44 / 50
43.
しおりを挟む「うるさいわね、だからあんたはへっぽこなのよ!!」
「俺をへっぽこ呼ばわりするな! 本当にその口の利き方は何なんだ!」
ポンコツマッフィーの野郎に未だに大変失礼な口を叩いている(一応)ヒロインの元へと私はそっと近付く。
その気配に気付いたのか、ヒロインが私の方に視線を向けた。
そして、可愛らしかった顔を酷く歪めて私に向かって言った。
「……来たわね、この泥棒猫!」
(泥棒猫って……)
気持ちは分からなくもないけれど酷い言い草だわ。
「泥棒猫、とは?」
「泥棒猫は、泥棒猫でしょう!? 私の未来の夫を奪おうとしているだから!!」
(未来の夫……)
私もずっとそうなるべきだって思ってた。
目の前のこの人は“ヒロイン”で、私は物語開始早々に退場する“脇役”だから。
でも、もうそうは思わない。
「さっさとロディオ様との婚約を解消して私に返しなさいよ! それでソフィア・イッフェンバルドは私の為にさっさとそこのへっぽこ男に殺されてよ!」
「……どうして私が死ななくてはいけないの?」
「そう決まってるのよ! この世界の決まりなんだから」
(本当に不思議だわ)
本当にそう思うのなら、どうして大人しく物語の開始の時を待っていなかったの?
確かに私は自分が死にたくなくて物語を変えようとはした。
でも、私が前世の記憶を取り戻して、この世界の事を思い出す前からヒロインは違う行動を取ってしまっていた。
(そりゃ、物語もめちゃくちゃになるわよね)
私は物語がめちゃくちゃになったのは、自分のせいかもと思っていたけれど狂いだした始まりは、ヒロインだ。
(でも、きっとその事に気付いていないし、認めないのでしょうね)
「例え今、私が死んでも、あなたの思い描く未来なんて絶対にやって来ませんよ? ちゃんと現実を見て下さい」
「は?」
「だって、あなたも見たでしょう? ロディオ様ってちょっと好みが変わっているんですよ。知ってました?」
「え?」
──知らないでしょう? あなたの見ているロディオ様は、頬をふにふになんてしなかったはずだもの。
「あなたじゃ無理です!」
「は? 何でよ!?」
「だって、ロディオ様って、私の(頬の)事が大好きみたいなんです」
「なっ!?」
いーやーぁぁぁぁーー
そんなハッキリ言わないでぇぇぇーー
私たちの夢がぁぁぁぁーー
(──ん? どうして令嬢達がそんなに騒いでいるの?)
更に泣き崩れる令嬢達が視界の端に映り不思議に思う。
やっぱり、ほっぺた大好きはショックが大きかったのかな……と、納得する。
ついでにロディオ様の方をチラッと横目で見ると、彼は顔を真っ赤にして私を見つめていた。
(真っ赤!? まさか頬をふにふにするのが大好き! なんてへんた……ゲフンゲフンな性癖をバラしてしまったから怒ってる……? いえ、違うわ……人前でも平気でふにふにする人なんだから今更よね?)
なら、何であんなに顔が赤いのかと思いながらも私は続ける。今は打倒ヒロイン!
「ロディオ様は、すごくすごく(頬を)愛してくれているの」
だってヒロインに、あのふにふに攻撃が耐えられるかしら?
ふにふによ、ふにふに! 隙あらば頬をふにふにされるのよ!?
気付くと頭の中がふにふにでいっぱいになるのよ!?
「好き? 愛されてる? 嘘ばっかり言うんじゃないわよ!! 泥棒猫のくせに!」
「……でも、先程までのロディオ様の様子をあなたも見たでしょう? たくさん私の(頬の)事を愛してる様子を。だから、ロディオ様は私が(この頬で)幸せにするわ! あなたは要らない!」
「っっっ! うるさいわよ! ふざけないで脇役女!! どうせ全部あんたが卑怯な手を使ったに違いないんだからーー」
「!」
そう言ってヒロインは思いっ切り手を振りあげ、そして───……
バッチーーー~ん
と、ポンコツマッフィーの野郎の頬を叩いた。
「……いっ痛てぇ!」
「なっ!? え? 何でへっぽこ!?」
「……」
(あ、危なかったぁ……)
頬なんて叩かれたら、ロディオ様がふにふに出来なくなっちゃう!
……こんな事が真っ先に頭に浮かぶあたり、私はふにふにに毒されている証拠。
(でも、何が何でもこの頬っぺただけは死守しないと!)
後で私がロディオ様に告白する時の大事なアピールポイントなんだから!
頬っぺたを武器に迫るって決めてるのよ。
「おいっ! 何するんだよっ!?」
「違っ……! 私はあの泥棒猫を叩こうとして! あんたこそ何で目の前に飛び出して来たのよ!?」
「はぁ? 俺の意思じゃない! 引っ張られたんだ!! それよりお前、相当力を込めただろ!?」
突然、叩かれたポンコツマッフィーの野郎は頬を抑えて痛がり、叩いたヒロインは狼狽えていた。
「……」
ヒロインが手を振り上げたので、まずいと思った私は咄嗟にマッフィーの野郎の腕を引っ張り私の前に立たせて代わりに叩かれてもらった。
私とヒロインの攻防を間抜けな顔で見ていたポンコツは油断していたのか簡単に引っ張る事が出来たので、とても助かった。
(無理やりだけど本当に盾になってもらえたわ! この人でも役に立つ事もあるのね)
「ソフィア!」
そんな私が安堵していたらロディオ様が私に駆け寄って来る。
そしてギュッと優しく私を抱きしめた。
「手をあげてたぞ? やっぱり近付いたら危険だったじゃないか!」
「でも、マッフィー……様を盾に出来ましたよ?」
「あれはたまたまアイツがボケっと間抜けな顔をしていたからに過ぎない!」
「……」
まぁ、否定はしない。
フニフニ……
そして、ロディオ様は安定の頬へのふにふにを開始する。
「ロディオ様……」
「ポンコツマッフィーだろうとそこの気持ち悪い女であろうと、ソフィアのここには誰も触らせない」
フニフニ……
「知っています」
「ソフィアは可愛い可愛い俺の嫁だ……でもまさか、こんなにちゃんと俺の愛が伝わっているとは思わなかった……嬉しいよ、ソフィア。もう、離さないよ、俺の嫁」
フニフニフニ……
(……ん?)
俺の愛?
フニフニフニフニ……
(あ! 頬への愛の事かしら……ごめんね、ロディオ様。私はそれだけでは足りないの)
「ロディオ様……」
「ん?」
フニフニフニフニフニフニ……フニッ
私はロディオ様がふにふにしてくる手を止めさせた。
「……ソフィア?」
ロディオ様が悲しそうでもあり、どこか困惑した表情を見せる。
(そんな顔しないで?)
「ロディオ様……お願いです。もっと私を(頬以外も)愛して下さい!」
「……え?」
……フニッ
私はそう言って勢いよく背伸びをして、ロディオ様の頬に自分の唇を押し付けた。
104
お気に入りに追加
4,985
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
虐待され続けた公爵令嬢は身代わり花嫁にされました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
カチュアは返事しなかった。
いや、返事することができなかった。
下手に返事すれば、歯や鼻の骨が折れるほどなぐられるのだ。
その表現も正しくはない。
返事をしなくて殴られる。
何をどうしようと、何もしなくても、殴る蹴るの暴行を受けるのだ。
マクリンナット公爵家の長女カチュアは、両親から激しい虐待を受けて育った。
とは言っても、母親は血のつながった実の母親ではない。
今の母親は後妻で、公爵ルイスを誑かし、カチュアの実母ミレーナを毒殺して、公爵夫人の座を手に入れていた。
そんな極悪非道なネーラが後妻に入って、カチュアが殺されずにすんでいるのは、ネーラの加虐心を満たすためだけだった。
食事を与えずに餓えで苛み、使用人以下の乞食のような服しか与えずに使用人と共に嘲笑い、躾という言い訳の元に死ぬ直前まで暴行を繰り返していた。
王宮などに連れて行かなければいけない場合だけ、治癒魔法で体裁を整え、屋敷に戻ればまた死の直前まで暴行を加えていた。
無限地獄のような生活が、ネーラが後妻に入ってから続いていた。
何度か自殺を図ったが、死ぬことも許されなかった。
そんな虐待を、実の父親であるマクリンナット公爵ルイスは、酒を飲みながらニタニタと笑いながら見ていた。
だがそんあ生き地獄も終わるときがやってきた。
マクリンナット公爵家どころか、リングストン王国全体を圧迫する獣人の強国ウィントン大公国が、リングストン王国一の美女マクリンナット公爵令嬢アメリアを嫁によこせと言ってきたのだ。
だが極悪非道なネーラが、そのような条件を受け入れるはずがなかった。
カチュアとは真逆に、舐めるように可愛がり、好き勝手我儘放題に育てた、ネーラそっくりの極悪非道に育った実の娘、アメリアを手放すはずがなかったのだ。
ネーラはカチュアを身代わりに送り込むことにした。
絶対にカチュアであることを明かせないように、いや、何のしゃべれないように、舌を切り取ってしまったのだ。
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
【完結】婚約破棄された伯爵令嬢、今度は偽装婚約の殿下に溺愛されてます
ゆーぴー
恋愛
「俺と婚約して欲しい」 王太子クロードと周りからの圧力を避けるための、偽装婚約を結んだエルシア。
彼女は元々、公爵令息の婚約者だった。だが、男爵令嬢との浮気現場を目撃したことで、婚約者から切り捨てられる。
婚約破棄されたことを報告しようと王太子に謁見。
すると、嫌われていたはずのクロードから偽装婚約を申し込まれて!?
貧乏伯爵家だしお金の為に、と申し出を受けるエルシアだが。
本当はエルシアに一目惚れしていたクロードからの優しさと気遣いに少しずつ絆されてーー。
儚い、守られるだけの少女から。
大切な人の為に強くなっていくエルシアの成長物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる