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しおりを挟む「う、うちのソフィアは、ちょっと人見知りでちょっと大人しくて、友達もいないような残念……いえ、物静かな子だったのですが、さ、最近、倒れて目覚めてからは、だいぶ明るく活発な子になりまして……そうしましたら、少しハチャメチャな……あ、いえ、それでも良い子なのです! うちのソフィアはこれでも良い子なのです! ですからどんな無礼な事を働いたかは分かりませんが、どうかお許しを!」
「お、お父様……何を言っているの。いいから立って、立ち上がって?」
「だ、だが、ソフィア……ワイデント侯爵子息様が……」
私はお父様にそう呼びかけたけれど、お父様が土下座をやめる気配は無い。
困った様子でロディオ様の事を見ていた。
……な、なんて事なの。
多分、私がロディオ様を連れて来た事で動揺してしまった……のは分かるのだけど、お父様の方こそ言ってる事がハチャメチャよ!?
あと、わりと昔の私に対しても今の私に対しても所々に酷い言い草が混ざっているような気がするのだけど!
これで良い子とはよく言ったものよ。
お父様には私を擁護する気があるの? 無いの?
「……」
でも、今はそんな事よりも。
お父様はペラペラと色々喋ってくれたので、ロディオ様が不審に思わないかの方が心配になった。
(倒れて目覚めてから性格が……とか何事!? と思われてしまうでしょう?)
ただでさえ、私の事をマッフィー様から聞いてた話と違うと言っていた。
私はチラッと横目でロディオ様の方を見る。
彼は真剣な顔で何かを呟いていた。
「ソフィアが……倒れて……? いや、それもだがー……」
ほら、やっぱりそこを気にしてしまっている!
「ロ、ロディオ様! あの、私……」
「ん? 俺は別に性格が大人しくても活発でもソフィアの可愛い頬がふにふになのは変わらないままなんだろうな、なんて思ってないぞ?」
「……え?」
「…………あ!」
「……」
「……」
ロディオ様がそろっと気まずそうに私から目を逸らす。
「もう! あなたはこんな時まで私の頬の事ですか!」
「ははは、すまない。ついうっかり本音が……そんな事よりもー……」
(本音!?)
ロディオ様は困ったように笑った後、直ぐに真剣な表情へと変わる。
「イッフェンバルド男爵、とにかく頭を上げて起き上がってくれ。誤解を解きたい。それと、詳しく話を聞かせてもらいたい」
「ご、誤解? は、話……ですか?」
お父様がおそるおそる顔を上げてロディオ様に訊ねる。
「あぁ。俺の可愛いソフィアが、本日のパーティーで飲食物を全く摂取しなかった理由と、倒れたという話を、だな。そこを詳しく」
「??? ………………俺の……可愛い……ソフィア? ですか?」
「そう。俺の可愛いソフィア」
お父様が目を丸くして首を傾げている。
一方のロディオ様は、背後にとてもどす黒いものが見えそうな程のいい笑顔だった。
「ソフィア。説明してくれ。ワイデント侯爵子息様は我が家に何の用事でやって来た? お前が何か粗相をしたのではないのか? そ、それにだ。ワイデント侯爵子息にとって、か、可愛いソフィアとは何だ、何事だ!?」
応接間に場所を移し、私達は話をする事になった。
腰を落ち着けるなりお父様は私を質問攻めにする。
ちなみに「ソフィアはもちろん俺の隣ね?」とロディオ様にニッコリ笑顔で言われたので私はロディオ様の隣に腰を下ろした。
「あのね、お父様。私とロディオ様……ワイデント侯爵子息様は」
「今日のパーティーで俺とソフィア嬢は互いに一目惚れして恋人になりました」
ロディオ様が割り込むようにしてその先を引き継いだ。
(ひ、一目惚れ!?)
また、新たな設定が出てきて驚く。
でも、確かに今まで交流が無かったロディオ様との交際宣言だもの。一目惚れくらいでないと説明がつかない。
「ソ、ソフィアに一目惚れですと!? ワ、ワイデント侯爵子息様が!?」
「そうだ」
ガシャーン
お父様がちょうど手にしていた飲み物のカップを床に落としてしまった。
そして再び身体をワナワナと震わす。
「こ、この子の何処に一目惚れする要素が……? あ、いや、私にとっては可愛い娘だが……そんな事が起こりうるのか? いや、今、目の前で起こっている……?」
「落ち着いて? お父様」
私がそう声をかけるもお父様の身体の震えは一向に止まらない。
「男爵! ソフィア嬢は、大変魅力的な女性だと俺は思っている」
「ひゃっ!」
ロディオ様はそう言いながら、ぐいっと私の腰に腕を回して引き寄せたので、私はあっさりとロディオ様の腕の中に収まった。
(……何をして!?)
そして、私を腕の中に抱いたままロディオ様は語る。
「ソフィア嬢は、物怖じせず堂々としていて、機転も利くしっかりした性格の令嬢だと思う。でも、考えてる事は顔に出やすいようで見ていて分かりやすい。まぁ、そんな所がたまらなく可愛いと思っているが。それに、少々抜けてる所があり、またそんな所も俺にとっては可愛いくて可愛いくてたまらない。とにかく何もかも可愛いすぎる」
「!?」
お父様の目がこれ以上は、開かないよってくらい大きく見開かれた。
最高潮に驚いている。
分かるわ……私も驚いている。ロディオ様、口から出まかせにも程があると思うわ。
「…………ワ、ワイデント侯爵子息様、今、語られた令嬢は、ど、どこの家のソフィアの話でしょうか?」
「何を言っている? 今、俺の腕の中にいる、この可愛いイッフェンバルド男爵家のソフィアの話だ。ほら、男爵見てくれ。俺の腕の中でこうして涙目でプルプル震えている。可愛いだろう?」
「……えー何故、あなた様の腕の中……に居るのかが全く分かりませんが、今、侯爵子息様の腕の中で涙目でプルプル震えているのは間違いなく、我がイッフェンバルド男爵家の娘のソフィアです……」
「だろう? 可愛い俺の恋人だ」
「いや、で、ですが……」
お父様としては、まだ信じられない様子。
あと、二人共酷い! ロディオ様の腕の中で涙目でプルプル震えているのは誰のせいだと思っているのよ!
(き、急に抱きしめられたのよ? 涙目にもなるわよ! それから、お父様、これは恋人のフリよーー本気にしないでーー)
声を大にして言いたい!
「ほ、本当にあなた様がソフィアと……?」
「あぁ、そうだ」
ギュッ……ロディオ様の私を抱きしめる力が強くなる。
「そんな事が……本当に?」
まぁ、お父様のこの様子は無理もない。まさか娘がこんな(女嫌いで有名な)大物を釣り上げて帰宅するとは思わないものね。
「そうか、ならこうすれば信じて貰えるだろうか?」
「え?」
そう言ったロディオ様は、私の前髪をかきあげると、麗しのお顔を私に近付けて来て……今度は私の額に、フニッとその唇を押し付ける。
「!?」
「んー、やっぱり頬の方がいいかな。まぁ、本当は唇に触れたい所だけど。さすがに今はね」
「!?!?」
ロディオ様は、唇と言いながら私の唇にそっと人差し指で触れる。
ボンッ! 一瞬で私の頬が熱を持った。
「ははは、涙目に加えて顔が真っ赤だ、ソフィア」
「っ!」
「……可愛いよ」
そう言って、ロディオ様は極上の笑みを浮かべるとまた、麗しのお顔を近付けて来て───やはりフニッという音を立てて今度は私の頬に触れた。
「あわ!? あわわ……!?」
何故か突然、娘のラブシーンを見せつけられる羽目になったお父様は、訳の分からない叫び声を上げたまま泡を吹いてその場に倒れ、イッフェンバルド男爵家はちょっとした大騒ぎになった。
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