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しおりを挟むつ、つ、ついに来てしまった。
デートの日!
「お嬢様、顔が怖いですよ」
「だ、だ、だって! デートだなんて……何すればいいの?」
自慢ではないけどデートなんてした事ない!
「何すればって一緒に出かければ良いのでは?」
トリアが呆れた顔で最もらしい事を言う。
「そうだけど……!」
「……大丈夫ですよ。お嬢様とワイデント侯爵子息様とのデートなら、いつでもどこでもお嬢様のほっぺたをフニフニさせてあげれば大満足して終わりますよ」
「なっ……!」
(それは、全然大丈夫じゃない!)
「…………それ、デート全く関係ないわよね?」
「……」
トリアはそっと私から目を逸らした。
酷い!
「ソフィア、おはよう!」
フニッ……
家まで私を迎えに来たロディオ様は、もう当然のようにふにふにとセットで挨拶をして来た。
こうなると思っていたので驚いたりはしない。
(……私も慣れたものよね!)
ふふん! どうよ、ロディオ様!
もう、私はふにふにくらいじゃ涙目にはならないわよー……
スリスリ……
(えっ!?)
「!?」
「うーん、ふにふにもいいが、今日はスリスリもしたい気分だなぁ」
ロディオ様は笑顔で私の頬をスリスリしながら呑気にそんな事を言い出した。
スリスリスリスリ……
(ま、まさかの、スリスリ! な、何故なの……)
「~~っ!」
「ん? どうした、ソフィア? そんな可愛い顔をしてプルプル震えて」
「だ、だ、だって……」
「うん?」
スリスリスリスリスリスリ……
(うぅぅぅ……)
「困ったなぁ、デートはこれからなんだが…………そうだ! 今日はこのまま外に行くのはやめてソフィアの部屋でふに」
「さぁ! さぁさぁ、何でもないですよ~! デ、デートに行きましょう、ロディオ様!」
危うく“デートをやめて部屋にこもってふにふにしよう!”とか、とんでもない事を言われるような気がしたので、私は元気よく馬車に乗り込む。ロディオ様は苦笑しながらも着いて来た。
多分、色々バレてる。
(でも、外に行けば、ふにふにもスリスリもしないはずよ!!)
───この時の私は、そう信じてた……
馬車に乗り込むと、ロディオ様は当然のように私の隣に座り、肩を抱いて自分の方へと引き寄せる。
(大丈夫! 知ってたわ! こうなる事を私は知ってた!)
それで、ふにふに攻撃が始ま───……
「俺のソフィアは今日も可愛いな」
「…………!」
スリスリスリスリスリ……
(ま、また、スリスリ!?)
何故かは分からないけれど、今日のロディオ様はスリスリしたい気分らしい。
なら、私はスリスリに慣れるしかない。
(どっちも頬に触られてるのは同じ……はず!)
それに、馬車の中で、ふにふにだろうとスリスリだろうと触れられる事は想定済み!
寝込みをふにふにするロディオ様だもの。二人っきりの馬車の中で私の頬に触らないはずがないと分かってる。
スリスリは慣れなくてちょっと擽ったいけれど、大丈夫……!
「ん? どうした、ソフィア。あ、ふにふにの方が良かったか?」
「え?」
「そうだよな。スリスリばかりではソフィアも不満だよな」
「え!? いや、私、そんな事は全く……」
不思議なのだけど、こういう時のロディオ様は全く聞く耳を持たない。
「ははは! 可愛いソフィア! 照れなくていいよ」
「いえ!? 照れてないですよ!?」
「でも、顔は赤いじゃないか」
「そ、それはー……!」
「ソフィア」
フニッ
「!!!!」
ロディオ様は手、では無く、唇で私の頬にふにふにを始めた。
(何でーー?)
フニッ
更に、二度目のふにっが来た!! もはや絶対止める気が無いと思う。
(これってフニフニとか言ってるけど、ただほっぺにキ……モニョモニョされてるだけよね!?)
「はぁ、本当にソフィアの頬は凄いな……触っても触っても飽きない。何でだろう?」
「……!」
ロディオ様はふにふにという名の、キ……モニョモニョを繰り返しながらそんな事を言っていた。
「……しかし、これからデートで街に行くのにその涙目とプルプル具合はいけないな。他の男には絶対に見せられない」
「だ、誰のせいだと思っているんですかーー! 私だって嫌ですよぉぉ……」
「可愛すぎてほっぺた目当てに誘拐されるかも……」
「そんな阿呆な事を考えるのはロディオ様くらいです!」
そのうち、ロディオ様に誘拐されて侯爵家に連れていかれて毎日その頬をふにふにさせてくれ!
とか言い出しそうで怖いんだけど……
「ははは! 相変わらず気持ちいいくらいハッキリ言うなぁ。さすが俺のソフィア。最高だ」
「最高? 何が最高なんですか? ほっぺた? ほっぺた最高は聞き飽きましたよ!?」
「ほっぺた最高? ははは、ソフィアのその鈍感さは本当に凄いな」
「鈍感?」
「あぁ、でも、可愛いから何でも許せてしまう」
「はい?」
ロディオ様はひたすら大笑いしていて、その後も、ふにふにとスリスリの合わせ技で私を翻弄した。
そうして、ようやく街に着いたので馬車が止まる。
「あ、着いたみたいだね」
「もう、無理ぃ……」
「ソフィア?」
私は既に疲れ切っていた。
やっぱり私はロディオ様には勝てない。心からそう思う。
ぎゃふん! と言わせる道は遠そうだった。
「さ、ソフィア。手を」
「手、ですか?」
馬車を降りたあと、何故かロディオ様が私に手を差し出してくる。
パーティーや夜会でもないのにエスコートが必要なの? と、首を傾げていたらそのまま問答無用で手を握られた。
「いいか? デートではこうして手を繋ぐらしい」
「手を繋ぐ……」
そう口にしたロディオ様は指を絡めるようにして手を握り直す。
(ひぇっ!?)
「ソフィアは、目を離すとフラフラと何処かに行ってしまいそうだからな。こうでもしないと」
「こ、子供みたいに言わないで下さい!!」
そ、そりゃ、確かにこれまで屋敷から外に出たことなんてほとんど無いので、ワクワクドキドキしてるけれど!
「男爵が……」
「お父様が?」
「世間知らずの娘だから、何卒宜しく頼むと……絶対迷子になるから、手を繋ぎ、ふにふにしてでも繋ぎ止めて置いて欲しいと言っていた」
「!?」
私は耳を疑う。
お父様ーー!?
どういう事!? あなたは娘が人前でふにふにされていると噂されても恥ずかしくないのーー!?
「そういう訳で、俺は今日は全力で可愛いよ……ソフィアをふにふにしようと思う!」
「待って! ロディオ様は、いつも全力では無かったと言うのですか!?」
あれが全力では無いとか信じたくない!
そして、全力を知りたくない!
「うーん、どうだろう……?」
「どうだろうじゃありませ……」
フニッ……
ロディオ様は空いてる手で私の頬をフニッとした。
「っっ!」
「ははは! ソフィアはふにふにすると、大人しくなるよね」
「~~!」
「うわぁ、何これ。本当に可愛い……」
フニフニフニフニフニフニフニフニ……
「ロディオ様……街ゆく人がみんなこっちを見ています……」
「うん。せっかくだし、俺の可愛いよ……ソフィアをたくさん見てもらおうか」
「なぜ!?」
フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……
こうして、私達の“ふにふに”しかないデートは開始された。
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