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しおりを挟む───すごい視線!
会場に入るなり一気に視線は私達に集中した。
やっぱりロディオ・ワイデント侯爵子息は、人の注目を集める人なのだと実感する。
(こんな、本来なら手の届かない雲の上の存在のような人を好きになる、とか)
我ながら無謀すぎる。
バカみたいな出会い(にゃ、にゃ~ん)から始まって、ここまであっという間だった。
(全てが終わったらこの気持ちを……ようやく気付いた気持ち、伝えるだけなら構わないわよね?)
よーし! キレイさっぱり振られて、ロディオ様の幸せを願って生きて行くわ!
それを、ただ生き延びる事だけを目指していた私の次の新しい目標にしようと決めた。
「ソフィア……大変だ」
「どうしました? ロディオ様」
ロディオ様がとても深刻な顔して私の名前を呼ぶものだから、私も気を引き締める。
(まさか、もうマッフィーの野郎が……?)
「会場中の男共がソフィアに注目している……」
「え?」
「くっ! いくらソフィアが可愛いからって……! ソフィアは俺のなのに」
(ロディオ様が何やらおかしな事を言い出した……!)
この視線はロディオ様に向けられているものだし、どうしてこの人はモテモテなのに自分の事には疎いのかしら?
よくある物語の主役は鈍感ってやつかしら? とても生き辛そうだわ……
「ソフィア! 君を不埒な目で見てくる男共を蹴散らす為にもここは、いっそふに……」
「えいっ!」
ふにっ!
「……!?」
ふにふに……
「ふふ!」
やったわ! ロディオ様が驚いて目を丸くしてる!
先手必勝ってやつよ!!
ソフィアさんはやられっぱなしではなくってよ!
ふにふにふに……
私が得意顔で、しばらくロディオ様の頬をふにふにしていたら、ようやくロディオ様が動いた。
「……ソフィアさん」
「はい?」
(──ん? ソフィアさん? それにロディオ様の雰囲気が……変?)
「俺は君に言いました」
「何をでしょう?」
私は首を傾げる。
「ソフィアさんは、男心を学ぶべきだ、と」
「え? えぇ、確かにそう言われた……わね?」
男心、前世でも今世でも勉強する事なんて無かったし……正直、考えた事が無い。
などと、考えていたら───
フニッ……
(!?)
だいぶ、慣れ親しんだロディオ様はの柔らかい唇が私の頬に触れた。
フニッ、フニッ……
(どうして、ここでキ……するのぉぉぉ!?)
なんとロディオ様、いつもの手によるふにふに攻撃ではなく、いきなり私の頬へ唇でふにふにという名のキ……モニョモニョをして来た!
きゃぁぁぁぁーーーーー!!
嫌ァァァァァーーーーー!!
うぉぉぉぉぉーーーーー!!
いつかどこかで……少し前に聞いたのと同じような悲鳴が会場中に響き渡る。
あちらこちらで泣き崩れる令嬢……
(うん、この光景もどこかで見た……わ。何でぇ……)
「ロ、ロディオ様! ひ、人前です……!」
「……知っています」
(何故、敬語なの!!)
「ロ、ロディオ様の中では、こ、これは、いつものふにふにの一種と思われているかもしれませんが……せ、世間的にはキ、キスと言われるもので……」
「……知っています」
フニッ、フニッ、フニッ……
(知っているですって!? 知っていてこの人は毎回毎回……!?)
「……だってこれは、もうソフィアは“俺のもの”だという印をつけているんだからな」
口調がいつもの調子に戻ったロディオ様がそんな事を言う。
「……ロディオ様、の、もの?」
ドキンッ! 胸が大きく跳ねた。
(あ! ロディオ様の顔が……近付いて……くる?)
「あぁ、そうだ。ソフィアはもう俺のよ…………」
ロディオ様が私の顎に手をかけ、私の顔を上に向かせて麗しのお顔を近付けながらそう言いかけた時だった。
「おい! 何やってんだよ!?」
あと少しで私達の唇が触れる……というその瞬間にその叫び声が近くから上がった。
「さっきから見ていれば……お前達……ふざけるなよ!? 俺の目の前で何やってんだ!!」
その声の主は怒鳴りながらずんずんとこちらに近付いて来る。
(振り返らなくても誰かなんて分かるわ)
それに、初めて聞いたかも。
ずっと私の前では“僕”だったけれど、本当は“俺”だったのね……コイツ。
「……何の用だ? マッフィー」
ロディオ様はやれやれという様子で、仕方なく応対する。
その際、私を腕の中に抱き込む事を忘れない。
トクン……
ロディオ様の温もりを感じて私の胸が盛大にときめいた。
(じ、自覚するとこうなるのね……恥ずかしいっっ)
いえ、違うわ。前から無意識に私は……胸を高鳴らせずっとドキドキしていた……
(かなり前から好きだった……のかも)
「だから、何やってんだと聞いてるんだよ!」
「可愛い可愛い、俺のよ……婚約者を愛でていただけだ。愛しい婚約者を愛でる事の何が悪い? 部外者は黙っててくれ」
「ぶ、部外者だと!?」
マッフィーの野郎は部外者扱いされて憤慨した。
(部外者……よねぇ、私、マッフィーの野郎とは婚約してないし……)
「ソフィアには俺が先に求婚していたんだ!」
「早いも先も無いだろう。それにお前は選ばれなかったようだが?」
「……ぐっ!」
「可愛い可愛い可愛い可愛いソフィアに選ばれたのは俺だ、お前じゃない!」
「く、くそっ!」
一見、モテモテ~な令嬢の取り合いをしているかに見えるこの会話だけど、金目当ての殺人犯(になる予定の男)と、協力関係を結んだ契約の婚約者という……
(だから、そこの悪役令嬢さん、そんなハンカチを噛んでキリキリした目で私を見ないで頂戴!)
私は視界の端に見えた既に懐かしささえ感じる悪役令嬢、アンジェーラ様の姿にそんな事を思う。
「だから、諦めろ。マッフィー! この可愛い天使のようなソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢はもう俺の………………嫁だ!!」
(……ん? 嫁?)
きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーー!
いやぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁーー!
何今のぉぉぉ、嘘だと言ってぇぇぇぇぇぇぇぇーー!
まだ、結婚しないでぇぇぇぇぇぇーー!
私達のチャンスがぁぁぁーー!
令嬢達の泣き叫ぶ声がますます、強くなる。
この叫び声も以前、聞いたわー……
(嫁……)
婚約者や恋人ではなくて、嫁だなんて。
ロディオ様ったら何でそんな先にすっ飛んでるの……
本気にしてしまいそうになるじゃないの。
(でも、お嫁さんかぁ……そうなりたかったなぁ……なんてね!)
……叶わない願いは置いておく。
とりあえず、マッフィーの野郎が飛び込んで来たので、これでヒーローによる“マッフィー・ミスフリン侯爵子息”への断罪が始まる───
(多分)
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