【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea

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「ソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢は大人しくて控えめな令嬢だと聞いていたんだが」
「はい?」

  ヒーローはようやく口を開いたと思ったら、そんな事を言い出した。
  
「そんな事を言ったのはマッフィー様ですか?」
「…………まぁな。君に求婚している事までは聞いていなかったが」
「そうですか」

  私が内心で、
  マッフィーの野郎……!  余計な話をヒーローの耳に入れたわね!?
  と、毒づいていたらヒーローは苦笑しながら言った。

「多分、悪い意味では無かったと思うからそんな顔をするな」
「!!」

  ドキッと心臓が跳ねた。
  なぜ、バレたの……?
  
「本当に君は顔に出やすいタイプだな」
「……っ」
「そして、明け透けにものを言うし、君にとっては格上であるはずの俺を前にしても、萎縮するどころか堂々としている」
「えっと……」

  こ、これは、褒められてるの?  それとも貶されてるの?
  真意が分からない!

「どこからどう見ても大人しくて控えめな令嬢……では無いな」
「……ロディオ・ワイデント侯爵令息様のお好みは大人しくて控えめな方でしたか?」

  困ったわ……記憶を取り戻す前のソフィアならともかく、今からそういう女性が好みだと言われても変えるのは難しいのだけど。

  (でも、ヒロインはそういう大人しいタイプでは無かったし)

「そうは言っていない。ただ、噂というものは随分と適当で当てにならないものなんだなと思っただけだ」
「……そうでしたか」

  今までのソフィアを思えば間違っていない話なので、なんと言ったものかって気持ちにさせられるわね。
  そんな事を思い俯いていると、ヒーローが一呼吸置いてから口を開いた。

「……半年だ」
「はい?」
「その契約は半年間なんだろ?  君の話に乗る事にするよ、ソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢」
「え?」

  一瞬、話の内容についていけず、顔を上げたもののポカンとした顔をしてしまう。
  そんな私の様子を見たヒーローは再び苦笑した。

「……はは、君はそんな間抜けな顔もするんだな」
「はっ!」

  (な、なんで笑うのよ!?)

  ヒーローは私を見ながら肩を震わせていた。
  これは明らかに笑っている。そして、どう見ても笑いすぎだと思う。

「見ていて面白いからだな」
「……え?」
「下手な猫の鳴き真似で盗み聞きを誤魔化せると思ったり」
「……ぐっ!」

  (下手って何!?  酷い!  あれは私の渾身の猫の鳴き真似だったのよ!?)

  私は、酷いわ……!  という思いを込めて、ヒーローに向かってキッと睨んでみるも、彼は涼しい顔をしていて、全く効いてる様子が無い。
  それが何だかとても悔しい。

「強情で、物怖じしない勝気な性格なのかと思いきや、案外、考えてる事は顔に出て分かりやすかったり」
「……ぐっ!」
「それでいて、ある意味無謀とも思えるとんでもない交渉を俺に持ってくるほど度胸はあったり」
「~~!!」

  随分と好き勝手な事を言ってくれるじゃないのーー!
  と、思って再び睨みつけようとしたら、ヒーローは私に向かって微笑んだ。

「そんな女性は初めて会ったよ」

   ───!!

「~~っ……!」

  心臓が飛び出すかと思った。
  そ、その笑顔はいけない。本当にいけない。
  多分だけど、ヒロイン以外は見てはいけないものだったと思う。

  (バクバクが治まらないーー)

「ん?  どうかした?  顔が赤いよ。もしかして怒った?  悪い意味で言ったわけではなかったんだけど……気を悪くさせた?」
「ち、違っ……!  あなたのその顔……!」
「顔?  俺の顔が何か?  顔なら今の君の方が……」
「~~っ!」

  そう言ったヒーローは何故かグイッと顔を近付けて来る。
  ───何でそこで顔を近付けるのよ!

「……っ」

  驚き過ぎて私は声が上手く出せなくなっていた。

「……本当に面白いくらい分かりやすいな」
「!?」
「恋人のフリ大丈夫?  出来るの?」
「……や、やってみせますとも!  そ、それよりあなたの方こそ……!」

  私は真っ赤な顔のまま反論する。

「俺?  俺が何か?」
「こ、こんな事を頼んでおいてあれですが、ロディオ・ワイデント侯爵子息様は、じょ、女性がお嫌いという噂が……!」

  そうよ!
  あの告白して来た女性をバッサリと振っていたし、私が女避けになる、という交渉にも乗ってきたのだから女嫌いではあるはずなのよ……!
  なのに、どうして平気で近付くの!

「……あぁ、それか」
「?」

  ヒーローはどこか可笑しそうに笑顔を浮かべる。

「そうだね、噂は間違っていない。俺はなるべくなら女性とは関わりたくないと思っていて、極力避けているからね」
「……」
「まぁ、それでもこうして集まりに顔を出せば、俺の意に反してたくさん寄って来るので困ってる」
「……」

  普通の人がそんな台詞を言えば嫌味にしか聞こえないのに、何となく許されてしまうのは、やはりその顔かしらね?

「だから、君の話に乗る事にしたわけだけど……ん?  どうかした?」
「……女性に触れられて、気持ち悪くなるとか蕁麻疹が出るとか、そういった症状が出るわけでは……」
「無いね。触れようと思えば触れられるよ。自ら進んで触れようとは全く思わないけど」
「……」

  つまり、最初に私に向けて勘違いしたように侯爵夫人の座を狙って近付いてくるような、押せ押せな野心に満ち溢れた肉食獣のような令嬢が苦手……って事?
  そう結論づけていたら、目の前のヒーローがニコッと笑った。
 
  (なに、その笑顔……)

「でも、君みたいな令嬢は、逆に新鮮で面白くて触れたらどうなるんだろう?  とか思ってるよ。例えばこんな風に」
「!?」

  (えぇぇぇ!?)

  そんなとんでもない事を言い出したヒーローは、私に向かってそっと手を伸ばした。

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