25 / 50
25.
しおりを挟むつ、つ、ついに来てしまった。
デートの日!
「お嬢様、顔が怖いですよ」
「だ、だ、だって! デートだなんて……何すればいいの?」
自慢ではないけどデートなんてした事ない!
「何すればって一緒に出かければ良いのでは?」
トリアが呆れた顔で最もらしい事を言う。
「そうだけど……!」
「……大丈夫ですよ。お嬢様とワイデント侯爵子息様とのデートなら、いつでもどこでもお嬢様のほっぺたをフニフニさせてあげれば大満足して終わりますよ」
「なっ……!」
(それは、全然大丈夫じゃない!)
「…………それ、デート全く関係ないわよね?」
「……」
トリアはそっと私から目を逸らした。
酷い!
「ソフィア、おはよう!」
フニッ……
家まで私を迎えに来たロディオ様は、もう当然のようにふにふにとセットで挨拶をして来た。
こうなると思っていたので驚いたりはしない。
(……私も慣れたものよね!)
ふふん! どうよ、ロディオ様!
もう、私はふにふにくらいじゃ涙目にはならないわよー……
スリスリ……
(えっ!?)
「!?」
「うーん、ふにふにもいいが、今日はスリスリもしたい気分だなぁ」
ロディオ様は笑顔で私の頬をスリスリしながら呑気にそんな事を言い出した。
スリスリスリスリ……
(ま、まさかの、スリスリ! な、何故なの……)
「~~っ!」
「ん? どうした、ソフィア? そんな可愛い顔をしてプルプル震えて」
「だ、だ、だって……」
「うん?」
スリスリスリスリスリスリ……
(うぅぅぅ……)
「困ったなぁ、デートはこれからなんだが…………そうだ! 今日はこのまま外に行くのはやめてソフィアの部屋でふに」
「さぁ! さぁさぁ、何でもないですよ~! デ、デートに行きましょう、ロディオ様!」
危うく“デートをやめて部屋にこもってふにふにしよう!”とか、とんでもない事を言われるような気がしたので、私は元気よく馬車に乗り込む。ロディオ様は苦笑しながらも着いて来た。
多分、色々バレてる。
(でも、外に行けば、ふにふにもスリスリもしないはずよ!!)
───この時の私は、そう信じてた……
馬車に乗り込むと、ロディオ様は当然のように私の隣に座り、肩を抱いて自分の方へと引き寄せる。
(大丈夫! 知ってたわ! こうなる事を私は知ってた!)
それで、ふにふに攻撃が始ま───……
「俺のソフィアは今日も可愛いな」
「…………!」
スリスリスリスリスリ……
(ま、また、スリスリ!?)
何故かは分からないけれど、今日のロディオ様はスリスリしたい気分らしい。
なら、私はスリスリに慣れるしかない。
(どっちも頬に触られてるのは同じ……はず!)
それに、馬車の中で、ふにふにだろうとスリスリだろうと触れられる事は想定済み!
寝込みをふにふにするロディオ様だもの。二人っきりの馬車の中で私の頬に触らないはずがないと分かってる。
スリスリは慣れなくてちょっと擽ったいけれど、大丈夫……!
「ん? どうした、ソフィア。あ、ふにふにの方が良かったか?」
「え?」
「そうだよな。スリスリばかりではソフィアも不満だよな」
「え!? いや、私、そんな事は全く……」
不思議なのだけど、こういう時のロディオ様は全く聞く耳を持たない。
「ははは! 可愛いソフィア! 照れなくていいよ」
「いえ!? 照れてないですよ!?」
「でも、顔は赤いじゃないか」
「そ、それはー……!」
「ソフィア」
フニッ
「!!!!」
ロディオ様は手、では無く、唇で私の頬にふにふにを始めた。
(何でーー?)
フニッ
更に、二度目のふにっが来た!! もはや絶対止める気が無いと思う。
(これってフニフニとか言ってるけど、ただほっぺにキ……モニョモニョされてるだけよね!?)
「はぁ、本当にソフィアの頬は凄いな……触っても触っても飽きない。何でだろう?」
「……!」
ロディオ様はふにふにという名の、キ……モニョモニョを繰り返しながらそんな事を言っていた。
「……しかし、これからデートで街に行くのにその涙目とプルプル具合はいけないな。他の男には絶対に見せられない」
「だ、誰のせいだと思っているんですかーー! 私だって嫌ですよぉぉ……」
「可愛すぎてほっぺた目当てに誘拐されるかも……」
「そんな阿呆な事を考えるのはロディオ様くらいです!」
そのうち、ロディオ様に誘拐されて侯爵家に連れていかれて毎日その頬をふにふにさせてくれ!
とか言い出しそうで怖いんだけど……
「ははは! 相変わらず気持ちいいくらいハッキリ言うなぁ。さすが俺のソフィア。最高だ」
「最高? 何が最高なんですか? ほっぺた? ほっぺた最高は聞き飽きましたよ!?」
「ほっぺた最高? ははは、ソフィアのその鈍感さは本当に凄いな」
「鈍感?」
「あぁ、でも、可愛いから何でも許せてしまう」
「はい?」
ロディオ様はひたすら大笑いしていて、その後も、ふにふにとスリスリの合わせ技で私を翻弄した。
そうして、ようやく街に着いたので馬車が止まる。
「あ、着いたみたいだね」
「もう、無理ぃ……」
「ソフィア?」
私は既に疲れ切っていた。
やっぱり私はロディオ様には勝てない。心からそう思う。
ぎゃふん! と言わせる道は遠そうだった。
「さ、ソフィア。手を」
「手、ですか?」
馬車を降りたあと、何故かロディオ様が私に手を差し出してくる。
パーティーや夜会でもないのにエスコートが必要なの? と、首を傾げていたらそのまま問答無用で手を握られた。
「いいか? デートではこうして手を繋ぐらしい」
「手を繋ぐ……」
そう口にしたロディオ様は指を絡めるようにして手を握り直す。
(ひぇっ!?)
「ソフィアは、目を離すとフラフラと何処かに行ってしまいそうだからな。こうでもしないと」
「こ、子供みたいに言わないで下さい!!」
そ、そりゃ、確かにこれまで屋敷から外に出たことなんてほとんど無いので、ワクワクドキドキしてるけれど!
「男爵が……」
「お父様が?」
「世間知らずの娘だから、何卒宜しく頼むと……絶対迷子になるから、手を繋ぎ、ふにふにしてでも繋ぎ止めて置いて欲しいと言っていた」
「!?」
私は耳を疑う。
お父様ーー!?
どういう事!? あなたは娘が人前でふにふにされていると噂されても恥ずかしくないのーー!?
「そういう訳で、俺は今日は全力で可愛いよ……ソフィアをふにふにしようと思う!」
「待って! ロディオ様は、いつも全力では無かったと言うのですか!?」
あれが全力では無いとか信じたくない!
そして、全力を知りたくない!
「うーん、どうだろう……?」
「どうだろうじゃありませ……」
フニッ……
ロディオ様は空いてる手で私の頬をフニッとした。
「っっ!」
「ははは! ソフィアはふにふにすると、大人しくなるよね」
「~~!」
「うわぁ、何これ。本当に可愛い……」
フニフニフニフニフニフニフニフニ……
「ロディオ様……街ゆく人がみんなこっちを見ています……」
「うん。せっかくだし、俺の可愛いよ……ソフィアをたくさん見てもらおうか」
「なぜ!?」
フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……
こうして、私達の“ふにふに”しかないデートは開始された。
104
お気に入りに追加
5,006
あなたにおすすめの小説

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~
Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。
美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。
そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。
それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった!
更に相手は超大物!
この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。
しかし……
「……君は誰だ?」
嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。
旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、
実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。
ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、
アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。
しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。
一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。
"醜草の騎士"と…。
その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。
そして妹は言うのだった。
「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」
※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。
※ご都合主義、あるかもしれません。
※ゆるふわ設定、お許しください。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる