない。

  ならば……まさかフリード殿下の留学の目的は、遅くなったけれど物語通りに王女さまとの婚約を結ぶ為なんじゃ……

「…………」

  私はその事実に思い至り暫く呆然としてしまった。

「フィー?  どうした?」

  名前を呼ばれてハッと顔を上げる。

「え、あ……き、期間は……?」
「今の予定では、3年ほど。だから帰ってくるのはフィーやニコラスが学院を卒業する頃だな」
「!」

  そんなに長いの!?  せいぜい1年くらいかと思ったのに。

「それは……寂しく、なります……ね」

  私の言葉にフリード殿下は目を大きく見開いた後、フッと小さく笑った。

「……寂しいと思ってくれるんだ?」
「そ、それは、そうですよ!!」

  あれだけ、私の生活にグイグイ入ってきて何て事を言うの。

「……では、これから準備もあってお忙しくなるのですね」
「うん。さっきの挨拶でも話があったけど、正式に王太子にもなったしね」

  そうなのだ。先程の挨拶で正式に発表があったのだけど、フリード殿下は正式に王太子になられた。
  今までもすでに王太子としての扱いを受けていたけど、これで内外的にも正式に認められた形となる。
  ……これで、ますます遠い人になってしまった……
  そう思ったら、ますます胸がチクリと痛んだ気がした。

「……おめでとうございます。それでしたら、街へのお忍びでのお出かけは、もう難しそうですね」
「ごめん。また、誘うって言ったのにな。思ってたより忙しくて時間がとれないかもしれない」

  殿下は残念そうに言った。

「いえ、気にしないでください」

  そうは言ったものの、気持ちが沈んでいるのは何故だろう。
  ……私は、思ってたよりも殿下と出掛けるのを楽しみにしていたのかもしれない。

「フリード殿下、カーチェラでも元気にお過ごしくださいね」
「あぁ……フィーも……手紙を書くよ」
「えっ?  あ、ありがとうございます。でも無理しないでくださいね?」

  手紙を書くと言われて、寂しいという思いが少しだけ和らいだ気がした。

  直接、会えるのは今日が最後かもしれない。
  いくら手紙のやり取りを続けていたとしても、きっと次に会えるのは3年後。
  その時、フリード殿下はカーチェラの王女様と婚約してるのかな……

  そう考えると途端に胸がキュッと痛む。

  ──あれ?  ちょっと待って。それよりも……

  フリード殿下が戻ってくる頃には……物語は開始している。
  もし、私がこの後ニコラス殿下の婚約者となってしまい、ストーリー通りの展開に進んで断罪を受けて国外追放されたら……


  ───フリード殿下とはもう二度と会えない??


  その考えに至った時、何だか、足元が急にぐらついたような気分になった。

「フィー?  どうした?」
「…………」

  急に黙ってしまった私の様子がおかしい事に気づいた殿下が、驚いた声で呼びかけてくる。

  ──フリード殿下と二度と会えないかもしれない。

  ただその事だけが、私の頭の中をグルグルと回っている。

「気分でも悪いのか?」

  殿下は俯いたままの私の顔を心配そうに覗き込んでくる。
  笑え、笑え、笑うのよ私!

「だ、大丈夫……です!  何でもないです。すみません、心配かけ……」

  そう言って笑おうとしたのに、自分でもうまく笑えてないのがわかった。

  ポタッ

  自分の頬を伝う生温い感触……

  ……これは、涙?  私、泣いている?

「フ、フィー……!?」

  さすがの殿下も驚きを隠せない。
  そりゃそうだ。突然、目の前の女性が泣き出したのだから。

「……な、何でも、ないんです。本当に……す、す、みません……」
「何でもないわけないだろう!?  大丈夫か?  どこか痛いのか!?」

  殿下はかなり狼狽えている。


  痛いところ?
  ──胸が……痛いです、フリード殿下。

  あなたに、二度と会えないかもしれないと思うと……胸が痛くなるんです。
  そして、あなたが王女さまと婚約するのだと思うと……更に。

  でも、言えない……そんな事。

「ほ、本当に、大丈夫……ですか、ら……」

  そう言って殿下と距離をとろうとしたら、突然グイッと腕を引っ張られた。

「!?」

  気が付くと、私は殿下の腕の中にいて……抱き締められてるのだと遅れて気付いた。

「あ、あの、殿下?  離し……」
「離さない」

  抱き締めている腕に更に力が込められた気がした。

「えっ?  えっと……」
「……今、離したら二度とフィーに会えない気がする」
「!」
「だから、もう少しこのままで」
「……」



  どれくらいそうしていただろう?
  殿下はそっと抱き締めていた腕を解いてくれた。
  流れていた涙は自然と止まっていた。

「フィー、俺はね諦めの悪い男なんだ」
「?」

  殿下の言っている意味がわからず首を傾げた。

「だから、覚悟していて欲しい」
「……?」

  本当に意味がわからない。

「…………だよ。フィー」
「えっ?  今、何て……?」

  また、よく聞こえなかった。
  聞き返したら、殿下は少し寂しそうに微笑んで言った。

「戻って来たらちゃんと言うよ」
「…………」

  あぁ、とってもとっても大事な言葉だったような気がするのに。

  “戻って来たら”

  私は、その言葉の続きを聞く事が出来るのだろうか──?

「……大丈夫そうなら戻ろうか?」
「はい……」

  殿下に支えられて私は会場に戻り、「遅い!!」と痺れを切らして待っていたお兄様(やはり令嬢達に囲まれていた)とお父様とお母様と合流し、そのまま屋敷へと帰った。





  その日以降、定期的に手紙は届くもののフリード殿下とは直接会うことは叶わないまま、私は学院へ入学。殿下は卒業とともにカーチェラへと留学していった。


  留学前に貰った最後の手紙には、ただ一言、


『待っていて欲しい』


  とだけ書かれていた───
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