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40.
しおりを挟む──どういう事?
私は抱き込まれた腕の中から、ロディオ様を見上げる。
私と目が合うとロディオ様はニッコリと微笑み、そっと私の頬を撫でた。
スリスリ……
「そんな不安そうな表情をしないでくれ、ソフィア。まぁ、ソフィアはどんな表情をしていても可愛いが」
「!? ……い、今は可愛いとかいらないので、説明を願いたいです……」
「そうか? 俺としてはこんな小物達は、どうせその辺で勝手に野垂れ死にすると思っているから、適当に捨て置いて可愛い可愛い俺の嫁を愛でていたいんだが?」
「え?」
ロディオ様の言う“可愛い嫁”は心臓に悪い……
「だが、ゴミ掃除は必要か……仕方ない」
フニフニ……
ロディオ様はそう言って私の頬を一ふにしてから、“共犯の女”と呼ばれた給仕係の女性の方へと目を向けた。
(……マッフィーの野郎には、共犯者がいたのね)
共犯者なんて毒入りのお茶を飲ませた、あの我が家のメイドくらいかと思っていたのに──
そんな事を思いながら私はロディオ様の腕の中からその共犯者だという女性を見た。
───えっ!?
「……っ!? ヒ、ヒロ……!?」
(────ちょっと待って!? 何でヒロインがここにいるのーーー!?)
ロディオ様に視線を向けられ、驚愕の表情をしたまま固まっている給仕係の女性はどこからどう見てもヒロイン!
「……!?!?」
(どういう事? ヒロインが何でここに? それに共犯者って……)
私は理解が追いつかず目が回りそうになる。
そんな絶賛パニック中の私をロディオ様が優しく抱きしめた後、私の頬をふにりながら言った。
フニフニフニフニ……
「大丈夫か? 落ち着いて、ソフィア」
「で、ですが……ヒロ……じゃなくて、彼女が……共犯者?」
「うん。あの茶葉店の店員の女が、マッフィーの起こしたソフィアの毒殺未遂事件の共犯者……いや、この場合は黒幕……かな?」
「……!!」
私は驚きすぎて声が出ない。
(う、嘘でしょう!? ヒロインがマッフィーの野郎の共犯者? しかも黒幕?)
スリスリスリスリ……
ロディオ様が今度は優しく私の頬を撫でる。
「色々調べたよ。毒殺未遂事件、どうしてもマッフィーの単独犯行には思えなかったから」
「……!」
小説ではマッフィーの野郎の単独犯だったのに?
いや、もうヒロインが黒幕とか言われている時点で、小説の内容どころでは無いのだと分かるけれど……
「だってさ、マッフィーってポンコツだろう?」
「はぁ!? な、何だと! おい、ロディオ、貴様!」
「ポンコツは黙ってろ!」
「ぐっ!」
フニフニフニフニ……
ポンコツ呼ばわりされたマッフィーの野郎は、ロディオ様に一蹴されて悔しそうに黙り込む。
(よ、弱っ……確かにポンコツかもしれない……)
フニフニフニフニフニフニ……
ロディオ様はふにふにする手を止めずに言う。
「こんなポンコツ男がわざわざ2種類の毒を用意して時間をかけてソフィアを死に至らしめる……なんて考えつくはずが無いんだよ。こいつの頭なら、無計画にその場で強力な毒を飲ませておしまいのはず」
「なっんだと!?」
ポンコツマッフィーの野郎は、ロディオ様の言葉にショックを受けていた。
多分あの顔は図星だ。
「だから、オレは裏にマッフィーを唆してる人間がいると思ったんだ」
「そ、それが、彼女……なの?」
私がおそるおそる訊ねると、ロディオ様は「あぁ、そうだ」と頷いた。
「そこの女は出会いの時からしておかしかったしな」
「体当たりされたから……?」
私の言葉にロディオ様は苦笑する。
そして、フニッと軽くふにって来た。
フニフニ……
「それだけじゃなくて……俺が茶葉店を訪ねた時からだよ」
「え?」
「問題の茶葉の記録を見せて欲しいと訪ねた時、あそこの女は店長が戻らないと場所が分からない……そう言っていたんだが、そう口にした時、ある一点に目線が向いていた」
「どういう事です?」
「本当は場所を知っていたんだろう。でも、それだけなら店長がいないから、勝手な事は出来ないという当たり前な店員の行動に思えたんだがな」
フニフニフニ……
そう言ってロディオ様は給仕係の格好をしたヒロインに視線を向ける。
そして、とても冷たい声で訊ねた。
「……だが、君はあの時、店長が戻ってくる前にその帳簿をいじっただろう? 一旦、俺との話を終えた後、その付近で何か作業をしていたな?」
「……っ」
ヒロインは答えない。
先程から無言で俯いたままで、逃げる素振りさえ見せない。
「つまり、帳簿を書き換えた? ロディオ様はそう言いたいのですか?」
「そういう事。俺が見せて貰った時の帳簿では購入者名は残っていなかったが、本当は書かれていたんだと思う」
「!!」
「───違うかな? 茶葉店の店員の…………リ、リンジー?」
(ロディオ様……最後が疑問形! 疑問形になっているわ)
どこまでもヒロインの名前を覚える気は無い事が伝わって来た。
いや、もう私は彼女を“ヒロイン”と、呼んでいいのかすら分からない……
(もう、物語がめちゃくちゃ……)
「……」
給仕係の格好をしたヒロインはそれでも何も答えない。
俯いたままブルブル体を震わせている。
「黙りか……まぁ、いいけどな。そこのポンコツマッフィーのようにキャンキャン喚かれても迷惑だしな」
「……っっ! ロディオ!!」
マッフィーの野郎は、ロディオ様に向かって睨みつけるけれどロディオ様はしれっと無視をした。
フニフニフニフニ……
「そうそう。この間、そこのポンコツマッフィーはとある誰かと密会していたようで」
「「!」」
その言葉に、ビクッとポンコツマッフィーの野郎とヒロインの肩が大きく震えた。
「俺は思ったよ。きっとそこで、可愛い可愛い俺の嫁のソフィアを始末するという無謀な計画でも立てたんじゃないかってね」
フニフニフニフニフニフニ……
ロディオ様はとてもとてもいい笑顔で、私の頬をふにりながらそう口にした。
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