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  ぎゃあぁぁぁぁーー!
  何してるのぉぉぉーー!
  触れないでぇぇえーー!

「は!?  ちょっと何してんのよ、止めてよー!」

  そんなヒロインの悲痛な声と、きゃーー!  だった会場内の令嬢達の悲鳴が、ぎゃーー!  と泣き叫ぶような声に変わったのを聞きながら、私はロディオ様の頬にキ……モニョモニョ……をした。
  チュッと音を立てて唇を離してロディオ様を見つめると、ロディオ様は茹でたこみたいに真っ赤になっていた。

  (すごい真っ赤!)
 
「えっ、ソ、ソフィア…………さん?  君は今いったい何を……しましたか、ね?」

  ロディオ様は私の行動にとても驚いたみたいで、また声が上擦って敬語になっている。最近のロディオ様はこうなる事が増えた気がする。

「チ、チュッってしました!  ロディオ様、私はロディオ様に(頬以外も)たくさん愛されたいのです……」
「俺に愛されたい?  しかも、たくさん?  ……つまり、今のままの俺の愛では足りない……」
「はい……」
「!」

  (頬だけじゃ嫌なの……)

「もっと、全部の私を愛し……」

  そこまで言いかけた時だった。

  ……フニッ

  頬にはかなり慣れ親しんだはずのロディオ様の唇が今までと違う所に……フニッとした。

  (……え!?)

  驚いた私の目にはロディオ様の麗しのお顔のドアップ!
  こ、これって……唇へのキ……モニョモニョ……?

  (私、く、唇にキ、キスされてるーーー!?)

  た、た、確かに頬以外も愛して欲しいとは言ったわ。なのにどうして突然……

  んぎゃあぁぁぁぁーー!
  何でそこまで見せつけるのよぉぉぉぉーーー!
  もう、分かった、分かったからぁぁぁぁー!
  奪われたァァァァーーー!
  うぉぉぉぉーーー!!

「ちょっ……!  〇✕△□~~!?」

  フニフニ……チュッチュ……スリスリ……

  ロディオ様は、騒いでいる令嬢達の悲鳴も、言葉を失って呆然としているヒロイン(ついでにマッフィー)も無視して、空いてる方の手で軽く私の頬にふにふにとスリスリしながら、唇へのフニ……チューを続けた。

  (えぇえぇ!?)

  そして、何より合間合間に囁かれる「ソフィア……」という声が超絶甘い!

「~~……!」

  だんだん息が出来なくなって来て苦しい……そう思った時、ようやくロディオ様の唇がそっと離れる。

「あ、の……ロディオ……様」
「うぁぁ…………思っていた以上に甘い…………じゃなくて、ソフィア!」
「は、はい!」

  フニフニフニ!

  ロディオ様は私の頬をふにふにしながらちょっと怒っていた。

「どうして、こんなにも君の事を愛してやまない男に向かって“もっと愛して”なんて言うんだ!!」
「え?  愛してやまない?  だ、だって(頬以外も)全部私を愛して欲しくて……」
「全部?」

  (あれ?  ロディオ様の目が、獲物を狙うハンターのような目に……?)

  ロディオ様の雰囲気が変わった。

「ロ、ロディオ様……?」
「…………ソフィアさん。今夜は覚悟してください」
「覚悟?」
「そうです。今夜の君はイッフェンバルドの屋敷には帰れません」
「な、何故?」
「君が俺の花嫁だからです」
「花嫁?  ……それは、どういう意……」

  フニッ!

  その意味を聞こうとしたけれど、再び唇が塞がれてしまいその続きが聞けない。

「ロディ……」
「愛してるよ、ソフィア」
「!?」

  フニッ! フニッ!

  ロディオ様はたくさんたくさんフニフニという名のキ……モニョモニョ……を繰り返す。

  (あぁ、どうしてこんな事に?  頭の中が蕩けそう……)

「……頬っぺたもいいけど、こっちも最高だ……これは毎日の日課に……追加だな」
「?」
「可愛い可愛い俺の嫁、ソフィアとの夢のふにふに生活……」
「!?」

  (うっとりとした顔で何か言ってるー!!)

    フニフニフニフニ……スリスリ……チュー……

  ロディオ様による、公衆の面前でのキ……モニョモニョ……攻撃はその後も続いた。





「……んっ」

  ようやく、私の唇を解放したロディオ様。彼は辺りを見回し、ヒロインとポンコツマッフィー野郎に視線を止めると言った。

「……俺の嫁が可愛すぎて忘れてた。お前達、まだそこに居たのか」
「「なっ!」」

  ヒロインとポンコツマッフィー野郎の声が綺麗に重なる。

「散々、企んでた悪事については公に語ってくれたようだし?  俺の可愛い可愛い嫁のソフィアが誰のモノかも理解した頃か。うん、もういいかな──入れ!」

  ロディオ様のその声と共に会場の入り口で待機していた人達がなだれ込んで来る。
  そして、ヒロインとポンコツマッフィーの野郎の拘束を始める。

「は?  何!?  何で私が捕まるの?  泥棒……泥棒猫はあっちよ!?」
「くそっ!  離せ!  俺は利用されただけだ!  俺は悪くない!」
「……話は後でたっぶり聞かせてもらう。大人しくついてこい」
「嫌よ、離してぇぇー」
「離せぇぇぇ」

  二人は必死に抵抗するも、呆気なく拘束されていく。自分達が捕縛されるなんて微塵も考えていなかったに違いない。
  そして、最後の抵抗とばかりに暴れた。

「……っ!  脇役!  あんたが!  あんたがめちゃくちゃにしたんでしょ!?  最低よ!  私の幸せを返して!」

  私を睨みながら叫ぶヒロイン。私はそんな彼女に向かって言う。
  
「……リンジーさん。人の死を願って幸せを手に入れようとするあなたに、ヒロインとして幸せになる資格なんて無いと思うわ」
「……は?  あんた、まさか……」
「最初にめちゃくちゃにしたのは……リンジーさん。あなた自身。あなたはその事を思い知るべきだわ」
「何でよ、どうしてよ!!  ここは私の──」

  本当に“ヒロイン”は分からず屋だと思う。

「勘違いしないで!  ここはあなたが“主役”の世界なんかじゃない!」
「そんなはずは……嘘……だって……物語はこれから始……」
「残念だけど、その物語はもう絶対に始まらない」
「何でよ!?」
「……ロディオ様は譲らない!  私がこの頬っぺたで幸せにすると決めたんだから!!」

  私はヒロインに向かってそう声を張り上げた。

「…………ほっぺた……」

  ──ようやく暴れていたヒロインの力が抜ける。
  ヒロインは「ほっぺた……ほっぺたに私は負けたの……?」と呟きながら連行されて行った。

  また、もう一人暴れていたポンコツマッフィーの野郎は、ロディオ様が蹴り飛ばして黙らせていた。
  ロディオ様は「一発殴ってやりたかったんだ」と言いながら、ポンコツマッフィーの野郎を蹴り飛ばしていたけど、それは足蹴りであって殴る……では無いわ、と思いながらも私は静かに見守った。
  ロディオ様の気が済むなら何でもいいと思う。


  ──こうしてようやく、私の毒殺未遂事件が終わろうとしていた。

  あとは……ロディオ様と私のこのよく分からない関係を明らかにしなくては!
  そう思ってロディオ様と向き合った。

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