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しおりを挟む「……まさか、今日になるなんて」
私は鏡の前でそう呟いた。
「お嬢様? どうかされましたか?」
「ううん、何でもないわ……」
「そうですか? いよいよですね! おめでとうございます!!」
「あ、ありがとう」
私の小さな呟きを拾ったトリアが何事かと聞き返してくるけれど、私は呟かずにはいられなかった。
ポンコツマッフィー野郎と元ヒロインが捕まり、私の毒殺未遂事件も終わってロディオ様と気持ちを通じ合わせて約半年──……
あれよあれよと話が進んで、本日は私とロディオ様の結婚式……
ロディオ様は「いつでもお嫁においで?」なんて言っていたけれど、本当に私をお迎えする準備をばっちり整えていて、侯爵家はまさかの完全歓迎ムード……
結婚式に向けての準備もサクッと進められた。
(本当に、ふにふにが絡まなければ優秀な人よねー……)
そんなロディオ様は半年経っても変わらず私の頬を愛でている。彼の中に飽きるという言葉は無いみたいだ。
「あの日、病み上がりだったお嬢様がワイデント侯爵子息様に会いに行くと言った時はこんな事になるなんて思っても見ませんでした」
「……私もよ」
私はただ、マッフィーから助けて貰いたかっただけなのに。
契約の恋人が婚約者になって、今日、夫へ───……
そんな夫婦の出発の日となる本日はまさかの“物語の開始日”だった。
なのに、ヒロインだった彼女は一生を牢屋で過ごす事となり、ヒーローは、物語の開始早々に殺される脇役令嬢の夫となる───……
(本当にめちゃくちゃだわ)
それでも、私はロディオ様と生きて行く。
ちょっと、へんた……ゲフンゲフン……な所もあるけれど、私は彼が大好きだから。
「……ソフィア! 俺の可愛い花嫁! あぁ、ドレスが最高に似合ってる!!」
「ロディオ様?」
部屋のノックと共にロディオ様が駆け込んで来る。
フニッ!
───えぇ!?
「ロ、ロディオ様!? 何して……!」
「今日というこの日が夢でない事を確かめている」
「だ、だとしても、もっと他に方法があるでしょうに。何もそんな自分の頬を……」
フニ、フニ……
ロディオ様は、なんと私の頬! ではなく、自分の頬をふにふにし始めた。
「……夢じゃない。ついでに全然気持ち良くない」
「そ、そうですか……と、とにかく、夢にしないで下さい!」
「うん。ついに、ソフィアが俺のお嫁さん……」
「そうですよ!」
……フニッ! フニフニフニ……
そう言いながらこっちに手を伸ばして、今度は私の頬をふにふにするロディオ様。
「うん、やっぱりコレだ……あぁ、夢のふにふに生活が始まる……」
「ずっと思っていたんですけど、それ! ロディオ様、どれだけふにふにするつもりなんですか?」
「さぁ、どうだろう? 分からないや」
ロディオ様が締まりのない顔で笑う。
「とりあえず、今夜は全身ふにふにする事だけは決定してるけどね」
「っっ!」
フニフニフニ……
全身ふにふに……と言う言葉で、あの半年前の恥ずかしいモニョモニョ……を思い出し、顔を赤くする私をトリアは微笑ましそうに見つめていた。
フニフニフニフニ……
そして、放っておくとエスカレートするロディオ様と私のイチャイチャを止めるのは相変わらずお父様の役目。
「花嫁の支度が遅れてる!! また、イチャイチャという名のふにふにのせいか!?」と乗り込んで来たので、慌てて支度を再開した。
「───愛を誓いますか?」
「はい」
結婚式ではそんな定番の愛の言葉の後、すぐに誓いのキスをするのだけど──……
フニッ
ふに!
ロディオ様は式の間、嬉しそうにふにふにを混ぜ込んでくる。だから、私も悔しくてふにふに返しをしていたせいなのか、
「ウォッホン! それでは、晴れて夫婦となる二人には誓いのフニ……」
と、言い間違える事態にもなってしまい結婚式会場は爆笑の渦に包まれた。
「くく……誓いのフニフニだって。新しいね」
「……ロディオ様のせいですよ」
「そんな事を言いながらも、ソフィアだって俺の頬をふにふにしてるじゃないか」
「これはお返しです……」
フニ、ふに、フニ、ふに……
私達はお互いの頬をふにふにする。
「あー、コホッ……誓いのキスを!」
その声に二人で顔を見合わせて笑った。
「……ソフィア、愛してるよ」
「ロディオ様……私もです」
ロディオ様の麗しのお顔が近付いて来たので、私はそっと瞳を閉じる。
…………フニッ
そうして、優しい優しい誓いのキスを交わして私達は夫婦になった───
────この結婚式が、後に“ふにふに結婚式”と呼ばれる事になるのをこの時の私達はまだ知らない。
フニフニフニ……
「ロディオ様、擽ったいです……」
「うん……」
フニフニフニフニ……
「あ、そこは……っっ」
「……ソフィアの身体は、本当にどこをふにふにしても……気持ちいい……」
「も、もう!」
ロディオ様の不埒な手が私の身体のあちこちをふにふにしてくる。
「……ソフィア、今夜は眠れないと思うけど許してね?」
「へ? えぇぇ?」
「半年前は多少、手加減したけど、今夜は無理そうだ」
「あ、あれで手加減!? 嘘でしょう? ……んっ!」
───俺の愛はソフィア限定で重いみたいだからね……
なんて、言われて私はたくさんフニフニされて愛された。
ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢だった私。
ただただ、物語通りに殺されたくなくて運命を変えたかっただけなのに。
そんな運命を変えたら…………
思ってもいなかった、ふにふにと溺愛の日々が待っていた────
ちなみに。
私との間に生まれた可愛い赤ちゃんの、ほっぺたのぷにぷにっぷりにロディオ様が、悶えるようになって、
「私のほっぺとこの子のほっぺ! どちらが好きなんですか!?」
と、私が子供じみたヤキモチを妬くようになるのはここからもう少し未来の話───
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です!
ここまでお付き合い下さり本当にありがとうございました!
いつもそうですが終わるのは寂しい……
想像を超えるコメント数に私はとても驚いております。
そして、返信が手付かずです。本当に申し訳ございません……!
……やっぱりフニフニの影響でしょうか。
ですが、フニフニに関しては色んな思いやご意見がある事は承知しています。
当初はこんな事(フニフニ)になる予定では無かったのですが……
ロディオ様が恋に落ちたら暴走しました。
キャラが勝手に動くってこういう事を言うんだなって。
おかげで話も予定よりかなり長くなりました。
ツルツルチリチリ……無双する縦ロール、そしてフニフニ。
ずっとお付き合い頂いてる方には最近こんなのばっかだなと思われていそうですね。
こんな私の綴る話ですが、楽しんで貰えていたら嬉しいです。
この話に限らず全ての話に言える事ですが、
私は(どの話も)自分好みの話をひたすら楽しんで書いているので、その気持ちが伝わっていたらいいなと毎回毎回思っています。
ここまでのたくさんの応援、ありがとうございました!
新作も開始しています!
『悪役令嬢の私は、婚約破棄されて隣国で幸せになるはずだったのに!』
この話のように転生者が主人公となる話ですが、今度は“運命を変えない”つもりでいた令嬢が主人公です。
もしよろしければですが、またお付き合い頂ければ嬉しいです。
本当にありがとうございました(。ᵕᴗᵕ。)
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