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  その柔らかいモノはチュッと音を立ててすぐに私の頬から離れた。

  (────!?)

  い、今……私の頬から……チュッて音がした!?
  それに、頬に柔らかい感触が残っている……

  (い、今のは……まさか)

  私はおそるおそる顔を上げる。
  そこには、さっき近付いて来たロディオ様の麗しいお顔があった。
  目が合うだけで胸がドキドキするし、頬がどんどん熱くなる。

「ロ……」

  ロディオ様に今の、キ……モニョモニョを問い詰めようと口を開きかけた時だった。

「ちょっと!?  何やってるのよぉぉぉぉ!?」

  きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーー!
  いやぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁーー!
  何今のぉぉぉ、嘘だと言ってぇぇぇぇぇぇぇぇーー!

「!?」

  令嬢達の泣き叫ぶ悲鳴と悪役令嬢、アンジェーラ様の怒鳴り声に邪魔された。
  どうやら意外と周囲に見られていた……らしい!

  (は、恥ずかしい……!  アンジェーラ様の言う通りよ!  な、なんて事するのよーー!  ロディオ様!)

  そんな思いでロディオ様に視線を向けたけれど、

「……何って俺の可愛い恋人ソフィアの頬を愛でただけだが?」

  何か問題でも?  と言いそうな、しれっとした顔でロディオ様はそんな爆弾発言を投下した。

「!!」
「なっにを言って!  ロディオ様?  あなたはこのような事をする人じゃ無……」
「トンタス侯爵令嬢」

  ロディオ様の声がとても冷たかったので、アンジェーラ様はビクッと大きく肩を震わせた。
  そんなアンジェーラ様の様子を気にする事も無く、ロディオ様はニッコリと笑顔を浮かべる。

  (こ、怖い。笑顔なのに……怖い)

「ソフィアがさ、今回は君を咎めないって言うんだよ」
「はい?」
「意味を分かってるだろうか?  今回だけだ。もし、次、俺の可愛いソフィアに絡もうと言うのなら……」
「……っっ!」
 
  ロディオ様のその言葉を聞いたアンジェーラ様は、青白い顔になり、ひゅっと息を呑んだ。
  そんなアンジェーラ様を見たロディオ様はふぅ……とため息を一つ吐くと、私の腰に手を回して抱き寄せながら言った。

「俺の可愛いソフィアは優しくて可愛くて最高だろう?」
「……そん、なっ!  ロディオ様……あなたは、ほ、本当にそのおん…………彼女を?」

  アンジェーラ様はヨロヨロとその場によろけながら大変ショックを受けていた。
  その様子を見て私はハッとする。
  頬へのキ……モニョモニョに、動揺している場合では無かったわ!
  せっかくロディオ様が、私にキ……モニョモニョしてまで名演技を披露してるのだから私もしっかりしないと!

  周りもこんなに注目しているんだもの!  これは私達が間違いなく“恋人同士”なのだと周囲にアピールするまたとない絶好の機会!

  (私は女優……私は女優)

「……ロ、ロディオ様……」

  私は、既に赤くなっているであろう頬を抑えながら照れ臭そうに呼びかけた。

「どうした?  ソフィア」
「は、は、恥ずかしいです。そ、それに、み、皆様に見られてしまいました……」
「あぁ、ごめん。でも、ソフィアの可愛い頬を見ていたら我慢出来なかったんだ」

  (か、可愛い頬!?)

「……まぁ!」

  ボボボと私の頬に熱がどんどん集まってくる。
  や、やるわね、ロディオ様……返し方があんまりにも自然体すぎて、ついつい演技だって事を忘れそうになるじゃないの。
  私も負けていられない!
  と、私の闘志にも火が着いた……のだけど。

「か、可愛い頬だなんて……恥ずかし……」
「でも、やっぱりこっちも捨て難い」
「へ?」

  私の言葉を遮るようにして、またしてもとんでも発言をしたロディオ様は今度こそ私の頬へと手を伸ばした。
  そう、手を……!  そして───

  フニフニフニ……

「な、何でぇ……?」

  思わずそんな言葉が私の口から溢れる。
  なんと!  ロディオ様は結局、ふにふに攻撃を開始した!
     
  (えーーーー!?)

「…………」

  フニフニフニフニ……

  しかも無言!  今度は無言でふにふにして来るのだけど!

  フニフニフニフニフニ……
 
  耐え切れなくなった私は声を上げる。

「も、もう!  ロディオ様っっ!」
「だって………………だ」
「え?  今なんて?」
「……」

  ロディオ様は何か言ったけれど、声が小さ過ぎて全然聞き取れなかった。
  聞き返しても答えてくれないし、ふにふに攻撃も止めてくれない。なんなのだ!

  フニフニフニフニフニフニ……

  ダメだわ!  さすがにそろそろいい加減に……
  と、言いかけた所で、アンジェーラ様の悲鳴混じりの叫び声が再び聞こえて来た。
  暫く呆然としていたけれどようやく意識が戻って来た様子。

「ロ、ロディオ様!  あ、あなたは、さ、さっきも、そ、そのような事を!!」
「だから、言ってるだろ?  俺の可愛いソフィアの頬を愛でているんだと」

  ロディオ様はまたもやあっさりと答える。そこに恥じらいといった様子は……無い。

  (ロディオ様。な、なんて堂々とした演技なの……!)

  うぅ。それに比べて私は顔を赤くして涙目でひたすら、ふにふにされているだけ。
  なんて、情けないの。

  フニフニフニフニフニフニフニフニ……

「分かるか?  ソフィアの頬は癖になる手触りだし、それに何より可愛いんだ」
「か、可愛いですって……?」
「そうだ。俺にこうされてる時のソフィア。すごく可愛いだろ?  顔を赤くして目も涙目でさ。どっちも癖になる」

  (何……ですって!?)

「なっ!  なっ……ロディオ様、あ、あなたという人は……っっ!」
   
  アンジェーラ様はそのまま絶句した後、その場にパタリと倒れた。
  どうせなら、私も一緒に倒れたかったわ……と思ってしまうくらい恥ずかしかった……


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