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しおりを挟む「本当に使えない! 私の幸せはどうなるのよ!?」
「知った事か! そんな事よりお前のせいで俺は……俺は……こんな事ならお前の言う事なんて聞かずに、自分の思う通りにしておけば……」
「ふんっ! だとしてもあなたの未来は破滅しかないわよ! へっぽこ男!」
私の目の前で、ポンコツマッフィーの野郎とヒロイン……ヒロイン? 元……ヒロイン? が盛大な言い合いを始めた。
「あの二人には好きに言わせておけば良いよ。楽だよね、勝手に悪事を暴露してくれるんだから」
フニフニフニフニフニフニフニ……
ロディオ様はそう言ってニコニコしながら私の頬をふにふにする。
勝手に悪事を暴露……
そう思ってチラリと言い合いしている二人の方へと視線を向ける。
「何だと!? 勝手に決めるな」
「私には分かるのよ! へっぽこ男は失敗するってね! だから、この私がわざわざ助けてあげようとしたのに!」
「~~前々から思っていたが、なんでお前はそんなに偉そうなんだよ!?」
(……確かに。ヒロインは平民なのに、よく考えたら侯爵子息になんて態度を……すごいなぁ)
「そんなの“私だから”に決まってるでしょう!?」
「は? 答えになってないだろ!!」
そんな二人の様子には、会場内の人々も唖然とするしかない。
フニフニフニフニフニフニフニフニ……
「ソフィア」
「ロディオ様?」
「あんなのより、俺を見て?」
「え? でも……」
フニッ……
ニッコリと微笑んだロディオ様が、私の頬にキ……モニョモニョ……をする。
きゃぁぁぁーーー
もうやめてぇぇぇーー
これ以上は見たくないぃぃぃーー
うぉぉぉぉぉーー
当然ながら令嬢……? 達からは再び悲鳴が上がる。
「ソフィア……俺はもう、頬だけじゃ足りない」
「え? 足りない?」
「もっと、ふにふに……いや、たくさん君に触れたい。頬以外も」
「!?」
(だから、ロディオ様は何を言い出しているのーー!?)
フニッ、フニッ、フニッ……
ロディオ様は頬に何度もキ……モニョモニョ……をしながらそんな破壊力満点な事を口にする。
「だ、駄目ですよ……」
私はぐらつきそうになる心を抑えてそう言う。
「何で駄目?」
「だって、ロディオ様には運命の…………あっ……」
(運命の人であるはずの“ヒロイン”は、もうあんなだー…………)
「運命? 運命の人?」
「え、えぇ……」
(ロディオ様の“運命の人”は今、あそこで悪事の暴露をしています……)
なんて言えない!
「運命……か」
ロディオ様が、うーんと考え込む。
「俺は今まで“運命”なんて信じた事は無かったけど“ソフィア”と出会えた事は運命だと思いたいかな」
「え?」
「可愛い可愛い俺の嫁が、猫の鳴き真似して迷い込んで来た。なかなか無い出会いだと思う」
「っ!」
フニフニフニフニフニ……
「あれは忘れて下さー……」
「無理だよ。こんな最高に可愛い猫だったなんてさ。迷い込んで来てくれてありがとう、ソフィア」
「~~! 何を阿呆な事を言ってるんですか……」
「阿呆な事? そんな事は無い。俺の未来の嫁が猫のフリしてやって来たんだよ……ははは」
(何でそんなに嬉しそうな顔して笑うの……)
ドキドキが、トキメキが……止まらなくなるじゃないの。
“俺の嫁”
この言葉が、聞こえる度に言いたくなるの。
あなたが好きだと。
……ねぇ、言ってもいいかしら?
フニフニフニフニフニフニ……
何故か、ふにふにばっかりしてくる、へんた……ゲフンゲフン……だけど、それでも好きですって。
私はじっとロディオ様を見つめる。
フニ!!
私に見つめられたロディオ様が動揺したのか、ふにふにする手が止まった。
「ソフィアさん!? な、なんて目で……見る……んですか……」
「?」
「あー……うん、ソフィアさん。やっぱり今すぐにでも部屋を移動して、朝までふにふにー……」
と、ロディオ様が、とんでもなく際どそうな事を言いかけた所で、ずっと騒いでいた二人の罵り合いがだいぶ確信的な話にまで発展していた。
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(…………!)
ヒロインはどこまで行っても“ヒロイン”で。少し前までの自分を見ているような気持ちにさせられた。
(私はこんな人とロディオ様に結ばれて欲しいなんて思ってしまったんだ)
「……ソフィア?」
「ちょっと、ヒロ……リンジーさんの所に行って来ます」
私はロディオ様の腕の中から抜け出す。
「え、いや、ソフィア危な……」
「大丈夫です。ちゃんと距離は取りますし、いざとなったらマッフィー……様を盾にしますから」
「へ?」
ポカンとした顔のロディオ様に、にっこり笑顔を向けて私はヒロインの元へと近付く。
(そろそろ、二人の暴露大会も終わりに近付いて来たから捕縛される頃……)
よく見れば会場の入口に、明らかにパーティー客とは違う雰囲気の人達がいる。捕縛の待機をしているんだと思う。
捕まってしまってはヒロインとはもう会えなくなってしまうもの。
ポンコツマッフィーの野郎は、もう正直どうでも良いけれど、ヒロインは。
ヒロインとだけは話しておきたい。
(それにしても……ロディオ様はこれを狙っていたのね……)
聞かなくても何となく分かる。
この舞台を整えたのはロディオ様だ。
(だって、そうでなくちゃパーティーの主催者であるエレペン伯爵がここまで黙っているはずないもの)
ロディオ様ってすごいなぁ。
うっとりした顔で、私の頬をふにふにしてる時は、大丈夫かしら? なんて思ってしまうけど。
(カッコよくて頼りになって……そんなの、好きになってしまうわよ)
だから、ヒロインがロディオ様に固執する気持ちも分からなくはない。
しかも、ここは小説の世界で自分が主役……ヒロインだという自覚があるなら尚更。
──だけど、もうロディオ様をヒロインにはあげたくない。
人の命を軽く見てくるような人を私はヒロインだとは認めない!
それならロディオ様は…………私が幸せにするわ!
私はそう決めた。
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