上 下
40 / 50

39.

しおりを挟む


「は?  嫁って、何を言ってるんだ?  お前達はまだ単なる婚約者のはず……」
「もうソフィアは俺の可愛い嫁だ!」  

  マッフィーの野郎の言葉に被せるようにして、ロディオ様は私を抱く腕に力を入れて、またしても私の事を嫁と言う。

  (キュンッ)

  この場をやり過ごすための話だと分かっているのに胸が高鳴ってしまう。
  ……もう、ロディオ様のバカ、バカ、バカ!!
 
「可愛いだと?  そこのソフィアが?」
「あぁ、そうだよ。ソフィア……俺の嫁はめちゃくちゃ可愛い。まぁ、きっとお前には永遠に分からないだろうがな」 

  怪訝そうにするマッフィーの野郎に対してロディオ様はそんな事を言ってのける。

「ふはっ!  なぁ、ロディオ。もう嘘はやめろよ。ソフィアそいつにいくらで雇われたんだ?  無理して嫁だの可愛いだのなんて言わせるなんてさーー……」

  未だに、

  ぎゃぁぁぁぁーー
  嫌ァァァァァァァー
  聞きたくなぃぃぃいーー
  うぉぉぉぉぉーー

  と、会場中の人々が喚き泣き叫ぶ中、マッフィーの野郎だけは騙されてくれない。

「ソフィア」
「……ロ、ロディオ様?」

  ロディオ様がギュッとキツく私を抱きしめる。
  そして、フニッと頬や額へとたくさんキ……モニョモニョを始めた。

  フニッ、フニッ、フニッ

  (うぅぅ……好きだって……自覚した人にこんな事をされて、もう平気な顔なんてしていられないわよぉぉ)

  どんどん、自分の顔が赤くなっていくのが分かる。

「はは、ソフィア……うん。俺の嫁は最高に可愛いな」
「!?」

  ロディオ様はうっとりとした顔でそんな事を口にすると、 

  フニッ!  フニフニ……

  片方の頬にキ……モニョモニョをしながら、反対の頬は軽くふにって来た!

  (何で同時に攻めるの!?)

  ロディオ様は私をどうしたいのか、さっぱり分からない……

「な、何やってんだよ!?」
「……お前が嘘だとか言うからな、全力で可愛い可愛い俺の嫁を愛でてみた」
「はぁ?」
「……俺の嫁、可愛いんだよ。さっきも言ったがきっとお前には一生分からない。まぁ、ソフィアは俺の可愛い嫁だからお前には一生分からなくていいんだが」
「なっ!」

  フニフニフニフニフニフニフニフニ……

  フニッ、チュッ

  ロディオ様は“俺の嫁”を連呼しながら、これでもかと私に触れてくる。
  
  (あぁ……もう、頭の中が、クラクラする)

  今日は女優にはなれそうにない。
  だって酷いわ、ロディオ様。
  こんなに“嫁”だなんて連呼されたら“本気”に思えてしまうじゃないの。
  私はこの恥ずかしさに耐えきれず、ロディオ様の服の袖をキュッと掴みながら声をかける。

「ロ、ロディオ様……」
「どうしたんだ?  俺のソフィアはいつだって可愛いが、そんな今すぐ食べてしまいたいくらい更に可愛い顔をするなんて。今すぐ食べられたい?  俺は大歓迎だよ。よし!  部屋を移動しようか?」

  フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……

「へ?  た、食べッ!?  ち、違っ……コホッ……さ、さっきから恥ずかしいのです」
「恥ずかしい?」
「か、可愛い、とか……お、俺の嫁……とか……です」

  私は恥じらいながらそう伝える。
  マッフィーの野郎を挑発しているだけだと分かっていても、私の胸は破裂しそうなんだもの。

  フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……!

  何故かふにふにの勢いが早まる。

「…………ソフィアさん」
「?」
「君は小悪魔です……」
「はい?」

  小悪魔とはいえ、悪魔呼ばわりされて頭の中がハテナだらけの私に向かってロディオ様は優しく微笑んだ。

「はぁぁ…………本当に俺の嫁は可愛いな……頼むからその可愛い顔を見せるのは俺だけにしてくれ。そこに居るただ喚くしか能のないマッフィーになんて、その可愛い顔を見せてやる必要なんて無いのに」
「ロディオ様……」

  嫌ぁぁぁー
  これ以上は、やめてえぇぇぇーー
  さっきから私達は何を見せられてるのぉぉぉーー
  うぉぉぉぉぉぉーー
  
  なんて喚く令嬢達(?)の叫びも、ただの音楽にしか聞こえないくらい、私とロディオ様が見つめ合っていると、マッフィーの野郎が俯きながらブツブツと何かを呟いていた。

「話が違い過ぎる……何なんだよ……これじゃぁ……」
「…………マッフィー。……これじゃぁ、その続きは何だ?」
   
  ロディオ様がマッフィーの野郎が言いかけたその言葉を拾う。

「っ!  な、何でも無……」
「何でも無いわけないよな?  俺が何も知らないとでも思ってるのか?」
「……は?」

  ロディオ様のその言葉にマッフィー様が固まる。

「お前は俺の可愛い嫁に惚れていて横恋慕しているように装っているが、本当にお前が欲しいのは俺の嫁ソフィアじゃない。金だろう?」
「……っ!」
「ソフィアの……イッフェンバルド男爵家の金が欲しかっだけなんだろう?  マッフィー」
「……」
「だから、お前は……いや、俺の嫁ソフィアの殺害計画を立てた」

  (……お前達?)

  マッフィーの野郎が私を殺そうとしているのは分かっていたけれど、“お前達”ってどういう事?

  ロディオ様のその言葉には、それまで悲鳴だらけだった会場も驚きで静まり返る。

「な、何を言ってるるんだ……俺はソフィアの殺害計画なんて……」
「見え透いた嘘をつくな、マッフィー」
「だ、だから、俺はっ」

  青ざめた顔で反論しようとするマッフィーの野郎に向かってロディオ様は冷たい声で言い放つ。

「どうせ、今もこの場で俺の可愛い嫁の命を狙ってるんだろう?  もう邪魔だから消してしまえ……とでも言われて」
「……!」

  (言われて?  誰に?)

  青ざめた顔のまま動かないマッフィーの野郎を一瞥したロディオ様は、会場内を見渡し、一人の給仕をしている女性の方を見ながら言った。

「なぁ、そうだろう?  そこにいるマッフィーの共犯の女?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~

Rohdea
恋愛
伯爵令嬢クロエの悩みは、昔から婚約者の侯爵令息ジョバンニが女性を侍らかして浮気ばかりしていること。 何度か婚約解消を申し出るも聞き入れて貰えず、悶々とした日々を送っていた。 そんな、ある日─── 「君との婚約は破棄させてもらう!」 その日行われていた王太子殿下の誕生日パーティーで、王太子殿下が婚約者に婚約破棄を告げる声を聞いた。 その瞬間、ここは乙女ゲームの世界で、殿下の側近である婚約者は攻略対象者の一人。 そして自分はこの流れでついでに婚約破棄される事になるモブ令嬢だと気付いた。 (やったわ! これで婚約破棄してもらえる!) そう思って喜んだクロエだったけれど、何故か事態は思っていたのと違う方向に…………

【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea
恋愛
───あなたのお役に立てない私は身を引こうとした……のに、あれ? 逃げられない!? 伯爵令嬢のルキアは、幼い頃からこの国の王太子であるシグルドの婚約者。 家柄も容姿も自分よりも優れている数多の令嬢を跳ね除けてルキアが婚約者に選ばれた理由はたった一つ。 多大な魔力量と貴重な属性を持っていたから。 (私がこの力でシグルド様をお支えするの!) そう思ってずっと生きて来たルキア。 しかしある日、原因不明の高熱を発症した後、目覚めるとルキアの魔力はすっからかんになっていた。 突然、役立たずとなってしまったルキアは、身を引く事を決めてシグルドに婚約解消を申し出る事にした。 けれど、シグルドは──…… そして、何故か力を失ったルキアと入れ替わるかのように、 同じ属性の力を持っている事が最近判明したという令嬢が王宮にやって来る。 彼女は自分の事を「ヒロイン」と呼び、まるで自分が次期王太子妃になるかのように振る舞い始めるが……

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

【完結】どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです

Rohdea
恋愛
伯爵夫人になったばかりのコレットは、結婚式の夜に頭を打って倒れてしまう。 目が覚めた後に思い出したのは、この世界が前世で少しだけ読んだことのある小説の世界で、 今の自分、コレットはいずれ夫に離縁される予定の伯爵夫人という事実だった。 (詰んだ!) そう。この小説は、 若き伯爵、カイザルにはずっと妻にしたいと願うほどの好きな女性がいて、 伯爵夫人となったコレットはその事実を初夜になって初めて聞かされ、 自分が爵位継承の為だけのお飾り妻として娶られたこと、カイザルがいずれ離縁するつもりでいることを知る───…… というストーリー…… ───だったはず、よね? (どうしよう……私、この話の結末を知らないわ!) 離縁っていつなの? その後の自分はどうなるの!? ……もう、結婚しちゃったじゃないの! (どうせ、捨てられるなら好きに生きてもいい?) そうして始まった転生者のはずなのに全く未来が分からない、 離縁される予定のコレットの伯爵夫人生活は───……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

処理中です...