【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

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第1章

2. 動き出したのは……

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  あの日から時は流れ、あっという間に7年がたって私は15歳になっていた。

  ひきこもり作戦が上手くいったのか、小説のストーリーとは違ってニコラス殿下の婚約者にはなる事がなくここまで来る事が出来たけれど、この7年間私はいつだって気が気じゃなかった。

  少しとはいえ、もうストーリーは変えてしまったのだから、今のうちに他の人と婚約するのも有りかもしれないと考えた事もある。逃げるにはそれが一番手っ取り早いと成長しながら気付いた。
  なので、いつだったかお父様にそれとなく聞いてみた。

  しかし、そんなお父様から返ってきた答えは……

「スフィアの婚約?  うーん、今はちょっとね」

  ……ちょっと?  ちょっとの続きは何!?  意味深すぎるわ、お父様!
  打診がないって事?  それとも、打診はあるけどヤバイ人しかいないとか?

  嫌な予感しかしなかったので、先手をうって誰かと婚約するのは諦めるしかなかった。
  私が無理やり誰かと婚約しなくても、ニコラス殿下が誰かと婚約してくれれば!
  そんな淡い期待も抱いた事もあったけど、その願いは虚しく、私の耳にニコラス殿下が誰かと婚約したなんて話が届く事は無かった。

  婚約者候補なんて他にもいるはずなのに!
  やっぱり、物語通りに進もうとする力はあるのかもしれない。


  そんな中、私はいよいよ社交界デビューを迎える。
  今まで、王宮主催の催しは様々な理由をつけて片っ端から断ってきたけれど、さすがに社交界デビューまで断る事は出来ない。
  とうとう逃げ隠れてばかりではいられなくなってしまった。

  そして、もうすぐ学院にも通う事になる。
  もちろんあの小説の舞台となった学院だ。

  物語はヒロインの学院入学と共に開始するけれど、ヒロインは私の2つ年下のため、まだ物語の開始までは幸い時間がある。
  と言っても油断は禁物。
  社交界デビューを終えて表舞台に立つようになれば、私とニコラス殿下の婚約話がやってくる可能性は今よりも非常に高い。

  どうせなら、このまま逃げ切りたい……

  

 
  そう思っていたけれど、人生とはどう転んで行くか分からない。
  その日聞かされた、とある申し出が私の人生を大きく変える事になる。



 

「社交界デビューのエスコートの申し出……ですか?」
「そうなんだ。スフィアを是非、エスコートしたいって話でね」

  お父様に、社交界デビューの件で話があると呼び出され、執務室に入るなり告げられた内容に驚いた。
  社交界デビューのエスコート役は、婚約者がいるなら婚約者が務める。婚約者がいない場合は家族が務めるのが慣例となっている。それを無視してまでの申し出というのはいったい何事なのか。

「ですが、私に婚約者はいませんよ……ね?」
「勿論だよ。でもどうしてもって話なんだ。ちょっと断れない相手なんだよねぇ……」
「まさか、それって……」

  嫌な予感がする。
  筆頭公爵家の当主であるお父様が断れない相手と言ったらほぼ決まってる。

「王子殿下からの申し出なんだよ」
「!!」

  やっぱりだぁぁーー……
  私は思いっきり項垂れる。
  これは、そろそろ小説のストーリー通りにニコラス殿下の婚約者になりなさいって事なのかしら?  
  ほら何だっけ?  ……力?  強制力?
  嫌だなぁ、エスコートなんて受けたら、このまま婚約させられるんじゃないの……?  そんな事を考えていたけれど、次のお父様の発した言葉に私は更に驚かされた。

殿が、是非にってね」
「…………へっ?」

  思わず素で返事をしてしまった。
  今、お父様はフリード殿下って言った?  ニコラス殿下ではなくて?

「フリード殿下のご指名なんだよね」

  お父様は多少困惑しつつも、のほほんとしている。
  一方の私は完全に脳内パニックを起こしていた。

  何でここでフリード殿下が登場するの!?
  小説のストーリーでは、当たり前だけど婚約者であるニコラス殿下が私のエスコート役だった。
  だから、当然この申し出もニコラス殿下なのだとばかり思ったのに!
  どういう事なの!?

「わ、わかりました。こちらからは断れませんし、その話お受けします……」
「そうだね、じゃぁ、そう返事しておくよ」

  お父様がホッとした顔で頷いた。
  驚きと疑問は消えなかったけれど、とにもかくにも私はそう答える事しか出来なかった。



◇◇◇




「さて……今回の事も記録して残しておこう……」

  部屋に戻り、私は1冊の本のようなノートを取り出す。
  前世の記憶が甦った時から、私は忘れないように日々の記録を残すようにした。
  中身を書く時は、日本語を使っている。
  これなら、万が一誰かに中を見られても内容が漏れる事はないだろうから。

「それにしても……フリード殿下が出てくるなんて」

  フリード殿下は、小説の中に登場はする、が私達との絡みは少ない。
  いわゆる、モブ。

  第一王子……後に王太子となるフリード殿下が、ヒーローでヒロインが王太子妃になる展開のストーリーの方が鉄板ネタと言えるのだが、この小説は第二王子をヒーローとするちょっと変わった話だった。
  だから正直、フリード殿下はそんなに出番は無かったはず。そもそも悪役令嬢スフィアとの絡みなんてあったっけ?

「それよりも、フリード殿下には婚約者がいないのかしら……?  ストーリーの中では婚約者がいた気がするのだけど」

  小説のストーリーを思い出そうもするも、何故かその辺りはうろ覚えだった。
  申し訳ないけれど、モブの設定なんて覚えてない……! 

  しかし現実の世界である今、そのフリード殿下は私にエスコートの申し出をしてくれている。
  婚約者がいたら私をエスコートなんてしないだろう。
  つまり、小説の中のストーリーはともかく、現実のフリード殿下に婚約者はいない。

  ならばますます分からない。
  フリード殿下とは、8歳のあの日に挨拶したきりだ。
  ……まぁ、ちょっと意地の悪い事はされたけれど、子供のいたずらと思えば大したことでは無かったのに。

「はっ!!  まさか、ミミズを突っ返した事を根に持って!?」

  まさかの……7年越しの仕返し?  いや、いくら何でもそんな事あるまい。
  そんな執念深い王子いてたまるか!
  と、必死にその考えを打ち消す。
  ならば、単なる気まぐれ?  
  そんな気分屋の王子も嫌だわ!

「……」


  結局、考えても考えても答えは出なかった。



  けれど、あの日から7年。少年時代から整った容姿をしていた彼の事だ。
  さぞかし、カッコイイ青年になっているのだろう。

  そう思うと、憂鬱だった社交界デビューがちょっとだけ楽しみになった。
  なぜなら、イケメンは目の保養になる!
  ひっそりイケメンを眺めて楽しむくらいは許されてもいい……はず。




  そして数日後────



 
「お嬢様、贈り物が届いております」

  私付きの侍女であるサラが箱を手に持ってやって来た。

「贈り物?  私に?」

  誰かに何かを贈られる心当たりなんて無いのだけど?
  私がそう思い怪訝そうな様子を見せるも、サラは表情を変えることなく続けた。

「はい。間違いなくお嬢様宛てになっております。既に中身も確認済みです」
「えぇ~?」

  大丈夫かしら……確認済みという事は、変な物や有害な物など入っていない、という事。
  おそるおそる贈り物だという箱を受け取り、そっと中を開けてみた。

「まぁ!」

  箱の中身は、金色の縁の中に緑と青色の石が組み込まれた髪飾り、金と銀色の石がついた揃いのイヤリングとネックレスが入っていた。その下にはカードが1枚。

  “君の社交界デビューを祝って。デビューの日にこれをつけた君に会えるのを楽しみににしている F”

「………………」

  これって、これって……?
  Fとか書いてるけど、どう考えても、

「フリード殿下から……?」
「これは間違いなくお嬢様に似合いますよ~!」

  頭の上からサラのはしゃぐ声が聞こえる。

「……え、えぇ?  そうかしら?」

  これってあっさり受け取っていいものなの!?  いや……返す事も出来ないけれども。

「ん?  あら、お嬢様。これって……」

  はしゃいでたサラが、ふと何かに気付いたような声を出した。

「どうかした?」
「……い、いいえ、何でもありません!  とにかく素敵だな~、お嬢様に似合いそうだな~って改めて思っただけですよ!」
「そう?  そうなのよ。本当に素敵なのよね」

  私は贈られた物を手に取りながら考える。
  フリード殿下からの贈り物なら当然、無下には出来ない。
  デビューのエスコートをしてもらうわけだから、彼からの贈り物を身に着けて着飾るのは、おかしくない……はず。
  しかし、婚約者でもないのにここまでするものなの?
  って疑問は消えてくれない。
  そんな事をブツブツ小声で呟きながら考え事をしていた私には、サラがこぼした小さな声は全く聞こえていなかった。


「これって、まさか……お嬢様とフリード殿下の配色なんじゃ……?」

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