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序章

プロローグ

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  コツコツと誰かの足音がこちらに近付いてくる音がする。

  ここは、王城の地下牢で、罪を犯した人間が収容される場所だ。
  こんな所にいる人間わたしに、用がある人なんているのかしら?
  私は近付いて来る足音を聞きながらそんな事を思った。

  現在、そこに収容されている私──スフィアは、昨夜行われた夜会で婚約者であるこの国の第二王子ニコラス殿下から、とある令嬢への虐めや嫌がらせに関する断罪を受けて婚約破棄を突き付けられ、ここへ連れてこられたばかり。
  さすがにまだ処分通達は無いと思うのだけど。

 「まぁ、私が何の処罰を与えられるのかはすでにんだけどね」




  私は、この国の王族の次に大きな力を持つ、ランバルド公爵家の令嬢。
  そんな家の令嬢である私は、幼い時から王家に嫁ぐ事になるだろうと周囲に期待されて、そう言われて育てられて来たので、私自身も王子の妃になる人間なのよ!  そんな風に思っていた時期もあったわ。

  ……そう、あの日、8歳の時に初めて二人の王子と会うまでは。

  リュンベルン王国の王家には、王太子であるフリード殿下と弟のニコラス殿下。二人の王子がいる。
   ──私は、幼少期から弟王子、第二王子であるニコラス殿下と婚約するはずだった。

  だけど、私はどうにか王家と距離を置いて婚約から逃げた。
  王家と縁づかせたかったはずの両親は、何故か私の願いを聞いてくれた。
  結局はこんな事になってしまったけど、本当に感謝しかない。

  そうして数年間は人前にも姿を現さず、王子の婚約者にもならずに過ごせていた私だったけれど、それでも年頃になれば逃げ隠れていられるのにも限界がある。
  
  そして今から1年前、とうとう逃げられなくなった私は運命に導かれるまま、周囲の期待通りに第二王子、ニコラス殿下の婚約者となったのだけど──……







「大丈夫、大丈夫。ちょっと何故か婚約破棄は予定より半年も早かったけど、私のこれからはきっと願っていた通りに進むはずよ」


  私は、独りそう呟く。


  コツコツコツ


  そうしている間にも足音はどんどん近付いてくる。
  やはり、ここに向かっているのだろうか?
  いったい誰が──

  私がそこまで考えた時、

  ガチャンッ

  牢屋に続く扉が開いた。
  そこに現れた人物を見て、私は「ひっ!?」と小さく叫んで息を呑んだ。

「久しぶりだな、フィー」

  そこに現れたのは、金髪、碧眼の美貌の男性──
  この国の第一王子で王太子でもあるフリード殿下が、顔は笑ってるのに目は全く笑っていないという、もはや恐怖しか感じない姿で立っていた。

「……な、何故……」

  私の言葉にフリード殿下は笑みを深め更に言葉を続ける。
  もちろん、その目は全く笑っていない。一気に恐怖だけが倍増した。

「何故……はこっちのセリフだよ、フィー」
「……」
「さて、説明してもらおうか?  俺のいない間に君がニコラスの婚約者になっている事。かと思えば今はそのニコラスに婚約破棄を突き付けられて、こんな所に繋がれている理由を、ね」
「……っ!」

  フリード殿下は、私が触れて欲しくない部分を確実に突いてきた。

  私の思い描いていた計画では、もう二度と会う事のないはずだったヒト……
  まさかもう一度会えるなんて思ってもみなかった。
  その事実に胸の奥がキュッと苦しくなった。
  と、同時に姿が見れた事に安堵もした。


  そんなフリード殿下が、とんでもない怒り満載の黒いオーラを纏いながら、牢屋の中にいる自分の元へと更に近付いて来る。
  当然だけど殿下は怒ってるわ……
  きっと私がこのまま処罰──国外追放……を受ける事を望んでると知ったら更に怒るでしょうね。



  ──だけど、どうして彼がここにいるの?  こんな展開、私は知らない。
  


  これまで、だいぶ私の知っているストーリーと違う事がたくさん起きてはいたけれど、私の辿る運命の大筋は変わっていなかった筈なのに何故なの。


  私は、ニコラス殿下に婚約破棄されて国外追放される運命。そう決まっている。
  そこに、フリード殿下は一切関係が無い。
  なのに彼は今、私の目の前にいる。


  どんどん黒いオーラを撒き散らしながらこちらに近付いてくるフリード殿下を見ながら、

  一体、どこでストーリーはこんなにも変わってしまったの?

  私はそう思わずにはいられなかった。

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