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しおりを挟むそのお茶を飲んだ時、あれ? この味はもしかして……そう思った。
だけど、そう思った時にはもう遅かった。
“私”は息が出来なくなってそのまま椅子から崩れ落ちた。
ガシャーン
私が倒れ込むのと同時に飲んでいたお茶のカップが割れる音がする。
(あぁ、大変……)
そう思っても苦しいし、どうする事も出来ない。とにかく身体が動かない。
「誰か! 誰か来てくれ!」
「きゃぁぁぁ、お嬢様! お嬢様が!! 誰かーー!!」
(苦しい……息が出来ない……)
ハァハァ……誰か助けて……
「何があった?」
「お嬢様!!」
「これは? 大変だっ! 医者を呼べ!」
私が倒れた時に側に居た二人が大声で叫んだので、こちらに駆け寄ってくる人の気配がする。けれど意識がどんどん薄れていくせいで、もはやそれが何人で誰なのかすら分からない。
(私、死ぬのかな? 何で? どうして?)
──それに、これは明らかな殺人。
きっと“私”は今、殺されようとしている。
そして、その犯人はきっと───……
「…………が……」
声にならない声を最後に“私”はそのまま意識を失った────
────────……
「お嬢様、ソフィアお嬢様……!」
「っ!!」
その声に私はハッと目を覚ました。
(え? 私……生きている?)
まず、最初にそう思った。
どういう事? 私は助かった? 一命を取り留めたの?
「お嬢様ーー! 良かったぁぁ、目を覚まされたーー」
「……?」
そう言って目の前のメイドの格好をした女性が私に抱きつき泣きついてくる。
(……え? メイド??)
しかし、何が何だかよく分からず頭の中が混乱した。私は抱きついていたメイドを引き離しながら訊ねる。
「トリア……えっとこれはどういう事?」
(あれ? 今、私……)
自然と出てきた自分の言葉に驚いた。
「ぐすっ……お嬢様はお茶会で倒れられたんです……覚えていらっしゃらないのですか……?」
「……倒れた」
「そうですよ」
「……」
私が黙り込むとトリアの表情が強ばる。
「その、非常に言いづらい話ですが……お医者様が言うにはどうもお嬢様は毒を飲んでしまったのではないかと……」
「……毒」
(毒? おかしい。これはどういう事なの?)
ねぇ? これは誰の話?
私は本当に私?
「トリア。鏡、鏡を持って来てくれる?」
「え? は、はい」
そう言ってトリアが手鏡を渡してくれたので、鏡を覗き込み自分の姿を映す。
「!」
私は手鏡に映ったその姿に息を呑み言葉を失った。
「お嬢様、とりあえず私は皆様にお嬢様が無事に目を覚まされたと報告して来ますね!」
「え、えぇ……お願い」
「急いで呼んできます!」
そのままトリアは部屋を出て行った。
トリアが出て行き、キョロキョロと部屋を見回して今、この部屋の中にいるのが自分だけだと分かった私は、ようやく声を上げた。
「誰よ、これ! どういう事?? しかも金髪に青い目って……えぇぇ??」
鏡に映っているのはどう見ても私では無い、私。
これはいったいどういう事なのか。
だけど何故かあのメイドの名前は“トリア”だと頭の中に勝手に浮かんだので、自然とそう口にしていたけれど、メイドのあの反応では間違っていなかった様子。
「この金髪の女性はどこの誰なの?」
もう一度鏡を見る。そしてそこに映る顔をじっと見つめた。
そして、しばらく見つめていると、ふと、この顔にどこか見覚えがあると思った。
「最初にメイドは“ソフィア”……と呼んでいたわよね?」
知り合いでは無いけれど、ソフィアと言われたら思いつく人がいる。
でもそれは有り得ない。
だって、私が今頭の中に思いついたソフィアは現実にはいないのだから。
有り触れた名前、有り触れた容姿。
それでも妙に気になってしまう。
「毒されすぎだわ、私。んー、他に何か情報とか無いかしら?」
そう思って部屋を見回してみても、とりあえず金持ちのお嬢様の部屋って感じしかしない。
この部屋にある物は、お金がかかっていそうな物ばかり。
「お金だけはたんまり持ってそうな家……」
そう、思う事でますます、まさか……という思いが強くなる。
私の知ってるソフィアも金持ちだった。
だからこそ彼女は……
(もしもこの“ソフィア”が男爵令嬢で、名前がイッフェンバルドだったりしたら……)
「有り得ない……そんな事は有り得ない」
私は、必死にそう言い聞かす。
すると、さっきのメイド、トリアが戻って来た。
「ソフィアーー良かったわ!!」
「あぁ、本当に……」
勢いよく部屋に飛び込んで来た女性に抱きしめられる。続けて入って来た男性も私の姿を見て涙ぐんでいた。
(あぁ、この二人はソフィアのお父様とお母様……)
本能がそう言っている。
「し、心配かけてごめんなさい……」
「本当よ……もう」
お母様が涙を流しながら私を抱きしめていると後ろから声がした。
「男爵夫人。気持ちは分かるが診察をしたいので娘さんとの涙の抱擁は後にしてくれないかな?」
「先生……は、はい。そうですね。ソフィアをよろしくお願いしますわ」
そう言ってお母様は私から離れて代わりに先生と呼ばれた人が私の目の前に立つ。
(きっとこの人は医者……それより今、お母様の事を男爵夫人と言った?)
再び、まさかまさかという思いが生まれる。
いえ、偶然よ、偶然に過ぎない。男爵夫人だったからと言って家の名前がイッフェンバルドとは限らなー……
「さて、それでは診察をしよう。ソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢」
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